台所で夕飯の支度をしていると、コップのようなものが倒れる音と液体がこぼれる音がしました。

 

見に行くと、父がお茶を敷物の上にこぼしていました。

 

夕方、居間にいた父にお茶を出しました。

父は全部飲み切らなかったのでしょう。

それをすぐに片付けずにいたわたしが悪いのですが、中身が入った湯呑みが置いてある座卓の上に腰掛け、湯呑みを倒してしまったようです。

 

父は、

「どうしよう、どうしよう」

と、うろたえています。

 

あー…。

 

「大丈夫だよ。これで拭くから」

とタオルを持ってきて拭くわたし。

 

「お父さんの服は濡れてない?大丈夫?」

と確認すると、大丈夫だと父は答えます。

「湯呑みも割れてないね。ケガしなくてよかったね」

と落ち着いて対応しました。

 

「もう拭いたから大丈夫だよ」

と言うと、父は

「ありがとう。あんたは偉いねえ。偉い」

と言いました。

 

まあ、お茶だし。

シミになりそうな感じでもないし。

わたしのお気に入りの敷物でもないし。

そもそも、わたしの家じゃないし。

 

怒る理由は何もないけど、怒ったり声を荒げたりしなかったわたしは、本当に偉かったなあと思います。