今週のバキ道/第110話 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第110話/首吊(ハンギング)

 

 

 

 

嚙みつきを「嚙道」と規定しなおし、格段に強くなった、というか強さの質を変容させたとおもわれるジャック・ハンマー。彼の挑戦を、加納伝いに宿禰が快諾したところである。

 

これは試合当日の朝のようだ。光成が鯉に餌をやっている。ふと林のほうを見ると、葉のなかから足が伸びているのが見えた。そこからみると首吊り自殺しているみたいだ。さすがの光成もあわてて走り寄って見上げる。そこにはジャックがぶらさがっていた・・・。しかしもちろん首を吊っているわけではない。なにか吊るした布をかんで、小鳥があたまにとまるほど安定した状態でぶらさがっているのだ。

光成はまだうしろからしか見ていないので、ジャックが首を吊ったとおもっている。そこで大声をあげると、ジャックが気がついてふりかえる。眠っていた、もしくはうとうとしていたようだ。

最初は汗びっしょりかいていたが、もしかするとこれはぶらさがるのがきついからかいていた汗ではなく、ただの寝汗だったのか、着地したジャックはなんでもない顔つきだ。光成はまだ首吊りだとおもっているので、ジャックは状況を説明する。布団で寝るのが苦手なので、ここで休んでいたと。水中とか無重力空間みたいに、からだがどこにも接触していないと楽だっていうもんな。背骨とか腰の骨もストレスから解放されてバランス的にもよさそう。

とはいえ、200キロのからだを顎ひとつで支えているのだからふつうに特訓である。だがジャックは、特訓はこれからだという。なにをするのか。よく誰かがジャックを話題にしてるときとかに出てくる絵だが、シャフトにくくりつけたひもをかむバーベルエクササイズなのだった。大きいプレートが左右に4つずつで8個。これは、ひとつ20キロのやつかな。光成は枚数を数えながら「よん・・・ひゃく・・・?」といっているのだが、これが、「400」といっているのか、その前の「ひぃ、ふぅ、みぃ」から続いたセリフなのか、よくわからない。しかし100キロではなんか軽いような気もするし、400のわけないよなという気もする。

このトレーニングは、実は静的なものではなかった。ジャックは、かみ合わせた歯を少しずつ開き、指のなかでダンベルを転がすようにして、可動域いっぱいまで開いてくちをとじるのだ。

まさしく顎の筋トレ、嚙む動作そのままの動きに負荷を加えるトレーニングである。ジャックの足元には、汗ではなくヨダレがたまっていくのだった。

 

 

 

 

つづく。

 

 

 

 

あんまり進まなかったし、あんまり書くこともない感じの回だな。だがトレーニング描写は好きなのでおもしろかった。顎鍛えたくなっちゃうな。

 

 

なにかの表徴とみられるようなものも今回は特に見たらないので、なんとなくジャックのトレーニングを眺めてみよう。そこからなにか出てくるかもしれないので。

今回描かれたのはぶら下がり(ハンギング)とバーベルカールだが、これは負荷のかかっている方向がちがうので、それぞれに鍛えられる箇所が異なるだろう。ぶら下がりは上向きにジャックじしんの体重が負荷となり、バーベルは鉛直下向きに重りがぶら下がる。だから、ぶら下がりでは上あご、バーベルでは下あごに負荷がかかることになる。顎まわりの筋肉のことはよくわからないのであてずっぽだが、じっさいに動くのは下あごで、上あごそれじたいは動かないようである。少なくとも、下あごとの関係性のなかには動かない。相対的にそうおもわれるだけだ。ではぶら下がりはどこに負荷がかかるかというと、首だろう。上あごが「動いている」といえる状態というのは、要するに頭蓋骨が首を蝶番にして動いているときなのだ。親指以外の4本の指を垂直に曲げて、鉄棒にひっかけてぶら下がっているような状態だ。このときに作用するのは前腕である。同じように、このぶら下がりではたぶんそれほど強く下顎をかみしめる必要がない。負荷の大部分は首や脊柱にいって、下あごは、鉄棒でいうとしたから添えられた親指のように、安定性をもたらすものだろう。

また、このハンギングでジャックは、吊るした布を口の横から嚙んで、それでいてからだが正面を向くように固定している。布は口の右側にきているので、それに抵抗するために、首をねじる筋肉の左側が緊張している状態だ。まさに首吊りのように縄をわっかにして嚙めばこのあたりを気にする必要はないが、あえてこうするからには、逆側から布を通したものもやっているのだろう。つまり、バイティングにかんしてこのハンギングのトレーニングは、下あごの強い嚙む力を支える、補助的なトレーニングだと考えられる。200キロを支える首のちからがなければ、いくら打撃が強くても握力が足りないと拳がほどけ手首が曲がってしまうように、下あごのパワーがすべて引き出されることはない。また首のねじりにかんしては、本部戦で横向きに歯をぜんぶもっていかれた苦い経験が生きているのかもしれない。鍛えられるのかどうかはよくわからないが、たぶんこれなら歯、もしくは歯ぐきそのものにもそうとう負荷がかかるはずなのだ。

次に、これこそが特訓だということでバーベルトレーニングが行われる。事実、以上のはなしからして、じっさいの「嚙む力」を養うのはこちらのトレーニングだ。動作じたいが「嚙む」そのものなのだから。

そしてジャックはそのハンギングを休憩ととらえている。じっさい眠ってもいたようだ。これはいわば「反作用」のぶぶんを日常ととらえているということだろう。物理現象には作用と反作用が見出せる。たんにふたつの矢印が交差するだけのシンプルなものもあれば、複雑に入り組んだ現象もある。もっといえば、物理現象を超えて、目に見えるものも見えないものも、ありとあらゆるこの世の「動き」というものは、反対側に同じ量の「動き」を想像させる。そうでなければ、世界はつねに不均衡に、どこかにむけて傾斜したものとなる。世界が昨日と今日でおおよそのところちがわないものであるのは、バランスをとって、「ゼロ」になることが標準であることが求められているからなのだ。

こういうふうにみたとき、「嚙む」がこの世に実現する動作であるならば、その反作用に耐えるために首や歯が鍛えられることは必然である。このことはひょっとするとジャックが嚙道を通じて悟ったもっとも大きなことなのかもしれない。長時間の労働のためには、長時間の睡眠が必要である。強い打撃を放つためには、かたい拳や、部位鍛錬で練り上げられた丈夫なスネが必要だ。量的拡張をメインにして強さを求めてきたジャックは、原則的に「作用」ばかりに気をとられていたはずである。はずであるというか、性格的にそうであっても不思議ではない。極端なことをいえば、拳がぶっ壊れようがスネが折れようが、、いま放とうとしている打撃が人生最強のものであればそれでいい、というタイプだったわけである。が、じっさいには、打撃によって拳が壊れてしまうということは、そのぶんエネルギーが逃げているということなのだ。

道を求めて極めるにつれ、ジャックはそのことを悟った。そこには、例の普遍性の探究と、再現性のようなことも含まれていたかもしれない。それは、不均衡を是正してバランスを保とうとする世界の意志を知るということだ。彼は、まず「反作用」のぶぶんこそが鍛え上げられていなければ、それこそ究極の打撃など考えられないということを発見したのである。だが、常軌を逸した彼のトレーニング概念は、いまはそこまで深刻ではないかもしれないが、まだ生きているのかもしれない。だから、休息時間、日常の「トレーニングではない時間」に、反作用があてられるのである。

 

 

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