「あんたは、いつここに来たの?いつから俺とあんたは二人でここに住んでるの?」

と父が言い出した夕暮れ時。

 

「あんたと俺が初めて会ったのは、いつ?」

 

40年ぐらい前じゃない?

お父さんとお母さんの間に生まれたのがわたしだよ、とお手製の家系図を見せながら説明しても「思い出せない」「ピンとこない」と父。

 

えー。

おぎゃあと産まれたんですけど。

すぐそこの病院でおぎゃあと産まれて、この家に来たんですけども。

 

「俺の田舎に行ったことある?」

と問うので、小さい頃に行ったよ、と当時のアルバムを開くも会話は上すべり。

 

こういう時、哀しくなっちゃうよねえ。

 

その後、父は、

「上京してくる時、学生向けの職安みたいなものを先輩から教えてもらって」

「東京は、大学の周りに学生向けのアルバイトがたくさんあって」

「学徒援護会というのがあって」

などということを唐突に、しかし滔々と語っていました。

 

後から気づいたけど、父の時間が巻き戻って大学生か、卒業後くらいになってしまったのかも、と思いました。

 

そりゃあ、わたしが存在がピンと来ないはずだよ。