五回、六回と両手で水を掻いた。水面までの距離が無限に長く感じられた。息が続かないという恐怖が襲った。胸が苦しく、意識が朦朧となりかけたころ水に明るみが増し、水面に顔が出た。立て続けに肺が空気を吸った。
息を吸った直後、ダーンと音がし、和秋の耳を弾丸がかすめ、数十センチ先の水面が跳ねた。振り返ると甲板の男が銃を構え狙っていた。和秋は息を吸えるだけ吸い、ふたたび水中に潜った。身体の脇を斜めに白い軌跡を描き弾丸が水中を走った。五メートルほど潜り船を遠ざかる方向へ両腕と両脚をいっぱいに広げ水を掻いて進んだ。
二分ほど潜ったまま泳ぎ、息を継ぐため、もういちど水面に顔を出した。その時、ドーンと音がして、爆弾が炸裂し、木箱の軽機関銃が破壊された。もう一度潜り、息の続く限り泳いで水面に出た。振り向くと船は遠ざかり、もう弾丸は飛んでこなかった。
ムホクのデルタ・プレーンがはや陸の近くを飛んで行くのが小さく見えた。つぎの瞬間、ムホクが操縦をあやまり、追い風に煽られたプレーンがヒラリと反転し先端を下に向けて失速しそのまま墜落してゆくのが見えた。
デルタを操りながらムホクは背中のバックパックを確かめた。デルタがバランスを失ったので、翼を水平に戻そうとパイプに掛けた両手に力を入れ腰を座席から浮かせたその瞬間、プレーンが反転しムホクは身体を空中に投げ出され、翼に落ちてぶつかった。その衝撃でパイプを握っていた手を放した。プレーンより先にムホクは海面へ落ちて行った。
ムホクが墜落した。泳げないムホクに救命具をつけさせてよかった。ゴムボートがうまくムホクを見つけて救助してくれればいいとそれだけを祈りながら和秋は泳ぎ続けた。
(つづく)
この連載もあと4回で完結です。
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