絵本   「夢」 その②  「釣り堀の怪獣」 | 雷神トールのブログ

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絵本   「夢」 その②

              「釣り堀の怪獣」

 

 

 

 

雪は次第に浅くなりやがて土と石ころと草だけの道になった。
少年が言ったとおり下はもう春だった。日射しが暖かくみのるは着ていたアノラックを脱ぎマフラーも取って片手に持った。
道は二手に分かれ細い方を行くと釣り堀に出るのだった。


「釣り堀にはね、マスのほかにカワカマスやバスがいるよ。大きなカマスは釣り堀が買い上げてくれるんだ。マスを食う悪魚だからね。それに、もしも、ネッシーを釣り上げたとしたら賞金がもらえるんだ」
「ネッシー?」
「ああ。あの有名な。幻のネッシーだよ。この池にはほんとにいるよ。いちど引っかけた人がいたけど逃げられてしまった」
「まず僕にはむりだな。カマスはおいしいだろ」
「カマスを狙うなら錘と3つ針がついた仕掛けを借りるといい。ボクはウキで静かにアタリを待つのが好きだからウキ釣りしかやらない」

そんな話をしながら歩いて行くと松に囲まれた池が見えてきた。人影は無く、中年の太った男が折りたたみ椅子に座って竿を伸ばしていた。池の畔に小さな小屋が建ち開いた窓辺に人影が見えた。

少年が奨めたとおりみのるは大きな錘と3ツ又針がついた仕掛けを借りた。
小屋と反対側の池の端には葦が茂り熊笹が水際に迫り、張り出した松の枝で池の水も薄暗く
水深もあるように見える。
みのるは少年と離れてひとり池の端へ行った。少年はすでに仕掛けを水に入れ静かにウキを見つめているようだった。
あっ、とみのるは声を挙げそうになった。今まで少年とばかり思い込んでいた子供は女の子だった。金髪がオレンジ色の野球帽からのぞいていた。肌は白くぽっちゃりした頬のふくらみが愛らしい。

みのるは視線を水面に移し、仕掛けを投げると深い水底に沈めた。
ぐいっと仕掛けを引くと錘がぶるぶる回転する手ごたえが伝わってきた。仕掛けが空のまま水面に上がると、また深みに投げ入れ引っぱる。その作業を何度も繰り返した。

仕掛けを引きまわし、水から上げ、また遠くへ投げいれたりを繰り返すうち、ずしっと岩にでも掛かったかのように仕掛けが止まり竿がしなった。やがて仕掛け全体がゆっくりと動き出した。ハリに獲物が掛かったのは間違いなかった。すごい重量と抵抗だった。魚にこんな力があるのか? 不思議に思いながら糸を切らぬよう慎重にリールを巻いていった。

とうとう獲物が水面に姿を現した。それを見たとたん、みのるは恐怖に顔を引き攣らせた。
奇怪な、魚類図鑑でも見たことがない、蝦とオコゼの交配種みたいな、そのくせ腹は白くぶよぶよして薄気味悪い。三つ又針のひとつがそこに刺さり、毒液というかどぶ泥のような黒い液体が、裂けた皮膚から流れ出していた。

(つづく )

挿絵にはヴァリアントがあります。1枚目(上)は漫画ふうに、2枚目の絵(↓)は松や笹の葉などを類型化して描いてみました。