自由化路線の導入とともに複数政党が生まれ選挙でイスラム原理派が圧勝すると、それまで政権から離れたことのない特権階級が原理派の弾圧にかかった。
原理派は過激化し、無差別テロにより国民を血塗られた恐怖に陥れ、自由を標榜し、アッラーの神を信じないベルベルの同胞を血祭りに上げていた。
同じ生命の危険を感じる生活なら、こんな外国でヤクザにつけ狙われるより、故郷へ帰り、同胞のために闘い、ベルベルの文化を守るために闘って死んだほうがよっぽどましだと考えるようになっていた。
ムホクはある晩その考えを妻のチェイカに話した。彼女は気持ちは良くわかるし、仕事の無くなったこの国に長くいることは生活の不安もあって住みにくいことは確かだけれど、この国の方がまだ安全な気がする。カビルに帰れば確実に殺される予感がすると怖がった。
「殺されたとしても、ムホクはベルベルの文化のために雄々しく闘って死んだという名誉がベルベルの同胞の胸に語り継がれて永久に生きるのだよ」
ムホクが言うとチェイカは、名誉なんかなんにもならない、あなたが死んだあと、あたしはどうやって生きてゆけばいいのと泣き出した。
チエイカに泣かれムホクは話を打ち切ったが、その夜更け、ムホクがトイレに立つと、事務所に灯かりが動き人の気配がした。ムホクが行ってみると窓が開き、机の引き出しとデイスクなどを入れたケースが荒らされていた。
(つづく)
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