朝起きて、台所にいると起きてきた父が顔を出しました。

「ああ、いたいた。よかった。」あんたがいないからどうしようかと思ったよ」

 

台所の椅子に座ると、父は言いました。

「ここにいても仕方がないから、九州に帰ろう。あんたと俺の二人で」

 

今朝の父は、調子が悪そうです。

認知症の父は、現在と過去、現実と非現実がわからなくなります。

 

こういう時は何を言っても届かないので「そうだね」を連発して乗り切るしかありません。

父にとっては、父自身の知覚していることが現実であり、現在なのです。

 

父「残念なのは、おれの父親と母親が一緒に死んじゃったことだよなあ」

娘「そうだね(一緒には死んでない)」

 

父「一緒になろう。その方が、あんたも九州に行きやすいだろう」

 

突然のプロポーズです。

しかし、わたしも慣れたもので動じることなく応答します。

 

娘「そうだね(娘と認識されてないな)」

父「何も心配いらないから。おれも歳も歳だから、もう子供もいらないし」

娘「そうだね(子供ならここにいますね)」

 

その後は、父の妹(東京にいる)に声を掛けようとか、もう一人の父の妹(九州にいる)はどこに行ったかなどと言うので、「そうだね」とか「九州にいるよ」などと返しました。

 

父の気が済んだようなので

「まだ寝てていいよ」

と言ったら、父は、

「今日中には九州に行くようにしよう」

と言い残して布団に戻って行きました。

 

「今日中に」と言っていますが、一眠りすれば忘れているのでご安心ください。

 

 

それにしても、朝から父親のプロポーズを受けるのキツいな。

 

わたしのことがわからない。

母が入院していることを忘れている。

母と間違えている。(若い頃の母と?)

母と結婚した記憶がない。

 

 

認知症につきものの見当識障害は、時間、場所、人の順でわからなくなっていくといいます。

 

父はこれから、こうやってわたしのことがわからなくなっていくんだ。そう思ったら、特養に行くのはやっぱり今なんだとわかりました。

 

朝から涙が止まりませんでした。

 

そして、父がわたしに掛けた言葉は、かつて母に向けた言葉かもしれない。

そう考えたら、また泣けてきました。