「注文したいんだけど、何日で入荷するの?」
まず納期を訊いてちょっと戸惑った。3週間かかるという。いま工事中だし、夏のうちに左官工事は終えないと寒くなってからじゃモルタルがくっつかなくなる。
「でも、まあ3割も安いんだし、気長に待つとするか……」
時間が掛かる分だけ安いんだからと発注を決めた。
左官工事用の売り場は薄汚い感じがして、砂、砂利、瓦や土管、ブロックや、パネルや、セメントなど、動かせば埃が出るし、素手で触れば傷つきかねない危険物もあるので、小綺麗な店内から隔てられ、店の一番奥、屋外の材料置き場と出入りし易い、半ば屋外、半ば屋内といった、薄暗く日陰者扱いの場所にあった。
売り場担当のお兄さんは、まだ学生臭が抜けきらず、カウンターの奥で囚人が狭い独房の中でぐるぐる回りながら考え事に耽るように、こんな場末の日陰者扱いの売り場に回された不運をかこつてでもいるかのようだった。時節は8月のヴァカンス・シーズンで、たぶん、あのお兄さんはヴァカンス期間だけのアルバイトだったにちがいない。
注文したいというと、即座に伝票をとりだし、タイルの置いてある棚へ行って品番を確かめ、数量と単価を計算機に入れて値段を出し、手慣れた手つきで伝票に記入し、愛想笑いさえ浮かべながら切り取った伝票を差し出した。
入荷の日まで他の仕事をしながら待ち、やっと3週間経ったので、車にリヤカーを繋ぎスーパーまで40kmを牽引していった。納期遅れが当たり前のフランスのことだ、リヤカーが無駄になるかも知れないのも承知の上で、まあ、遅れるとしても最悪1週間も待てばと多寡をくくって行ったのだが……。
(つづく)
