フランス大統領選 その2 マイノリテイー代表の得票 | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える

さて4月23日の第一回投票は全部で11人の候補者を巡って投票が行われたが、その3日前、4月20日(木)には候補者全員を集めてのテレビ討論会が行われた。

 

Debat (デベート)と題されていたが実際は一人ひとり個別にキャスター2人を前にして平等に配分された持ち時間内に所信を表明する形をとった。

これは思うに第一回のデベートを討論会形式で行ったところ、一人の候補者が話している最中に横槍がなんども時には複数によってなされ視聴者にとってははなはだ聴きにくい結果に終わったことへの反省から個別の演説形式をとったのではと推測される。

 

フランス人の討論は往々にして同時に複数が発言し聞くに堪えないものに
なってしまう。取り分けFN(ル・ペン女史の政党)関係者はほとんど他の発言を遮り自己主張を通そうとする。

途中からテレビを点けて視たのでごく一部の候補者のスピーチしか聴かなかったが、幸いマクロンとフィヨン候補の話は聴くことができた。

 

興味を引いたのはキャスターが若い頃の写真を見せて「この頃すでに大統領選に立候補しようと考えていたか?」と質問し、も一つ「選挙運動を終わって後悔することはありますか?」と、二つの同じ質問をそれぞれの候補者にしたこと。

マクロン候補は「演劇を目指していた」と一つ目の質問に答え、二つ目には「アルジェを訪問した際、植民地支配は人道に反する犯罪だ」とアルジェリアの政府要人を前に発言し物議をかもしたのだが、自分の発言が「アルキー Harqui 」など独立戦争の際にフランス側について戦ったアルジェリア人の心を傷つけたこと」と答えた。

フィヨン候補も政界入りしたのは偶然が作用したと答えた。20歳を超えたばかりの若蔵をよく選んでくれた、とサルト県のある町が市長に選んでくれたことに感謝していた。それが政界入りのきっかけとなった。

さて、20日のテレビ討論、というよりは昔日本にあった「立ち合い演説会」みたような番組の最中に、シャンゼリゼでまたも自動小銃による攻撃があり警官一人が死亡、二人が重傷を負い、通行人一人が負傷、犯人はその場で射殺された、とテロのニュースが飛び込んだ。個別表明が終わった後、全員がステージに立ち、ひとり2分ずつ「テロに対する考え」を述べた。

ル・ペン女史は公安の「Sリスト」に挙げられている者は全員国外追放、ダエッシュ(イスラム過激派、IS)と接した者はフランスへの再入国を認めず国籍を剥奪すると表明。

フィヨン候補は共和国に弓を引く(銃を放つ)者は国籍剥奪、これはパリ・コミューン(だったか人民戦線だったか記憶が定かでない)で決められた法律。

マクロン候補は「リスクゼロはあり得ないので、ダエッシュ対策専門のタスクフォースを組織し首相直轄とする」と述べた。



フランスの大統領選が面白いのは、大物政治家(今回は5人としよう)のほかにマイノリティーの代表が立候補して思想信条を述べる。そういう機会がちゃんと与えられ、500人の署名を集めさえすれば大統領選に立候補することができる。マイノリティー代表は毎回数人居て、その人たちの意見を聴くことはとても面白い。

ある評家はこれは「フランス人の詩人的な、また地中海的な気質」の現れと言っていたが、必ずしも現実性、実効性がなくとも意見を述べる、自己主張をするそのこと自体に価値があると考えている人が多いことの証左だろう。

日本では「泡沫候補」などと蔑称じみた呼び方を昔はしていたが、フランスのマイノリティー代表たちは決して一回限り「現れては消える」海面の泡のような存在ではなく、今回も2度目3度目の立候補で、自己主張に対する執念はじっさい尊敬に値する。

23日はリヨン、ニースなど一部の都市では投票締切りが夜8時と遅かったため、開票結果の確認が翌日になったが、上位5人を除くマイノリティー代表が得た得票結果を下に記します。

ポン・タニャン Dupont-Aignan、 「Debout La France 」(フランスよ 立ち上がれ) 4.7% 

ジャン・ラサル Jean Lassalle、「Resiston」(抵抗しよう) ラサル氏は羊飼いの息子で農民代表 1.21%  435,361 票

フィリップ・プト
ー Philippe Poutou、「Nouveau Parti anticapitaliste 」(反資本主義新党) 1.09%  394,582 票

フランソワ・アスリノー Francois Asselineau、「Union populaire Republicain 」(共和主義人民連合)0.92%  

ナタリー・アルトー女史 Nathalie Arthaud  「 Lutte ouvrière 」(労働者の闘い) 0.64%

ジャック・シュミナッド Jacque Cheminad  「 Solidalité et Progrès 」 (連帯と進歩) 0.18%   65,598 票


最下位だったシュミナッド氏は72歳過ぎた温厚そのもののお年寄りだが、カルチャー、文化活動に対する予算がここ30年来減り続け、最近は演劇、コンサートなど予算が無いため悲惨な状況に陥っている。フランスのかつての演劇、映画、音楽など文化の領域で活性を取り戻すため、軍事予算と同じ国民総生産の2%を充てるべきだと主張し筆者の共感を呼んだが、惜しくも最下位に終わった。

ほかにもフランスは海外派兵を止め、スイスやスエーデンのように永世中立国を目指すべきだ、との主張も注目に値した。

マイノリティー代表は大まかに分けると、中道二人、右派二人、左派二人といった構成になる。


さて昨日の投稿につなげると、メランション候補がマクロン候補への投票呼びかけをしなかったことに驚きを隠さなかった評家が多かったが、今日(28日)のニュースでは、リール市長で週35時間制の提案者、社会党党首を務めたこともあり今回敗北したブノワ・アモンの師匠格のマルチンヌ・オーブリ女史はメランションとの面談で、ふたりともマクロン支持を訴えないことで合意したという。

このふたりの背後にはそれぞれ既存の社会党と共産党が控えているので、既存の党の存在を脅かすマクロン候補のニューレフト・リベラル路線を手放しで称賛・支持はできないということを意味するだろう。

メランション候補は「la France Insoumise 」(不服従のフランス)という左翼集団のリーダーで共産党がこれを支持している。党首として委任されてはいないので、と決選投票の候補者支持を鮮明にしない事の言い訳をしていた。ヨーロッパ議会の代議員で元フランス語の先生だったこともあり雄弁で聴衆を引き込む強さがある。第一回投票の途中から急激に票を伸ばした。

しかし、オーブリ・メランションの申し合わせによりマクロン候補の得票が予想より下回り、ル・ペン候補が得票を伸ばすことになるだろう。

開票結果が公表された後のテレビ番組で、メランション候補の選対部長に向かい、環境派のセシル・デ
フロ女史が「どうしてマクロン支持を表明しないのですか? ル・ペン候補が勝ったら取り返しがつかないことになるわよ」と迫る場面があった。

(つづく)