13 - 3 洞窟のアジト | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える

 その洞窟は隠れ家として理想的だった。崖下の自然に生えた四五本の楓や柳や楡の木の背後に隠れて入口は通りから見えないし、入口そのものもほんの小さな割れ目程度でこんなものが中へゆくと映画館ほどもある大きな洞窟になるとは誰だって想像もつかないからだ。

 それは第二次世界大戦中この地域がナチスに占領されていた頃、レジスタンスが隠れ家として使っていた洞窟で、徹底したゲシュタポの捜索にも最後まで発見されなかったいわくつきのものだった。

 ピエールの父親ジャンはドイツ占領中この洞窟をアジトにレジスタンスに参加した。ここで作戦を立て戦略を練り、連絡員としてゲシュタポに追われながらも、ここに逃げ込むことで最後はいつも助かることができた。

 平和が訪れた後も、時たまこの場所へやってきて、青春の命を賭け、かつての緊張を思い出し、六歳ほどのピエールに、ここは僕の命を救ってくれた場所だと教えるのだった。

 入口はほんとうに子供ひとりがやっと滑り込むことができるくらいの隙間で、張り出した岩の背後に開いていた。誰もがこんな割れ目から岩の中へ入ったら二度と出てはこれなくなるのではないかと恐怖を抱きながら、その隙間の両側の岩肌に身体を擦りつけながら息を止め幅一メートルほどの狭隘部を通る。

 すると第二の入口ともいうべき岩の凹みに身体が滑り込むことができる。そこは丁度人の背丈ほどの空間で下方は狭く上方は広がっている。その広がった上方へ上体を傾け両手を岩肌に当ててずりあがるように這い上がると斜め左上方に今度はゆったりとしたほこらに出る事ができ、そこへ出さえすればあとは長い立って歩ける廊下が奥へと人を連れていってくれるのだった。

 (つづく)

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