ショートステイに行く日の朝6時。

まだ眠っているわたしの耳に、父が引き出しを開け閉めする音が響きました。

 

父が開け閉めしていたのは、父の下着や肌着をしまってある引き出しです。

父は朝起きると、そこから自分の下着などを出して身につけます。

 

なので、もう起きて着替えるのかと様子を見に行きました。

「お父さん、もう起きるの?まだ寝ててもいいんだよ」

 

すると、父は

「俺のカメラはどこに行ったんだろう」

と言います。

 

父はデジタルカメラを持っています。

以前はよく使っていて、今でも急に思い出したようにカメラを使いたがるのです。

 

娘「何を撮るの?」

父「あんたを撮るのよ」

娘「わたしの写真なら、最近お父さんと撮った写真がここにあるでしょ。これでいいじゃない」

父「俺のカメラはどこ?」

 

ショートステイに持っていかれると困るのでしまってあったのですが、出してきて渡しました。

 

すると、父は、

「おー、あったあった」

と安心して、カメラをその辺に置くとトイレに行きました。

 

トイレから戻ったら、もうカメラのことなんて忘れているだろう。カメラはこの隙に回収してしまおう。

 

しかし、トイレから戻ってきた父が、

「あれ?俺、カメラはどこに置いたかな」

と言います。

 

忘れてなかった。

 

再びカメラを渡すと、

「あったあった」

と言ってその辺に置き、

「もうちょっと寝ます」

と寝床に戻りました。

 

カメラは回収しました。

その後、起きた父がカメラのことを口にすることはありませんでした。

 

たぶん、ショートステイに行くことと旅行のイメージが重なって「そうだ、カメラ!」となったんじゃないかと思います。