花火のあがる港街 | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える

その後スゴンザックと電話で話した。工場とセミナーの詳細を詰めているという。少し態度が変わってきた。組合に運動が潰された経緯を山本がデユポン夫人に手紙で書き送った。日本にも組合が現存する好例だからその話を皆の前でして欲しいと彼女が望んでいると言う。

「失敗した話を皆の前でするんですか?悪い前兆になりませんか?改善より進んだ体系について僕は話したいのですが」
田代は自分を売り込んだが、デユポン夫人が山本に賭けている期待は覆せなかった。

フランスの田舎暮らし-artifice


六月の半ば田代はロジェに会いに行った。ロジェは五十半ばの男で、広い肩の上に白髪を短く刈った丸い頭を載せている。円形のロビーで待っていると、ロジェが血色の良い顔ににこやかな笑顔を湛えて現れた。

「それぞれの職業には伝統というものがあるよ。改善は昔、私もやったことがある。日本のやり方は細部まで規則を決め全員に徹底して守らせる。ドイツのやり方と似ている。対独協力を罰せられてルノーは戦後国有化されたけれども、ドイツ式がいいかフランス式がいいか、解答はまだ出ていない。フランス人は、人間はこうあるべきだという観点に立って、組織や人を動かしている。改善をどうやるかは、皆、知ってはいるが、他人との関係を大切にする余り、押し付けが出来ない。次第に薄まってしまうのさ。誰か外部の人間がやった方がうまくゆく。東亜は高すぎる。フランスにも日本方式を指導できるコンサルが居る。半分の値段だよ。日本人の方がいいというマダムの意志で頼むことになった。君にだって出来るはずだよ」

「保証の件はどうなるんですか?」

「ああ。最終の支払いを結果に応じてということにしよう」

セミナーのために山本と宮原、それに田中部長が来た。
ル・アーヴルのホテルへは夕方着き、時間があったのでエトルタヘ案内し古いレストランで夕食をとった。エトルタからの帰り道に日が暮れてしまった。夏の日没は遅く十一時に近かった。明日のセミナーのために睡眠は充分取っておかなければならない。ホテルへの道を急ぎ、ル・アーヴルの海岸まで来た時、道路が車と群集で塞がれていた。

七月十四日の革命記念日の夜はフランス中どこでも花火があがる。この港街ル・アーヴルでもあがるだろうとちらと考えた。田中部長がドーヴィルの名を挙げた。田代は絵を愛する人間としてエトルタの海岸を田中と宮原のふたりに見せてやりたかった。遅くても十一時には帰れるだろう。心配はいらない。田中はエトルタに小さなカジノを見つけるとそこで遊び少し金を儲けた。ドーヴィルと言ったのはカジノが目的だったのだ。

道には、車が数珠つなぎに並び、道端の至る所に人が溢れている。皆、夜の帳が完全に落ち、最初の花火が打ち上げられる瞬間を待っているのだ。

「こういう無秩序から変えてゆかねばならんな」

 山本は警察の持つ秩序感覚を憤ろしげに他国の群集にぶつけた。山本は明日のセミナーを成功させたいので焦っている。部長の手前、食事はホテルで済ませましょうとは言えなかった。通りに立って苛立たしそうに煙草を吸っている。二月の調査の段階ではラインで煙草を吸いながら作業するのをけしからんと憤ったものだ。そのくせ、自分は作業中も平気で煙草を吸っていた。

  黒々と静まり返った港の突堤からパアーっと花火があがった。青と赤の光の輪が水に映った。小一時間花火は続いた。田中と宮原は車の中で眠っている。ようやく人々が帰り始めたので、田代は車を始動し、人と車の隙間を探しながらホテルへ帰りはじめた。どの道を曲がっても群集が次々と現れて来る。家の陰から涌き出るように人々が歩いてくる。二月の冬の小雨の降る夜初めてこの街に着いた時とは極端な違いだ。田代は、いったいどこにこれだけの群集が隠れて暮らしているのだろうと不思議な思いにとらわれた。

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