「腕がヒリヒリする」
と言う父。
「いつだったか、腕がヒリヒリするから病院に行ったことがあったなあ。あんた覚えている?」
父の言葉に「うん」とうなずくわたし。
全然記憶にないけど。絶対に行ってないけど。
「あんたと一緒に病院に行って、注射を打ってもらったんだよなあ。明日じゃなくてもいいから、あさってにでもまた行こう」
父の言葉に再び「うん」とうなずくわたし。
行かないけど。
わたしが付き添って注射を打ってもらったので心当たりがあるのはコロナワクチンか健康診断の採血であって、腕の不調を治すためではないですからね。
父は続けます。
「あの病院は親子でやってるんだよなあ。むかしからやっているから、忙しい時なんかおばあさんも呼んで手伝ってもらうんだよ。正規の資格を持って開いてるならいいんだけど、闇医者なんだよなあ」
「そうだねえ」
と答えるわたし。
闇医者なんて生まれてこの方ご縁がないけど。
「診療代がすごく安くて300円くらいなんだよ。おやつの時間に行くと、よかったら一緒におやつをどうぞなんて言っておやつを出してくれるんだよ。そのおやつが300円以上なんだから、何だか申し訳ないよなあ」
などと言います。
病院に行って、ごはんをごちそうになる、おやつを出してもらえるというのは、父のお気に入り作話エピソードです。
実際にそういうことがあったとは思えないのですが。
父が楽しく語っているのだから、それでよいのです。
もしかすると、ショートステイ先のことを病院と混同していて、病院でごはんが出る、おやつが出るという話になるのかもしれません。