日本的生産方式、改善について その⑬ | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える

あとになって分かったことですが、P女史は、通訳が他のショップでは問題が多くて手助けが必要な状態だから、オペレーターに混じって作業を手伝う暇があったら、他のショップへ行って助けて欲しいと言いたかったらしいのです。

2か月間、車で30分ほどの別の街へ行っていた僕にとっては他のショップの事情など全く知らず、ちょいとヒマができたすきに手助けに行くなど片鱗も頭に上りませんでした。僕にとっては組立が配属された部署で、すべて製造部門の指示に従っていたので、アドミに所属してることなどまったく忘れてた、というより知らないも同然だったのです。

P女史は、通訳という分掌の中でブレークスルーを考えていたのであり、僕は事務と製造との壁を乗り越えてブレークスルーすべきだと訴えたかったのでした。
P女史とのミーテングの席での口論は、組立課長として副工場長くらいの力があった日本人課長さんのとりなしで、それ以上、角が立たずに済んだのでした。

もう少し後になって分かったことがあります。会社としては常に通訳の数が多すぎる。最大時30名を超えていたのですが、多いので減らせという指示を与えていたようです。これは会社創設者のファミリーネームの御曹司が工場を視察に来た時にも周囲に言ったと聞いて分かったのですが、英国、アメリカにも製造工場を数十年前から持っているこの会社のことですから自然、そことこことを比べるのではないか。英国工場ではずっと少ない数の通訳が、複数のショップを掛け持ちしてあちこち走り回ってるぞ、とグループ長が言うのも聞きました。

でも、英語圏とフランスの工場を比較して頭数だけで判断するのは間違ってると思いました。英語なら、日本の支援工場から来たトレーナーさんだって少しは喋れる。現地のオペレーターの言うことを半分以上は理解できると思います。でも、フランスの中学では英語を全員に教えません。hose などごく簡単な単語でさえ理解できないオペレーターがたくさんいるんです。日本から6か月単位で長期出張してくるトレーナーさんにしろ課長さんにしろ、短期間でフランス語を理解し話せるようになれ、またそれが出来る筈と考えるのには無理があります。フランス人の課長たちは英語が出来ることを条件に採用されていましたが、彼等が日本人の経営陣が英語で説明することを、フランス人の部下たちにフランス語で説明するにも限界があるし、末端まで伝わらないと思います。

日本語とフランス語の橋渡しをする通訳の役割が、とりわけ工場立ち上げ時点では重要でした。最初5・6人しかいなかった通訳を絶対的に不足してるので業務やスケジュールに支障が出ると経営側に訴え、ネゴして追加の通訳募集に踏み切らせた中にP女史も居たのでしょうね。

ふたつの非常に違ったカルチャーが、工場の中の労働というごく単純に見える活動にも表れ、時に激しくぶつかったりしました。通訳はふたつのカルチャーの両方を理解できる立場にあります。日本人通訳とフランス人通訳では、どちらかに偏りがあるのは当然でしょうけれども、ふたつのゾーンの間に立って仲立ちをする。

数十人の前で通訳する時も、通訳は孤独で記憶と経験を頼りに頭と口を徒手体操の平均台や吊り輪のように動かしながら、瞬時に言葉を探り出し訳さねばなりません。正しい訳をしてるか否かはひとえに通訳の良心にかかっている。なにかトラブルがあると製造部門から真っ先に通訳が間違ったんじゃないかと疑いをかけられます。良心にかけて常に最良の翻訳をするし、そのために毎日研鑽に励まねばならないのは言うまでもないことです。

組立ショップの通訳として僕より先に日本女性が一人いただけでしたが、やがて2人3人と追加され、最盛時は5人になっていました。まだ外部の訓練所に居た頃、僕の後に入って来た女性は「インタープレターなんだから自分が解釈した通り多少間違ってもかまわないんだ」と極端なことを言います。どんな訳し方をするのか、あまり重要でない話の訳を任せてみると、自己流の解釈で、あることないこと、とんでもない方へどんどん発展させてしまうのでした。彼女は日本人と中国人との混血で長くフランスに住んでフランス語が出来るので採用されたのでしょうが、工場の現場で使われる技術用語を理解していない。現場の仕組み、設備とか仕事の内容の理解が出来ていない。

技術用語を知らなくても、何の設備でどんなことをやるのか内容を理解してさえすれば自分の言葉で説明し分かってもらえる。通訳としては単語を知ってることよりもむしろそっちの方が大切だと思います。現場の事象を理解してなければ、どんなにフランス語が出来ても通訳として役に立ちません。

技術用語といっても現場の通訳は、科学文献の翻訳とかラボの通訳じゃないですから、大半がジャルゴンjargon=仲間うちだけでしか通用しない特殊用語、「隠語」みたいなもんですね。それがどんな内容を意味してるかは体験を通じて理解でき、また体験するしかないんじゃないかと思います。

どんなに学校で日本語の成績が良かったとしても、「おっかあ」を理解できないとか「ワッシャー」ってなんだか知らないとか、「あかん」てなんだとか、「どづく」なんて表現も、その場にいれば表情や状況で理解できる筈が、習わなかった、知らないにこだわると、そんな単純なことさえ通訳できなくなってしまうんです。

もひとつ、ブレークスルーに関して感じたことを、今ここで書いてしまいます。日本的生産方式をやろうとしている製造工場で仕事する人に知ってほしいこと、そして二つの言語の仲立ちをする通訳にとっても関係があることは、「技術には製造技術と生産技術の2種類がある」ってことなんです。

自動車工場など、大きく車体、塗装、組立と3つ(車体をプレスと溶接に分ければ4つ)、全く別の工場と考えてもいいくらい違った技術を使っている。したがって技術用語も違う。これは製造技術で、それぞれ非常に奥の深いものがあり、技術的な理解を伴ってはじめて良い通訳ができる。

これに対して、生産技術、いわゆる日本的生産方式の基本は、どのショップにも共通です。いかに在庫や手持ちや不良品のムダを無くし、不具合が出てラインを止めるムダな時間を減らすかが主要な観点ですから、ショップごとの初歩的な製造技術を知ってさえいれば、どのショップへ行っても通訳は出来ることになる。

このことを製造部門の人も、アドミの通訳担当の人も理解してないと感じました。だから、会社のトップ、御曹司が来て、通訳が多い気がするな、と一言いえば、減らせと下に命じる。これって命令されたらやる。なにも考えず、命令に従っただけですと裁判で主張したナチスの戦犯たちに似てませんかね?!!


  (つづく)

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