アーサー王伝説 最終回 | 雷神トールのブログ

雷神トールのブログ

トリウム発電について考える

連載のいよいよ最終回です。

前回、黒沢監督の「七人の侍」について書きましたので、最終回も映画の話で締めくくりたいと 思います。

アーサー王伝説に基づく映画の最近作は2004年と2017年のふたつがあります。
2017年の「キング・アーサー」はUSA、英国、オーストラリア合作、ガイ・リチー監督。ワーナーブラザーズが制作費1億7500万ドルをつぎ込んだ超大作でした。が、予告編を観ただけでも、巨像が破壊の限りを尽くし、最近流行のやたらめったら爆破と暴力の嘆かわしいバカ場面の連続で、伝説もここまで落ちたか、みてられんわ、てな印象です。さもあらん、興行はまったく振るわず、ハリウッドで最大の赤字を出し、WBは1億5千万$の赤字を計上したとのことです。伝説を使えば必ず当たると安易な考えが辿った末路でしょう。

 

2004年の「King Arthur」はこれと比べるとずっと地味ですが、これまでの伝説を基にした映画と 一線を画し、この連載の3つ前、「アーサー王伝説その⑳」に「アラン族の役割」と題して書きましたが、最近の歴史学上の仮説を大胆に解釈し脚色したもので、それなりに時代ものの味わいがある作品となっています。

 

 

大胆なのは、舞台を中世の騎士道ではなく、古代末期(紀元5世紀頃)にとっていること。古代ローマ帝国が東西に分裂し、うち西ローマが衰退に向かった時期です。

 

円卓の騎士たちも中世の騎士ではなく、ローマ帝国に徴用された騎馬遊牧民族のサマルテア人の騎士でアーサーがその頭という設定です。サマルテア人については後に書きます。

 

USA,アイルランド合作。監督はアントワーン・フークア。配役は、アーサーにクライヴ・オウエン。 ランスロットにヨアン・グリフィズ。グイネヴィアにキーラ・ナイトレイ。

あらすじ:

ハドリアヌスの城壁の北で暮らすローマ人貴族マリウスの息子アレクトを救出せよ、とローマ帝国の最北端の防人である要塞の司令官から命令が下ります。命令を受けたアーサーとその隊員たちは、その日で15年に渡った契約が切れ自由の身になるというのに。自由になる前に最後の使命を果たせとの命令に仕方なくアーサーと仲間は北へ向かいます。

ハドリアヌスの城壁の北には、ブリトン人に反乱を企てるウ
ード。それを率いるメルラン(マーリン)。身体に刺青をし色を塗ったピクト人。さらに新たに侵略してきたサクソン人らがローマの支配を打ち崩そうと戦いを挑んできます。

 

 

ピクト人というのはpictsまたは pictiと書き、彩色されたという意味で、彼らの戦士たちが体に色を塗っていたことからきています。鉄器時代から中世初期に現在のスコットランドの東と北に棲み、367年頃から王国を形成しローマを攻撃しました。7~8世紀に強盛を誇り、843年頃スコットランドの他部族と合し、ケネス・マクアルピンが支配権を握った、とブリタニカにあります。

 

 

 

ブリトン人にとりピクトはやっかいで、最初ピクト撃退のためにサクソン人を雇ったのですが、サクソンもブリトンの土地が欲しいので、敵となり、ブリトン人はサクソンとも戦わねばなりませんでした。

映画ではサクソン人を野蛮この上ない人種のように描いていますが、サクソンの長(王)はイングランド王家の始祖ともいえる初代ウ
セックス王セルデックで、アーサーと一騎打ちをして討ち殺されます。


北へ向かったアーサーの騎馬隊は最初ウ
ードに襲われますが、マーリンの指令で救われやっとのことでマリウスの館に着きます。マリウスはピクト人はじめ先住民にキリスト教に改宗を強い、改宗しない者を地下牢に閉じ込めて拷問を加えています。それを知ったアーサーは、地下牢の壁を壊して囚われていた者たちを解放します。そのうちの一人の女性がピクト出身のグイネヴィアでした。

サクソン人が攻めてくると知りアーサーの一隊は、目的のアレクトを馬車に乗せ、マリウスに囚われていた人々を一緒に連れて決死の逃走を行います。

途中氷結した湖にサクソン軍をおびき寄せ、氷を割って湖に落し溺れ死にさせるのに成功しますが、この時、氷を割るのに決死の働きをしたダゴネットが戦死します。この場面は美しく見ごたえがあります。

 

 

 

 

イネヴィアは弓の名人ですが、拷問で手の指が曲がって使えなくなっていたのをアーサーが治療します。ある晩、マーリンの魔法なのか二人は偶然森の中で出合い、愛を確かめます。

ランスロットはサマルタイ出身の騎士でアーサーとは幼少の頃からの無二の親友です。

このサマルタイですが、紀元前4世紀~紀元後4世紀にかけ、ウラル南部から黒海北岸にかけて活動したイラン系遊牧民集団です。この中から、アランという名の遊牧民が強大になります。漢文史料には「阿蘭」と出てきます。

考古学的に2世紀から4世紀に於ける黒海北岸の文化を「後期サルマタイ文化」と呼ぶそうですが、この文化の担い手がアランでした。

アランは後に、フン族の大移動期に、ドナウ河流域から北イタリアに侵入し、一部はガリアに入植しました。さらにその一部はバルバロイを統治するためにローマ人によってブリテン島に派遣された、ということです。

アーサーとその仲間の騎士はアレクトを無事ハドリアヌスの要塞に届け、晴れて自由の身になります。しかし、サクソンが要塞に攻め寄せるとわかり、アーサーはただ独り、ローマの地方部隊の指令官の徴である金色の鷲の形の軍旗を掲げ、丘の上に立ち、去ってゆく仲間を見送ります。

晴れて契約を完遂し自由の身となった、ランスロット、トリスタン、ボース、ガラハッド、ガウェインですが、長年生死を共に戦ってきたアーサーがただ独りサクソンとま見え討ち死の覚悟を見せているのを見て、騒ぐ血を抑えられず、ひとりひとり覚悟を決めて視線を交え、結局は全員がアーサーの許に駆けつけます。

イネヴィアも弓隊を率いて駆けつけ、マーリンも反乱軍を率いてアーサーの味方に馳せ参じます。

攻め寄せるサクソン軍に対し城砦側は、油を含ませた藁の塊りや溝に火を点けて対抗し、騎馬隊は少数ながら散々にサクソン軍を翻弄します。

サクソン軍を率いるセルディックにトリスタンが殺され、ランスロットがセルディックの息子シンリックと相打ちで命を落とします。そして、アーサーとセルディックの一騎討ちとなり、激しい戦いの末にアーサーはセルディックを倒し、勝利を収めるのでした。

平和が訪れた後、アーサーとグ
イネヴィアはストーンヘンジが立つ聖地で結婚式を挙げ、アーサーは王となります。ストーンヘンジの場所は結婚式を挙げる場所じゃない、との批判もあります。

題名の「King Arthur」 ですが英語の King はサクソン起源だそうです。敵だったはずのサクソンの言葉を王として使うのはおかしい、との指摘があります。

 

まあ、伝説は史実とフィクションとが入り混じって、そこがまた面白いのですが、物語を楽しみながら歴史を知る、という効能がありますね。

 

「聖杯探求」についてまだ書き足りない気がしますが、グラアルと多少関係がある「カタリ派」について次の連載をしようか、と思っています。では、この辺で、「アーサー」とは一旦お別れします。

 

    (´_`。)