組立ラインのもう一つの特徴は、ラインの脇に並んでパーツが置いてあるラックです。それとラインに沿って上空に張り渡してある「ヒモ」です。
めのおが働いた自動車会社の母体は織機メーカーにあります。難しい自動車生産の創業には自動織機を発明した父親の支援がありました。
小学校の教科書にこの自動織機のことが出て来ました。日本で自動車生産を始めた工場の生産ラインに、自動織機の特許が引き継がれたのでした。
引き継がれた発明はどんなに複雑なものかと想像しがちですが、クルマの組立ラインに現れた形はなんと単なる「ヒモ」です。
エア・インパクト・ドラーバー用の高圧エアーのチューブと平行にラインの上空を一本の「ヒモ」が走ってます。
自動織機は機織り機ですが、布を織る最中に糸が切れては品質に問題が出る。糸が切れたら自動的に機械が停止するような機能を織機に持たせて設計したのが特許となりこの会社の自動織機は海外に輸出されたのでした。
クルマの組立ラインの「ヒモ」ってどんな役割があるんでしょうか? これはちょっと特殊です。西洋のメーカーでは考えられない思想が籠められてます。
あるいはこのヒモに最も端的に日本的生産方式の特徴が表われてるかも知れません。
西洋のメーカーでは、ラインに入って作業するオペレーター(ごとき)がラインを停めるなど、絶対あってはならない、僭越行為と見做されていました。
タブーというか、労働者は上司の指示どおりのことを言われるままにやってればいい、ましてやラインを停めるなどもってのほか、と考えられていました。
しかし、ラインの実態をいちばんよく知ってるのはラインに入って作業してるオペレーターだという現実を認め、ラインを停める権利をオペレーターにこの日本のメーカーは与えていたのです。
不具合が生じたら隠したり誤魔化したりしてワークを送り出すのではなく、その場で完全に処理をした上で流す。オペレーターは自分の手に余る不具合と直面した場合、チーム・リーダーあるいはグループ・リーダーを呼んで処理をしてもらう。その時に引っ張って合図をするのがこの「ヒモ」です。ラインは一時的に停まります。
ラインを停めてでも不具合を完全に治してから進める。これが「品質の造り込み」という思想です。
ヒモを引っ張るとブザーが鳴りランプが点滅して不具合を知らせる。チームリーダーが走って来て不具合の解決の手助けをする。
タクトタイム内で解決できる場合もあればできない場合もある。組立ライン内の不具合はどんなに重症でも大抵は5分もあれば解決できる不具合なので、ラインを停めても処理をしてから流した方が、組み終わって他の部品に隠されてしまった後で直すより時間の経済になる、という合理思考にもよると思いますが、なにより品質を重んじるというメーカーの基本思想がこのシステムを生んだと思われます。
「現場の第一線で働く人たち」をまず一番に尊重するという姿勢は「日本的生産システム」に共通し一貫して示されていると思います。
パーツが取りやすい形で置かれライン脇に沿って並んでる棚=ラック。これもたいへん重要なので、めのおも外部の研修施設で日本人トレーナーさんの訓練を受け研修を終えた若いフランス人のオペレーターと一緒に初めて工場内に入り、納期遅れでまだ工事中の組立ショップで日本から送られてきたパイプを使って自分たちでラックを組み立てた。その時の楽しくも苦い経験を交えて次回に書いておきたいと思います。
ヘ(゚∀゚*)ノ