捨身の戦法 | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える

研修は中止になり翌日から実習に入った。

「もちろん、動作改善なんかより、もっと大事なコスト削減の方法は幾らでもある。設備の改善、原材料と部品の購入費の削減の方がずっと大きな割合をもっている。しかし、設備の改善には金が掛かる。一銭も金が掛からず、今すぐ出来るのが動作改善だ。百分の一分、十分の一分という細かい時間の節約と無駄の排除をひとりひとりが積み上げることで、一日三百回繰り返せば、三分、三十分という時間の節約になる。その節約が十倍、百倍、千倍になれば、どれだけの額になるか、みなさん解りますね。
さあ、今すぐやれることを、みんなで力をあわせ、勇気をもって、やろうじゃありませんか。頑張って下さい」

宮原が熱を込めて語る。皆が一心に宮原を見ている。宮原の話には人に教えるとか、人を使うとかいったことより、無駄をなくし、少しでも競争力を付けて欲しい、ルノーにも強くなって欲しいという誠意が感じられる。宮原の気持ちが通じたらしく、その日の午後いっぱい、チームのメンバー全員は憑かれたように改善のアイデア探しに熱中した。

山本はデユポン夫人にすがる決意をした。彼女にスゴンザックが改善の進め方の邪魔をすると苦言を呈することで自分かスゴンザックかを選ばせる賭けに出たのだ。

「言ってください。デユポンさんに強く抗議して、プロマネを替えるように言って下さい。毎日顔を出さないのはプロマネとして失格だとはっきり言って下さい」
山本はしつこく田代に迫った。

「言ってしまっていいんですか? そんなこと。敵を作ることになりますよ」

「この仕事が取れたのは、私がデユポンさんの信頼を得たからなんだ。スゴンザックは邪魔ばかりする」

「田中さんが、真珠のネックレスを贈ったからじゃないですか」

田代はスゴンザックが工場の反対とデユポン夫人の間に立って難しい調整をし、ここまで準備してくれたことに感謝していた。一方で田代は捨て身の戦法を取らねばならない山本に悲哀を覚えた。山本が自ら墓穴を掘る結果になるかも知れないという打算もあって、その日の午後、デユポン夫人が工場に来た折り、田代は並んで歩く機会を捉え、山本の要求を伝えた。

翌朝、七時に工場に着くとバンガローの前に緑色のラグナ・ステーションワゴンが静まりかえり待っていた。

フランスの田舎暮らし-laguna


「スゴンザックだ。やっぱりあいつ来やがった」
山本は車から降りたスゴンザックを避けて横を向きバンガローに入った。

バンガローに入って来るとスゴンザックはどっかり腰をおろし、「俺の居る前で言って欲しかったね。こういう話は。今日、これから、マダム・デユポンに電話をすることになっている。俺が辞めるべきか否かをもう一度確認することになっている。言っとくが俺が辞めたとしても、毎日顔を出せるプロマネはいないよ」

演習室で皆が働いている間、スゴンザックと山本、田代の三人は隣室に入った。

「支払いがまだなんだけど」山本が口をとがらせて言う。

金の話とわかるとスゴンザックは「ああ」と眼を見開き「それで、おれに食いついてるのか。理由がすこしはわかったよ。しかし、金の話はおれの担当じゃないんでね。購買か経理にクレームしたらどうなんだい」

経理へ電話すると支払いは翌月末になるとのことだった。

「支払いが遅れてるのは、契約にサインもしないうちから仕事を始めた、あんたがたが悪いと経理は言ってます。客が発注書を切らない先に請求書を送りつけたり、それも個人宛にしたり、商取引の初歩も知らないと笑ってましたよ」
田代が言うと山本はぶすっとむくれた顔をした。


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