夜8時。

父が出かけると言って、靴を履こうとしました。

どこへ行くの、と問うと、

「まだ団地の中に残っている人に、お別れの挨拶をしてくる」

と言うのでした。


「明日にしたら?」と言ったら素直に聞いてくれたので一安心。


しかし、これで終わったと思ったら甘かった。


その後、

「この団地の人は、みんな田舎に帰る」

「お別れ会をしなくちや」

「みんないなくなる」

「ここにはもう住めなくなる」

「いつまでここに住んでいていいのかわからない」

「今月中に出て行かないといけない」

「今月中は大丈夫でも、ゴールデンウィークには」

「いや、7月には出て行かないといけない」

「俺も田舎に帰ることになる」

という妄想を滔々と語っていました。


「みんなにお別れを言わなくちゃ」

と、繰り返し繰り返し言うので、

「父には死期が近づいていてみんなにお別れを言いに行こうとしているのだろうか」

という考えが頭をよぎって悲しくなってしまった。


みんなって誰なんだよ。

父は、お別れを言うべき相手のことも思い出せはしないのに。


話が一区切りついたところで、夫と電話するために台所に移動しました。

夫と電話していると、また父が外に出ようとする気配。

どこへ行くの、と問うと、下の集合ポストまで行くだけだと答えます。

それならいいかなと見送りました。

ちゃんと帰ってきたのでよかったのですが、夜になって外に出たがるようになってきたのはまずい。


その後も再び、団地がなくなる話を長々と語っていて、どうしたら止められるの?

どうしたら気が済むの?


ただしゃべりたいだけなのかな。

それとも、最近わたしが父の昼間の外出を阻止しようとしているから、それがストレスになっているのかな。