連載小説 「異土に焦がれて」 71 | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える

第六章

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 啓は、数日考えた末、ロロザの家を再度訪問した。

「この二枚の絵、あの大学総長や青山って骨董屋が必ず高く買う自信が僕にはあります。

あの連中に知らせます……。写真と一緒に」


 ロロザは仕掛けた罠に獲物がかかった猟師のような笑みを浮かべ頷いた。


 啓はその小さな絵を明るい場所へ移し、持ってきた小型カメラで撮影した。額と絵のサイ

ズを正確に計算できるよう、用意してきた五センチの長さの粘着テープに目盛を入れたもの

をロロザに気付かれぬよう額に貼り付け写真に撮った。モジリアニのデッサンも同じようにし

て撮った。


 写真はスライドで撮り、スクリーンに映して線をなぞる練習を繰り返したうえで、線描きの

スピードに習熟し、デッサンすれば、本物そっくりなのがきっとできる。


 藤田の小品はキャンバス地ではなく板の上に描かれていた。サワラ材なら、どこの日曜大

工の店にも売っているので、七ミリ厚の板を買い、写真に写った粘着テープから計算したサ

イズに切った。額の開口部のサイズは計算できるが、裏の溝の幅は推測するしかない。入

れ替える時に複製が大きすぎて入らないと困るので、額の縁に隠れる絵のシロを天地左右

とも三ミリと決めた。


 板の表面に木目や凹凸が出ないよう下地を施す必要があった。アンナと出会った画材屋

でジェッソというクリーム状の下地剤を買い、刷毛で縦横に塗り、乾かしてはまた塗って表

面を滑らかにした。仕上げの最後の層にはオーカーの色素を入れて塗った。


 面相筆がないので藤田独特の細い線を引くのに苦労した。写真をもとに細心の注意を払

い、乾燥の時間を除き、毎日十時間以上、複製画作りに打ち込んだ。絵のサイズが小さい

こともあって、二週間で完成することが出来た。


 啓はそれから二通の手紙を書いた。一通は経綸大の総長と理事長に宛て。もう一通は青

山に宛てた。


 経綸大には、ソルボンヌの名誉博士号取得を確実にする為に、もう一押し、ロロザが喜ぶ

ような作品を購入されるのが賢明と存じますと書いた。青山には、お話し下さったとおりの

チャンスが来ました。大きな商売をなされたいのなら、レンブラントを購入するチャンスです。

しかし億を超える品ですから、もっと確実な仕事なら、藤田の小品がうってつけです。その小

品の写真を同封します。日本人画家藤田の小品を日本に戻してやりたいと私は望んでいま

すと書いた。


 やがて、経綸大の理事長からこういう内容の返事が届いた。


                  *  *

 政治家N氏からはすでに博士号取得の保証を頂いています。ロロザ氏から前回ご持参の

全作品を買い上げ、充分な報酬をお支払いしてあるとN氏も太鼓判を押されています。


 同封の写真をもとに調べたところ、この小品は、藤田画伯が晩年、君代夫人と二人で住ん

だパリ郊外のヴィリエ・ル・バクルのアトリエで描かれたものと、君代夫人の証言がありま

す。日本から来た男に、皇族のために壁画を描いてほしいと言われ、関係者に絵を贈る必

要があるので、数枚頂けないだろうかと乞われた時に渡した物の一つだと言うことです。皇

室と聞いて藤田画伯は小品を三枚男に与えたそうですが、それから何年経っても、男から

連絡は無く、壁画の話は嘘だと悟った、というものです。


 私どもは藤田画伯が騙し取られた絵を買い戻し、コレクションに加える積りはありません。

この絵の本来の持ち主は君代夫人でしょう。ただ夫人は、この絵を買い戻す財政的余裕が

無いと聞いております。


                  *  *

 理事長が手紙の末尾に「追伸」として書いてきたことが啓の注意を引いた。

                  *  *

 近頃政治家のN氏が、自分の口利きで、あの大学総長が名誉博士号を貰うと吹聴し回る

ので困っております。先日、お願いした論文の翻訳は、捗っておりますでしょうか?


 このようなことが、今後も続きますと、大学は評判を落とし、総長の名誉を傷つけ逆効果に

なりますので、名誉博士号の件を見送ることもありえます。その場合も論文の翻訳料はお

支払いしますので、ご安心のうえ完成くださるようお願いします。


  (つづく)


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