五月晴れのパリ 7  | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える

パンテオンの裏には「デカルト通り」があるし、南側からは「ウルム街」が延びている。17世紀、近代合理主義の基礎を築いた哲学者、数学者デカルトが住んでいたのはデカルト通りから直角に東側に延びるローラン通り(rue Rollin )で、ここの14番地に1644~1647、1648年にルネ・デカルトが滞在したと銘版が貼ってある。

フランスの田舎暮らし-デカルト


ウルム街にはエコール・ノルマル(高等師範学校)と国立高等化学学校があり、化学学校の一画にラジウムを発見したキュリー夫妻を記念する研究所が再現してある。

全体に、ここら一帯は中世から続く科学と学術の厳かで真摯な人間の真理の探究を支え見守ってきた地区なのだ。

渉は、何故ヨーロッパに惹かれるのだろう?科学・宗教(キリスト教)・民主主義が渾然一体となって文化の底に流れているから、それを起源に遡って辿り直してみたい、という希求が渉の心の奥にあるのだ。

フランスの田舎暮らし-パンテオン320

渉が大学に入学した年に大学の入口はバリケードで封鎖され、試験は行われず、機動隊が構内に入り、三百人の学生が逮捕された。機動隊の導入に反対して渉も大学に泊り込んだ。あの時、直面し、悩みながら学友と議論し批判され傷つきながら、何を必死で訴えようとしたのか。あの事件は俺の人生を変えたし、あの事件があったから今、俺は家族と別れフランスに住んでいる。ヴェトナム戦争があり、中国の文化大革命があった。米ソの二極体制が永遠に続くと信じられていた時代だった。ベルリンの壁が崩れ、ソ連が崩壊するなどと誰が予想したろうか。世界情勢が変わり人類の歴史が混沌を湛えつつある。

変わらないのは核兵器だけだ。米ソ二大核保有国が核削減に向け、足並みを揃えたところが少し違う。大学紛争の渦中で一人一人の学生の態度表明が迫られた時に、渉の行動を決める鍵になったのは核兵器だった。

抽象的な言葉にそれを置き換えて言えば、大学における科学研究と価値、学問研究と社会の関係、あの頃の言葉で言えば体制との関わりということだった。今の俺はあの頃とは変わった。堕落したと言うべきかもしれないなと渉はひとり苦笑を浮かべた。

研究者を志望した高校から大学時代は、もっと純粋に科学的真理とか人類の未来について考えた。研究室に残りかけたが、くすぶり続ける大学紛争の中で教授との確執、勢力争い、利害関係に嫌気がさし、なにもかも放棄する思いで自動車工場へ就職した。知的労働と肉体労働の差をなくすとか、労働者の自主管理とか、管理する者とされる者を無くすといった当時の体制変革者たちの理想主義的な言葉を斟酌した上での自分なりに真摯な身の振り方だった。あの時代、渉の心の中に燃えた火は今もおき火のように燻り続けている。

フランスの田舎暮らし-リュク480

パンテオンの前の広い通りがスフロ通りで下り坂の突き当たりにリュクサンブール公園の入り口が見える。公園の中にセナ(上院)がある。

アンドレ・ジイドの「狭き門」の冒頭にこの公園が出てくる。ジイドは物語の中に私生活の実話を書く。ジイドが住んでいたのは、公園にほど近いメデイシス街19番地だった。

「父を失った時、私はまだ十二にもならなかった。父は、ル・アーヴルで医者をしていたのだが、もう此の地に留まる必要もなくなったので、母は、私の修学の便宜を考えて、パリに移り住むことに決心した。母は、リュクサンブール公園のそばに小さなアパルトマンを借りた。ミス・アシュバートンも、われわれとそこに同居することになった。」(岩波文庫 川口 篤訳)


フランスの田舎暮らし-キオスク

サンジャック通りを少し進んだ所に「京子」という日本食品店があった。店の奥に手製のテーブルなどを置き、こじんまりとした店だった。30年経って京子は大きくなり、オペラ界隈へ移りフランス人にも日本食の人気が出て大変な繫昌をしている。

渉は、京子の隣の果物屋の角を曲がった小さな路地に中華レストランを見つけた。
「天下楽園」という名で、壁のペンキも赤く如何にも北京からそのまま移設した感じ。
給仕する男たちは青い国民服を着ていた。渉はこの日の昼食に5フランのチャーハン一皿だけ食べた。1F80円の頃だったから400円ポッキリ。パリで入った最初のレストランは絶対忘れない。

この店には数十年の間何度も通い世話になった。給仕のおじさん達も青い国民服を脱ぎ普通のシャツを着るようになった。その間シュエフが一度変わり味が変わった。

中華レストランはどこへいっても間違いなく安くて美味しく食べられた。ヨーロッパのどこの国でもお昼はたいてい中華に入った。第一、ドイツ語で書かれたメニューを出されても何が出てくるかさっぱり分からない。中華レストランなら、菜とか肉とか飯とか麵とか、漢字で判る。

 (つづく)

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