「ああ。どうしてこんな目に会わなければいけないの。日本人のあなたを愛したから?」
「いや。ムホクと関係あるだろう。いきがかりでダンテクとからんでるかもしれない」
「なぜほっといてくれないの?」
「人の愛がねたましいからだよ」
「この国には、なんで嫉妬ぶかい人間がたくさんいるの?あたしが悪いわけじゃないのに。なぜこんな嫌な目に会わなければならないの」彼女は心底から恐怖を感じたらしかった。
「今日からは一緒に行動しよう。車で行き来し、ボクの家に泊ろう」
身をすくめている彼女の肩を和秋は抱いて言った。
ジャンヌ・マリーのノート
その日は車を置いてきたので私とカズはバスで帰るしかなかった。大学の構内を出て、バス停までの道を歩いて行くと、道の脇に停めてあった車から男がふたり同時に降りて来て私とカズの腕を捕らえ、抗う私たちを車に押し込み、恐ろしい勢いで発車した。
私とカズが連れて行かれたのはフリッサール河岸にたくさん並んだ空き倉庫のひとつで二階にある大きな部屋だった。百平米はありそうなガランとした部屋のあちこちに机と椅子が置かれていた。スキンヘッドの若者三人と、この間のテロリストとダンテク、それに赤ら顔の男がいた。カズはフルートのケースに手を加えケバウと作った吹き矢の筒を入れ、常に持ち歩くようにしていたが麻酔薬がまだなく武器には使えない。
敵が多すぎる。隙を見て逃げ出してもすぐに掴まってしまう。一味の狙いは何か?身の代金か。どちらも多額の金は出せない家だってことくらい調べればすぐわかるだろうに。私につきまとう赤ら顔の男は昔の友達のセバスチャンが雇っただけかと思ってたのに、こいつはダンテクの一味なのか。この街で悪事をはたらくやつはみなダンテクにつながってしまうみたいだ。真の狙いはムホクなのか私かカズか?カズがムホクに親しいことを民謡の夕で知り、私に嫌がらせついでにムホクをおびき出そうって狙いなのか?
(つづく)
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