フランス阿呆連 | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える


両手を挙げたダニエルがフィリップを鎮めようとして正面に立ちはだかった。バシッと刀がダニエルの首に当たった。
「ジャポネは俺達より四倍も早いだと。日本の時計は針じゃなく数字が回る。日本は何でも速いから時計も速く回るんだ。時間などフィクションだ。実在しない。フィクションを振り回して人の首を切る。アキレスは亀を追い越せないんだぞ」譫妄状態になったフィリップは理解不能な言葉を吐きながら山本を睨み刀を振り回し続ける。
山本は黒ずんで石のように凝固した顔をいっそう高く構えるばかりだ。「いつも毅然として」というのが彼の口癖だが、今も昂然と頭を聳えさせ、罰金の絶望的なショックに耐えようとしているらしい。ついに、ぐぐぐぐぐっという音が山本の喉の奥から漏れ始めた。

「ゴンベエが種まきゃカラスがほじくる……」
その時、宮原が、突然、大声で歌いながら、中腰で輪の中へ躍り出て、三宝を拾うと左腕に抱え込み、右手を回して種撒きを繰り返しながら人垣の中を周り始めた。

「ずんべら、ずんべら……」
人々はあっけにとられ奇人を見る様に宮原を見ていたが、やがてそのユーモラスな仕種に微笑を誘われ、くすくすと笑いを洩らした。緊張がほぐれた。

「淡路島、通う千鳥に文ことづけて……」
宮原は持っていた三宝を今度はザルに見立てて「安来節」を踊り始めた。尻を突き出しどじょうをすくう格好がどこか土着的で性的な臭いを漂わせる。

奇妙なことに、最初に反応したのはフィリップだった。宮原の踊りにどうしようもなく誘惑されたらしい。刀を捨てると、にたにたとあどけない笑顔を浮かべ、宮原の後ろにつき、同じように尻を付き出し、手庇をして遠くを伺い、どじょうをすくう仕種を始めた。続いてフローランスが踊り出た。彼女は大きな尻を落とし軽快に足を運びながらどじょうすくいをまねた。ついでコワレックが出た。首と胴の長いコワレックの「安来節」は全く猿を見るようだった。三人のひょうきんさに皆こころが軽くなり、山本いじめを忘れた。 宮原がそろそろ疲れるだろうと、田代は察し助太刀を決心した。

「あー、えらいやっちゃえらいやっちゃ、よいよいよいよい……」
田代は忘れていた日本の民謡の中で唯一狂騒的な阿波踊りを思い出し、ついに両手を空に挙げ振りながら脚でリズムを取って飛び出した。宮原もフィリップもフローランスもコワレックもすぐに見習った。




踊りの陽気さに、みんなが浮き立ち一斉に踊り始めた。ムハメッドはネジ締めの動作を右、左、真ん中とドライバーを突き出す格好を続けながら三拍子で踊りにしている。アリは動作がぎくしゃくしてまるでラップを踊っているようだ。マリ出身のアブドラがしなやかな身体つきを生かしてランバダを踊り始めた。

いつのまにかドオデがラジカセでランバダを流し始めた。ジェラール、ダニエル、アラン、ケイブ、ドオデそしてスゴンザックまでが両手を挙げ踊りの輪に加わり、めいめい自分勝手な踊りを始めた。山本も凝りがほぐれ、救われた喜びを隠さず踊りの列の最後についた。

「踊る阿呆に見るアホウ、おなじアホならおどらにゃそんそん……」
先頭の田代は、演習室を出て、ラインサイドの広い通路へ向かった。踊りの輪は続いて繰り出して、ラインの脇を賑やかに進んだ。



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