ベランダで、小さな空き瓶を倒しました。
ベランダのコンクリート部分で倒れたので、コトンと音がしました。
けれど、それほど大きな音ではありません。
例えば飲食店で、お皿を割ってしまったり鍋を落とすなどして大きな音を立てたら「失礼しましたー!」とか言うじゃないですか。ああいう音ではない。本当に、小さな瓶が倒れただけのわずかな音。
その直後に父が昼寝をしている部屋に行くと、父が起き上がって言うのでした。
「今の音、何?コトンって音がしたよ」
そんなに大きな音じゃなかったし、耳元で鳴ったわけでもないのに父には聞こえたらしい。
「お父さんは、耳がいいんだね」
と言うと、
「耳が大きいからね」
と得意げに言いました。
「耳が大きいから、音をよく拾うんだね」
と言って、わたしは台所へ行きました。
すると父が、わざわざ台所まで来てわたしに言いました。
「俺は正直者だからね、本当のことしか言わないの」
父はいろんな記憶をミックスして、事実と異なる話をするけれど、父にとってはそれは「本当のこと」なのでしょう。
母はそれを聞くたびに「嘘つくな!」と糾弾したものですが、父はその度に傷ついていたのかもしれない。
わたしもつい否定してしまうことがあるから、気をつけよう。
ところで、父を物忘れ外来に連れて行った時、お医者様に「耳が遠いのかな」と言われたのですが、耳が遠いわけじゃないと思うんですよね。
むかしは補聴器つけていたけど、今は補聴器なしで会話が成立するし。
拾いやすい音域とかあるのかな?
言葉は理解しづらい時があるだけど、音としては聞こえるんだろうか。
未だに父には謎が多い。
