純粋水爆のエネルギーを一点に集中させて点火するのには、通常のやり方では限界があるので、高出力の方式を上手く組み合わせなければならない。それを個別に説明する。
![]()
①爆薬発電機
まずエネルギードライバーに必要なエネルギーだが、核融合のローソン条件に必要な温度、密度、閉じ込める時間を考えると、ごく瞬間的な時間に大規模なエネルギーを流せば、核融合を起こすことが出来る。
瞬間的に大規模なエネルギーを発生させるには、TNTなどの爆薬が一番良い。TNTが持つエネルギーはガソリンの12分の1程度しかないが、反応スピードはナノ秒単位である。この為、瞬間的なエネルギーを取り出すことが出来る。ただし爆薬のエネルギーでは全体的に拡散してしまって一点に集中するのが難しい。
この問題を解決するために、爆薬の化学エネルギーを電気エネルギーに変換する装置を使う。これを爆薬発電機という。なぜ電気エネルギーなのかというと、Zピンチという方法を使えば、電気エネルギーで少量の核融合燃料をローソン条件まで爆縮できる。
爆薬発電機は、元々核融合の実験をするためにソ連で開発された。コンデンサーを多数使うよりも、小型軽量でシンプルで扱いやすかったからである。唯一の欠点は使い捨てで、爆発したら二度と使えないのだが、一回きりの純粋水爆ならば全く問題ない。
爆薬発電機の簡単な仕組みだが、円筒形の金属パイプに爆薬を詰めて、その外側にパイプに接触しないよう何百回もコイルを巻く。コイルとパイプにはあらかじめ電流を流しておく。
爆薬をパイプの端から点火すると、ナノ秒単位でパイプが端から端まで爆発する。この時にコイルがパイプに接触しながら破壊されるので、何百回も巻いたコイルが瞬間的に巻き数が下がりナノ秒で一回巻きになる。この時に瞬間的で大きいパルス電流を生み出せる。
コイルの巻き方でパルスの波形を変えられるし、初期電流で波の大きさも変えられる。
近年開発されているEMP爆弾(電磁波爆弾)は、この爆薬発電機に、高出力の電波発振器(マグネトロン・クライストロンなどの真空管)を取り付けた物をいう。核爆弾から発生する電磁波より圧倒的に少ないが、非核なので建物を破壊せず、中の電子機器を使用不能にすることができる。EMP爆弾の対策には、ファラデー箱(周りを金属の箱で包む)や半導体に窒化ガリウム素子を使う、真空管を使う、LSIなどの半導体集積回路を使わない、などがある。
②超電導コイル
通常の電気を流したコイルには、電気抵抗による発熱があり大電流は流せない。コイルに超電導物質を使って極低温にすると電気抵抗がなくなり、大電流が流せ電力損失も起きない。これを爆薬発電機の初期電流に使うことで、爆薬発電機の威力を大きくすることが出来る。
超電導コイルは大昔は液体ヘリウムの温度でないと冷えずコストがかかったが、二ホウ化マグネシウムなどコイルにしやすい金属化合物でもやや高い温度(-234.15℃)でも超電導になることが発見された。
![]()
③電子励起爆薬
通常の爆薬は窒素の三重結合のエネルギーを利用して爆発する。爆薬にニトロ~と名がつくのが多いが、これは窒素化合物だからである。この窒素を利用した爆薬の中で最大の威力を持つ物はCL-20だが、TNT爆薬の2倍程度の威力しかない。
実は、通常の爆薬のエネルギーはそれ自体かなり低い。TNT爆薬1グラムのエネルギーが4キロジュール・1160カロリーだが、砂糖1グラムが約4倍の17キロジュール、ガソリン1グラムで約12倍の50キロジュールのエネルギーを持つ。逆に言えば、TNT爆薬のエネルギーは、ガソリンの12分の1、砂糖の4分の1である。
ただ、TNT爆薬は砂糖やガソリンに比べて驚くほど速く(ナノ秒・10億分の1秒で)燃焼するため爆弾になる。核爆弾も瞬間的に核反応を起こすから都市を破壊するほどの威力になるのである。もし、チョコや飴玉などのお菓子が、数ナノ秒で燃焼できれば、これまでの最強の爆薬(CL-20)よりも数倍威力のある爆薬になるだろう。
通常の窒素爆薬のエネルギーよりも高く、かつ瞬間的に放出する新しい爆薬として、電子励起爆薬が考えられている。
電子励起爆薬は、材料となる爆薬の中の原子にエネルギーを投入し、原子の中の電子の軌道を外側へ変えておく。多くの物質は直ぐにエネルギーを放出して元に戻ってしまうが、ごく一部の物質は、エネルギーを蓄え込む。この蓄え込んだエネルギーを一気に放出させることで、従来の窒素を使用した爆薬の数百倍の威力を持たせることが出来る。
この電子励起爆薬を、エネルギードライバーの爆薬発電機の爆薬や、あるいは核融合燃料と一緒にしておくことによって、ローソン条件を超えて核反応を起こさせるのである。
問題点は、電子励起エネルギーを蓄えたまま安定できる物質が、まだ発見されていないことである。候補としてはヘリウム・水素・炭素を高圧、または極低温にすることで実現可能ではないかと考えられている。
現在、原子の動態をデーターベースにしてスーパーコンピューターによるシュミレーションで、電子励起爆薬が理論上実現できるか試されている。近年の高威力の爆薬(CL-20)なども先にスーパーコンピューターによるシュミレーションで分子構造を決定させ、そこから物質を作り出した。
今後、スーパーコンピューターによるシュミレーションで多くの仮想実験か行われていくだろう。
![]()
④Zピンチ(Zマシン)
爆薬発電機の瞬間的な大電流でどうやって圧縮させるのか?その一つにZピンチ方式と呼ばれる方法がある。これは何本もの線をカゴ状にまとめて大電流を流すと、線同士がカゴの中心部に向かって爆縮するのである。
カゴの中に核融合燃料を置き、大電流を流すと燃料が爆縮してローソン条件を上回り、核融合反応を起こす。また、燃料が無くても大電流を流して爆縮したカゴは強力なX線を放出する。このX線を使用する方法もある。
![]()
⑤レーザー
Zピンチで爆縮する以外にも方法はある。多数のレーザーを使って全方向から照射し、核融合燃料を爆縮させて核融合を起こす。慣性核融合発電で使われている方法である。
そのレーザーの仕組みは、さっきの電子励起爆弾と同じく原子を励起させて起こす。励起した原子から放出されるエネルギーの波長は一定で均一なのを利用して行われる。
まず、原子にエネルギーを入れて励起させる。レーザーに使用する原子はエネルギーを蓄えないので、すぐに特定の波長を光として放出する。
放出された光は、合わせ鏡で反射しながら増幅していき、ついに鏡を透過してレーザー光として発射される。
レーザーはその構造上、威力が大きいのは重く大きいので、爆薬発電機に比べると不利だと考えられるが、レーザーの制御はフェムト秒という物凄く短い時間で制御できるので高速点火にはなくてはならない方式である。
⑥核融合燃料
核融合燃料は、固体か液体でなければ点火が難しい。気体だと密度が低すぎて爆縮させても核融合反応が起きない。液体重水素は超低温(-249.4℃)にしないと液化できない。初めてできた水素爆弾は液体重水素を使用していた。
純粋水爆に使われる燃料を考えると、液体重水素か乾式水爆に使われる重水素化リチウム、炭化重水素、水素吸蔵合金が考えられる。水素を化合物にすれば密度は液体重水素よりも高くなるが、水素以外の物質が爆縮や核融合の邪魔(中性子を吸収するなど)をする可能性がある。
重水素化合物にエネルギーを与えて、電子励起爆薬にすることが出来れば、純粋水爆の可能性がかなり高まるだろう。
![]()
⑦直接点火方式
核融合燃料球体に全方向からエネルギー(レーザーやZピンチ)を与えて爆縮させる方式である。一番簡単な方法だが、エネルギーにムラが出来て上手く爆縮させるのが難しい。中心点火方式ともいう。
⑧X線間接点火方式
まず、Zピンチに大電流を流してX線を発生させる。それを回転楕円体で反射させて核融合燃料球体に全方向から照射させ爆縮させる。直接点火よりも爆縮しやすく、アメリカで積極的な開発が行われている。
なぜ、アメリカがこの方式を進めるのかというと、水爆のテラー・ウラム方式が、直接点火ではなく核分裂爆弾のX線を使って間接的に核融合燃料に点火するため、そのノウハウを生かせるからである。
現在アメリカではプルトニウムを臨界に達しない極少量用意し、それをZピンチによるX線間接点火方式で核爆発させる未臨界核実験を行っている。未臨界なので核実験条約には抵触せず、一部しか核爆発しないので、安全に新開発したプルトニウムやウランのコアを試せるし、古くなった核兵器が確実に作動するかの研究にも応用されている。
1995年に核実験が全面的に禁止されて以降の、アメリカの新しい核兵器は、この方式を使って開発されたものである。
⑨高速点火方式
日本が慣性核融合発電で行われている方式で、核融合燃料球体に中心部に刺さる入射コーンを取り付け、全方向からエネルギーを与えて爆縮させた後、中心部に向かってタイミングを合わせてレーザーを照射して点火する仕組みである。
直接点火よりも、少ないエネルギーでローソン条件に達し、核融合を起こすことが出来る。
⑩どのようなシステムが考えられるか
現在可能な方式での組み合わせとなると、エネルギードライバーに爆薬発電機を使用し、Zピンチで核融合燃料(重水素と三重水素の化合物)に点火する方法が考えられる。
ただ、これで起こせる核爆発は、推論上爆弾の重量と同じTNT爆薬の爆発と同じくらいの威力にしかならない。つまり、核爆発にしては威力が小さすぎるのである。
![]()
⑪継続的な核融合反応を起こすことが重要
原因として「ローソン条件に達した核融合燃料の核融合反応が短時間で終わってしまう」からである。つまり、1キロトン程度爆発威力のある核融合燃料を使用しても、ごく一部しか着火せず全体にいきわたって反応しない。核分裂爆弾(原子爆弾)も連鎖反応が80回ほど継続しないと20キロトンの威力が出ず、10回程度だとTNT爆薬よりも遥かに小さい威力しか出せない。
この解決策が突破できない限り、実用化は難しいだろう。私なりに考えた解決案は以下のようなものである。
核融合燃料に、重水素を含む電子励起爆薬を使用する。
核融合燃料の周りを重金属(タングステン)で覆い、閉じ込め時間を長くし、連鎖反応を継続させる。
Zピンチは金属線をカゴ状にするので、その中の核融合燃料を球体ではなく極細の円筒型(線状)にする。
線状の核融合燃料の端からレーザーを使用した高速点火をおこない、導火線のように反応を継続させる。
いずれにせよ、威力をアップするために、様々な改良が必要である。