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雷神トールのブログ

トリウム発電について考える

ワークショップ 第5日

日曜の今日は25年前に書き始めてまだ完成できていない長編小説から始めたいと思います。

*** 「消えたダイダロス」から

1995年12月のことだった。

ジャンヌが和秋に囁いた。「包括的核実験禁止条約を国連で採択しようとしているのよ。フランスはその提唱国のひとつだわ。」

包括的核実験禁止条約 CTBT の提案国でありながら批准直前に駆け込み核実験をしたフランスの是非を巡ってのデベートだった。

デベートは始まったばかりだった。司会者がマイクを手に話していた。

司会者「「一九九六年秋の国連総会を目処に包括的核実験禁止条約が採決されようとしています。フランス語でTICE、英語でCTBTと呼ばれているこの条約にフランスは原則賛成どころか積極的に多数の国の批准を得るようイニシアテイヴを発揮しています。
ただし、フランスは英国とならんで、ある条項をこの条約文中に挿入することを提案しています。
その条項というのは、フランスと英国は、五年または十年というある一定期間毎に、この両国が保有する兵器の確実性と安全性を検証するために、弱い破壊力の爆弾の一連の実験を行う事を許容するという条項です。しかし、この提案は今のところ、提案国だけからしか支持を得ていません。
来年の秋の国連総会で、この条約が採択にかけられるまで、現在ジュネーヴの軍縮会議で交渉が続けられています。
そこで簡単に現在までの交渉の問題点を要約し、その後、実験に賛成と反対の立場の代表から意見を述べてもらうことにしたいと思います。

まず、核実験全面禁止の考え方の基礎は、一九五九年のインドによる発議に遡れます。核のあらゆる形の爆発の完全かつ最終的な停止、つまり“オプションゼロ”を国連で決議しようというのがこの軍縮会議の目的です。幾つかの代表は臨界前核実験をも禁止すべきだと唱えましたが、
核保有国は強く拒絶しました。フランスと英国が現在保有する核兵器の確実性と安全性を検証するための五年か十年毎の実験を容認せよという要求を出した事は、いま申しました。他方、中国は、自国領土上での“平和的な核爆発”を行う権利を要求し、長期に渡り軍縮会議を中断させました。
平和的実験と称するものが軍事的実験をカモフラージュする場合があるので、この中国の要求は最終的には否決されました。
最後に、インドが核実験禁止条約は、核保有国による核の全面廃棄を法的に行わせるスケジュールの受容とリンクさせるべきだと提案しました。
インドはこの要求を条約署名のシネ・クワ・ノン(必要条件)としたために核保有国は断固として反対したのみならず、インドはもしやこのような提案をすることによって核実験禁止条約の法案そのものを廃案に追い込み、インド自身が核武装のオプションの可能性を保持しておきたいのではないかとの疑いさえ抱かせました。
なぜなら、このような条件は核保有国には絶対受け入れられないし、多数決によればこのような条件は余りにも容易に賛成を得られることが明白だからです。」

(注1)

核拡散防止条約 Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons   1968 年調印、 70年発効。日本は70年調印、76年批准、核不拡散条約。略称NPT

1963年部分的核実験禁止条約、大気圏内、宇宙空間、水中での実験が禁止されてから地下で行われるようになった。

包括的核実験禁止条約  CTBT Comprehensive Test Ban Treaty   
一切の実験的核爆発を禁止する条約。1996年国連総会で採択されたが、アメリカをはじめ、一部の国が加入、署名、批准せず、未発効。

*** 小説の続き

デベート会場を出たジャンヌと和秋はジャンリュックの導くままにルーアン大の同好会が使う地下の会議室に入った。

3人の他に5人ほどがすでに会議室に入っていた。ジャンヌは和秋をみんなに紹介した後、和秋にそこにいた5人を順番に紹介した。
「ここはね。あたしたちが常時使える部屋なの。常にここに顔を出すのはこの5人とジャンリュックよ。順に紹介するわ。
グループの中心はアルチュール。その補佐役のゴーヴァン。それに常に影の働きを黙ってしてのけるパーシファル。そう。もう気が付いたわね。
この仲間はアーサー王伝説の人物をそれぞれ任じていて役割も伝説にあるような考えと行動に沿ってるの。

今日はルアーヴルからお客さんを招いたわ。カズといって日本からのお客さんよ。今はお父さんがル・アーヴルで仕事をしていてご両親とサントアドレスに住んでる。ちょうど私たちのメンバーに欠けていた他の土地から来た騎士がこれでできたわね。カズはランスロットになってちょうだい。」

マオリ出身の青年ジャンリュック・ケバウが皆を前に発言した。

「インドが核不拡散条約の署名を拒んだのは理由があるからだよ。インドはウラン固体燃料からトリウム発電へ移行する中間段階でプルトニウムを中心とする発電に力を入れる時代を挟むという三段階の発電計画を持っていて、実現のためにすでに開発を進めてるんだ。

インドは世界の推定埋蔵量の13・3%、846000トンと世界一のトリウム埋蔵量を持っている。インド亜大陸の東に広がる海岸はビーチ全体がトリウムの砂でできている。トリウムがタダ同然で手に入るんだ。子供たちはバケツで砂を掬い集積所へもっていけば小遣いがもらえる。

トリウムはふつう白くて光沢のある石なんだけど酸化すると黒くなる。インドのこの海岸は黒いんだ。砂以外ではトリウムは多くレアアースと共に採掘される。中国はレアアースが豊富なので、トリウムはゴミとして捨てられている。今にこのゴミ捨て場が宝の山になるだろうがね。」

*** 小説の引用終わり

以上は書きかけの長編小説のための覚書です。


ネットで得たトリウム発電の最新情報。中国が今年2021年9月にトリウム溶融塩の液体燃料を使った実験炉の運転に成功した、近いうちに商業化され中国は世界で最初のトリウム溶融塩炉による発電を国家規模で展開することになるだろう。
”China prepares to test thorium-fuelled nuclear reactor”
リンク: https://www.nature.com/articles/d41586-021-02459-w

(ワークショップ つづく)