茜空の欅 2 - 2  ヤクザだって仁義は守る | 雷神トールのブログ

雷神トールのブログ

トリウム発電について考える

 「それで、憲法のなかでも第九条は、軍備を永久に放棄するとうたった世界に類をみない平和宣言で、みんなが誇りにしていいものなんだ。これからは日本はスイスのような平和国家として、世界のどの国とも仲良く平和に交際してゆかなければならない。そう、教えてくれたよ。その先生の話を聴いて、ぼくら生徒は、みんな貧しくたっていいんだ。日本は馬鹿な戦争をして地獄の体験をしたけど、その代償に世界に誇るべき平和憲法を持つことができたんだから、って。そう思うと、なんかとってもはればれとした、誇らしい気持ちになったのをおぼえている」

 「でも、それは終戦直後のことで、五年もたたないうちに朝鮮戦争が起きてさ。日本は米軍の基地になって特需で経済が復興したろ。それで、アメリカの要請で警察予備隊を作るのさ。ケン坊が小学四年、ぼくが六年になった年に、警察予備隊は自衛隊になるんだ。自衛隊ってやっぱし軍隊だよな。日本国憲法の理想は、絵空事のお題目になって現実とかけ離れてゆくのさ。事実がさきにたって、できちゃったんだから、現実にあるんだからしかたないって。現実が理想をうらぎってしまうのさ……。
 その証拠に、節子と禎子の時代は、ちがった教え方をしてるはずだから。なあ、セッチャンたちはどう習った。日本の戦争と戦後の憲法や自衛隊のこと」

 「シンリャクなんてならわなかったよ。先生はただ日本は戦争をして中国やアジアのキンリンショコクにメイワクをかけたって言ってたよ」

 「ほらな。時代がちがうんだよ。ケン坊が四年のときセッチャンが一年だろ。自衛隊については?」

 「自衛隊は軍隊じゃあないけど、外国からみると軍隊にみえるって」

 「なんだ。それ」

 「ほんとに、そういったんだもん。センセイが」
 節子は口を尖らせて膨れ面をつくった。

 「ヒトにウソをつかない。正直者のお手本のワシントン。アメリカ建国の大統領のワシントンは子供のころ、あやまって桜の木を切り倒しましたが、切ったのはワタシですと正直に斧をもって届けでた。みんなもワシントンを見習って正直者になろう。そう教わったよな。ボクはだから空き地の竹やぶで見つけた財布を正直に交番に届けた」

 「えっ。それって、いつのはなし?」節子が大声をあげて訊いた。

 「小学四年のときだったかな。警察署長が朝礼で表彰状をくれたよ」

 「そんな、紙切れより、おカネもらっといたほうがよかったのに」禎子が言った。

 「そう思うかい。でも、ぼくは模範生になれって躾けられたからね……。アメリカさ
ん。それに、日本のオトナたち。子供には模範的になれって教えといて、自分たちは矛盾だらけ。ヤクザだって、いちど切った仁義は、守るんだぜ。おれたち日本の子供をだませると思ったら、おおまちがいだかんな」

 新宿は花園神社の前の病院で生まれた賢二は、落第生になりかけたいま、やくざの心情が合うのか、見栄を切ったりした。

 「チクショウ。こどもと思ってバカにしてやがる。おれたちをダマシたってことじゃ
ね。理想を信じさせといて、現実は矛盾することやって、インチキしてるわけだろ。
こどもはなにを信じていいかわかんなくなっちゃうじゃんか。
 イイカゲンなオトナたちへ、仕返ししてやる。おれたちゃダマっちゃいねーぞってな。
さわいでやるんだ。デモいって」

 「ケン坊がそう感じてデモにゆこうと決心したのはエライと思うよ。ただ、さっきもい
った、幾何の定理じゃないけど、現実は理想どおりにいかないからね」

 「軍備をもたない国なんてありえないってのがオトナのいいぶんだろ。幾何の点と線の定理が現実にはありえないってのとおなじ理屈だよな。ただサア、一国の憲法って国の基本原理だろ。永久に軍事力に訴えないってうたったんだ。永久にだぞ。五年や十年で状況が変わったって、ズボン履き替えるみたいに、気軽に変えられるもんじゃないだろ」ケン坊はすこしムキになってきた。

 「平和憲法の理想は貫こうと思えばやれるわけだろ。国民の意思しだい。そこが、幾何の定理とのちがい。平和の理想は守る。だから、デモにいく」

 お袋がやっと言葉をみつけたというぐあいに口を開いた。
 「理想もなにもセンソウを放棄する、ゆうたかて、日本だけがイッポウテキにホウキすればセンソウがなくなるゆうもんやったら、こんなカンタンなことないわ。センソウし
たくのうてもしなきゃしょうがのうてしてきたんが世界の歴史いうもんやないの。おカ
アサンかて、平和主義に徹しますいうのんは大賛成やけど、軍備を永久にもたんなんてだいそれたこと、ちゅうか、クウソウにすぎんとおもうけどね。よその国が攻めてきたら、スイマセン、うちはセンソウはやらんことにしてます、いうたらすむんか?あいて
がなぐってきたらなぐりかえさんとアカンのとちゃうか?なんも防備ももたへん。テイ
コウもせん。ゆうようなクニは世界にどこみてもあらへんのやで。攻めるクニはこれさ
いわいと日本を占領してしまうやろな。憲法はクウソウやウソいうたらあかんねんやろ
が」

 (つづく)

ポチッと応援ありがとうございます↓
連載の励みになります。


にほんブログ村 小説ブログ 長編小説へ
にほんブログ村