ロマン派文学がいい。スタンダールだな。文体は簡潔で無駄がなくリズム感がある。ナポレオン法典を文章の模範とし、モーツアルトの音楽をいち早く認めたスタンダール。
フランスの現代作家、ジャン・ジオノはスタンダールの情熱を引き継いでいる。日本では「木を植えた男」しか知られていないが、フランスではかなりの読者層を持つ。そのジオノの Le Hussard 軽騎兵4部作のひとつ「屋根の上の軽騎兵」。この映画がいい。邦題は「プロヴァンスの恋」となんとも甘ったるいが、革命あり、冒険あり、若き軍人の使命感あり、コレラという疫病との闘いあり、死に瀕した人を命がけで救うというテーマがある。恋はそれらの帰結、避けがたい運命として最後にそれとなく暗示されるだけである。
Jean Giono 原作
映画 日本名 邦題 「プロヴァンスの恋」
出演 ヒロインの貴婦人 ポーリンヌ・テウス ジュリエット・ビノッシュ
ミラノ軽騎兵大佐
カルボナリ党員 アンジェロ・パルデ オリヴィエ・マルテイネス
背景 19世紀南仏 エクスアンプロヴァンス マノスク
あらすじ
オーストリア支配下のイタリーから祖国独立を目指す秘密結社カルボナリ党党員のアンジェロは、エクスアンプロヴァンスに亡命し身を潜めている。手配が回り危機一髪で免れる。山に隠れ住む同志から軍資金を預かり馬に積んで山越えでイタリーへ向う。
時に南仏はコレラが大流行していた。とある田舎町の広場の泉水で咽を潤していると町の住民から泉に毒を入れたと疑われ、袋叩きに遭う寸前に剣をふるい危機を脱するが町じゅうを追い回される。屋根に逃げ家から家へと屋根伝いに逃げるのでこの題名がついた。天窓から家の中に忍び込み、そこで夫の帰りを待つ貴婦人ポーリンヌに救われる。
ポーリンヌはアンジェロの規律正しく如何にも軍人らしい立ち居振る舞いに、少しの滑稽さと同時に魅力を感じる。添付したヴィデオでポーリンヌが馬で走りながらアンジェロに訊くのは「いつも、こんなに肩肘張って律義なの?」と半ばからかうが、アンジェロは「子供の頃からこんな風に育ってきました」と生真面目を隠さない。ポーリンヌはそれに対し「安心できるわ」と答える場面。
3日何も食べていなかったアンジェロは差し出された食事を貪り食う。
ポーリンヌは夫の伯爵が町に戻ってくる筈だったがコレラが猖獗を極めている為旅に出られないと察し故郷のマノスクまで馬で帰る決心をする。アンジェロはコレラとオーストリア兵に支配された道中を女一人に旅させるのは危険と感じ、同じ方向なのでエスコートを申し出る。途中オーストリア兵が検問を張る川を二人で突破したりの活劇がある。
道中に出会った旅の商人にマノスクへの道もコレラで危険と知らされる。ふたりは商人に案内させマノスクの家にたどり着くが、そこには伯爵はいず、途中ですれ違ったと知る。ポーリンヌは来た道を引き返す決意をし、危険だからついてゆくと言うアンジェロを祖国の大事な革命が待っているじゃないのと、鞭で叩き馬を走らせる。独り野原を駈けるポーリンヌはオーストリアの騎馬兵に取り囲まれ捕われてしまう。気掛かりで後を付けて来たアンジェロは彼女が掴った事を知り、ミラノの大佐だと名乗って捕虜が収容されている僧院に入り込む。寝藁に火を付け大勢の捕虜と脱出に成功する。
(ここからが、この映画でいちばんの見どころ)
二人で旅を続ける途中、大雨に遭い廃屋になった貴族の館に避難する。しかしポーリンヌは途中カラスに額を傷つけられコレラに感染していた。死に瀕したポーリンヌを暖炉の火の前で裸にし夜通し全身をマッサージするアンジェロ。人に肌を見せる事に抵抗するポーリンヌ。力尽きて寝てしまったアンジェロの頬を翌朝そっと触れる手があった。ポーリンヌはアンジェロの必死のマッサージで救われたのだ。
馬車に寝たまま乗せられ伯爵の居るテウスに帰るポーリンヌと彼女を出迎える年老いた伯爵。貴族の館で元通り平穏な伯爵との暮らしを取り戻したポーリンヌはアンジェロが忘れられない。数年間、音沙汰が無かったアンジェロからある日手紙が届く。伯爵は手紙を読む20歳ほども若いポーリンヌが命を救ったアンジェロを恋するのも道理だとポーリンヌがアンジェロの元へ発つのを許す。
ボーザールの橋で体当たり演技を見せデビューしたジュリエット・ビノッシュは今やフランスを代表する大女優。やはりここでも白い裸を晒す。ビノッシュはミスキャストじゃないかと意見を読んだが、若年増の彼女が伯爵夫人の気位と死に瀕しながらも恥を忘れぬ女の演技は彼女ならでは……。第一めのおはこの映画をジオノ原作というよりも前にビノッシュ出演だから観た記憶がある。一方のアンジェロを演じるオリヴィエ・マルテイネスも将来を嘱望される若手ナンバーワン。アンジェロの規律正しく如何にも軍人らしい立ち居振る舞い=現代的な騎士の役を気持ちよく演じている。19世紀版「騎士道恋愛」ロマンが何より嬉しい。コレラの流行を怖れ魔女狩りや通りがかりの旅人を犯罪者扱いする村人やコレラの流行した地方を通って来たというだけで、毛嫌いする使用人達の心理は国や時代が違っても変わらないのだとわかる。ちなみに、マノスクにはジャンジオノの娘さんが住まわれているが、近年「核融合研究所」ができた。
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