夢に現れた高原の湖 | 雷神トールのブログ

雷神トールのブログ

トリウム発電について考える

電車の中。どこかの高原の駅に到着し、乗客のほとんどが、座ったままでいる老人の肩に触れるほど通路にひしめきあって降りてゆく。

 

 

 

急に人気がなくなった車内に独り座り続けていると、やがて電車はゆっくりと動き出し、ほんに短い時間走ってから停まった。ここが終点の駅らしい。電車を降り山道を歩く。独りだけかと思っていたが、他の車両から乗客は降りて来て老人と同じ方向へ歩いてゆく。山の小道には14・5人ほどがあるいは小声で話しながらあるいは老人のように無言で歩いている。

 

前方に靄に霞んでなにやら山の自然物とは違った大きな構築物らしいものが、薄いブルーのどうやら水らしい水平な直線を前にして浮き上がっているように見えた。……海かな? いや水らしきものは波がなく鏡のように平らで静かだ。

 

近づくにつれ靄が薄れ、不思議な雰囲気を伴ってその光景が徐々に姿を現してゆく。

水は山の上の湖なのだ。

湖の上にいくつも並んでいる構造物は建物のようでもあり船のようにも見える。靄が濃くなり薄くなるにつれて構造物もぼやけたり明瞭になったり、あたかも動いているように見える。

構築物はどれも四角や三角や台形の幾何学的な形の組合せで、立体感が無く、平面的で白っぽいブルーやグレーに塗られている。遠くからだと全体がどこかで見たことがある抽象絵画のように見えた。その不思議な光景に老人は魅惑され溜息を吐いた。

近づくにつれ、山の湖は姿を明らかにし、浮かんでいた一艘の茶色い船が湖面に船首を突っ込んだかと思うと見る間に沈んでしまった。

岸辺には数人の旅行客が老人と同じようにその光景に見惚れていて、老人はそのうちの一人の青年と親しげに言葉を交わすのだった。

「きれいだね」

「ええ。とても……。幻想的ですね」

足元を見ると岸辺には白い泡が帯状に厚く重なって打ち寄せている。

「これ、どこか近くの工場の廃液?」

「パルプ工場がこの辺にあるのかな?」

「パルプだとヘドロはもっとひどいだろ」
老人と青年はそんな言葉を交わした。

 

帰路について山道をゆく老人は悲しげにうつむいてとぼとぼと歩く。時に悲嘆にくれて顔を覆いさえする。

老人は日本にはもう帰らずフランスに帰化しようかと考え始めている。

老人はその日の午後、平昌オリンピックのフィギュアスケートをテレビで観たのだった。
日本の羽生選手の演技に老人は日本の若い世代がすっかり変わってしまったことに驚き、幻覚を見ているような錯覚すら覚えたのだったが、夢に出てきた湖の色は、そのときの羽生選手が身に着けていた星の王子様みたいな衣装の薄いブルーだな、と思い至った。

 

老人が若かった頃の日本はひどい公害で、そこらじゅうの河川と海がヘドロで汚れていた。
老人はある日、電車で静岡の海岸へ行き、ヘドロの実態を視たことがある。

半世紀近く経った今、日本は公害防止に力を注ぎ、世界のどの国よりも水が綺麗になった。

日本の国籍を捨てることを考えている老人は、こんなに美しい湖がある日本へ帰れなくなる我が身を哀れんだのだった。

 

 

           。:゚(。ノω\。)゚・。