五月晴れのパリ 22 パリ不戦条約 | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える

「この本が、ちょうどあなたが関心をもっておいでの時代を詳しく書いてるわ」
そう言って先生は手にした本を渉の眼の前に置いた。歴史の本は英語で書いてあった。THE END OF THE EUROPEAN ERA, 1890 TO THE PRESENT「ヨーロッパ時代の終焉、1890年から現在まで」というタイトル。著者は フェリックス・ギルバート Felix Gilbert で プリンストン研究所のメンバーとある。

「パリ条約というのを御存じかしら?」
「いいえ、知りませんが……」
「国際間の紛争に武力を使用することを放棄すると唄った世界で最初の条約よ。1928年8月27日にパリで調印された」
「なんだか、日本の憲法第9条とそっくりな文言ですね」
「そうでしょう。日本国憲法はこのパリ不戦条約の第一条の文言をそのまま採ったのですから」
「おお、それは知りませんでした。ぼくはてっきりアメリカの占領軍、マッカーサーが支配していた時代にGHQが作ったものとばかり思っていました」

「パリ不戦条約はケロッグ・ブリアン協定とも呼ばれてるの。時のアメリカ合衆国の国務長官ケロッグと、フランスの外務大臣アリスチルド・ブリアンの間で、初めはUSA-フランス二国間で結ぼうとしたわ。1927年4月に、アメリカの市民団体に鼓吹されたブリアンが二国間で戦争を放棄する条約を提案した。フランスとUSAは利害の対立が戦争に発展する可能性はほとんど無かったし、フランスはアメリカという友邦を持つことでヨーロッパの他の国々に威信を与えることが出来るから。これに対してケロッグは暫く考えた上で、この条約を二国間だけでなく全体的に適用しようと提案したの」


フランスの田舎暮らし-ぱり条約

「1927年といえば国際連盟が戦争の無い世界を模索し、紛争国の調停を試みていた時代ですよね」

「そうなの。もとより戦争を放棄しようという思想はアメリカとフランスだけじゃなくて、たとえば1927年の国際連盟の総会でポーランド代表が『すべての侵略戦争を現在未来とも禁止する』旨の宣言を提案し満場一致で採択されてるわ」

「ガンジーの非暴力、無抵抗主義の思想は世界的に広まっていたんでしょうか?」

「それもあるけど、やはり第一次大戦がドイツ、フランスともに数百万人単位の犠牲者を出し、二度と戦争を犯してはならないという反省が強かったからよ。このポーランドの提案も侵略戦争を禁止するというもので防衛戦争を否定するものじゃなかった」

「パリ不戦条約は国際連盟とは関係なしに締結されたんですか?」

「そうなの、そこがまた後になって、残念な結果を生むんだけど。とにかく最初は世界の大国、USA、英、仏、独、伊、日本の六カ国に加え、ロカルノ諸国と呼ばれる、ベルギー、ポーランド、チェコスロヴァキアと英自治領諸国、それにインドの各国代表がパリに集まり条約に調印したの。ついで、世界のすべての独立国がこの条約に署名することが要請されたわ。結果として65カ国以上が署名して、国際連盟の加盟国を上回ったの。世界的規模を持つ史上最初の政治的協定なのよ」

「この協定は自衛のための戦争は認めていたんですか?」

「それはね、起草者が、この条約は自衛戦争を禁ずるものではないと宣言してるから自明のことよ。後で、日本は警察行為との隠れ蓑のもとに満州を侵略し、イタリーは防衛の名のもとにこの条約を破るわ」

「この本、英語で書かれてますけど……」

「そうよ。現代世界史を研究するのに英語は欠かせないですよ」

「ぼくは高校時代に帝国主義アメリカの英語は学ぶ必要が無い、ってゴリゴリの日教組の国語の先生の指導をいいことに英語をさぼって勉強しなかったんです」

「なんて反動的な教師よ!いまからでも遅くないからフランス語と並行して英語も勉強なさい。この本よかったらお貸しするわ。ただし、必らず返してね。父の形見だから。この次は一週間後の同じ時間にしましょうか。犬を散歩させた後、テキストを読みましょう。ぜんぶ読む必要はないから、日本と中国に関するとこだけ読みましょう。……ここからだわ」

そう言って先生は分厚い本の中ほど266ページを開けて渉に見せた。

 (つづく)

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