ろくでなしBLUESのすすめ | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

最近はhonto(大日本印刷(DNP)運営のネット書店)の電子書籍でろくでなしブルースの電子版を買ってちょっとずつ読んでいる。読んでいるといっても、気に入っているところを選んで買っている感じなので、あんまり健全な買い方ではないかもしれない。(リンクはアマゾン)

 

 

 

 

 

 

ろくでなしブルースという漫画がどの程度現在でも知られているのかよくわからないが、作者は森田まさのり、『ROOKIES』や『べしゃり暮らし』で知られる日本を代表する超一流の作家だ。『ろくでなしBLUES』は『ドラゴンボール』や『スラムダンク』の時代、黄金期のジャンプを支えた、森田まさのり最初期の長編である。全42巻、8年半の連載となった。ぼくもこの時代に小学生で、漫画を読んではいけない家庭だったがジャンプだけは小学5年生からOKになり、リアルタイムで読んでいたはずである。リアリズム系の作風で、真鍋昌平にも通じるというか、実在の場所を背景にして物語が展開するので、かなり時代の呼吸が強く感じられるので、いま読むと古く感じられる描写もかなりあるが、それは相対的にということで、漫画としての価値は微塵も古びていない。現実と地続きっぽい感触というか、いまでいえば聖地巡礼的な行為になるが、たとえば池袋・正道館高校編、葛西戦で、島袋というキャラが葛西とたたかったときに、吉祥寺のトイレのドアに穴があくのだが、当時は同じそのトイレのドアに直してもすぐ穴が開けられるというはなしを聞いたことがある(犯罪です)。ぼくは大学時代おもに吉祥寺で遊んでいたので、「ここは・・・!」みたいなことがけっこう多かった。いまは吉祥寺の駅周辺は10年くらい前とはまったくちがう景色になってしまい、「ろくブル」に描かれる風景はなくなってしまったが、そうしたわけで、いま読むと大学時代の記憶もこみで感傷的な気分になるわけである(大学生のときでももう10年以上前のはなしとかになっていたわけであるが)。前田と葛西が最後にたたかうステージみたいなところも、あれは井の頭公園なのだが、花見シーズンになると大学生たちが馬鹿騒ぎして毎年報道される例の場所で、ぼくじしん、そうした馬鹿騒ぎに参加したとき、その日はじめて会った女のひとに「あれは・・・!あのステージは・・・!前田と葛西が最後に戦った場所では?!」みたいなことを語り出して戸惑わせたものである。

 

こういう感じで好きな漫画ということでまちがいないのだが、正直に申し上げると、全巻コンプリートしているというわけではない。不思議なことであるが、そうしようとなったこともこれまでになぜかなかった。通して読んだことじたいはたぶん1回だけあるが(漫画喫茶だったかもしれない)、そのときを除くと、その「好きなところ」以外は読んでいない。ではなにを読んできたかというと、たとえばコンビニのあの分厚い廉価版である。そういうので、先の「正道館高校・葛西編」とかいうふうにまとめられているのを読むわけである。また、唐突に「あの話が読みたい」ということになって、たぶん探せば廉価版かコミックがあるはずなんだけど、我慢できずに、そのときはもう書店員になっていたので、じぶんで該当巻を注文して買いなおしたりもしていた。ドラマかなにかをやったことがあって、そのときはたしかむかしの店でそろえていたので、読みたいところをぽこぽこ買ったりもしていた記憶がある。だが、単行本はともかく、特に廉価版というのは、なぜか紛失しやすい。たぶん、カバーがなくて、消耗品っぽく仕上がってるぶん、どことなく「また手に入る」とかおもってしまうのだろう。罰当たりなものである。あと出先とかで買って忘れてきちゃうみたいなパターンも多いかも。大学時代のナニの家にもけっこう置いてきちゃったとおもうので、それはもうとりにいけないから、また買いなおすのだが、やはりなくしてしまう。そうしてついに電子書籍に手を出したわけである。

 

 

というわけで、実を言うと最初期のキャラとかは知らない・忘れているものも多いし、「このひとはどういう事情でここにいるんだっけ?」みたいなことも多いのだが、そんな状態でも非常に輪郭の明瞭なキャラクターと見事な顔の書き分けによって、ろくでなしブルースはどこからでも読めて、ふつうに楽しめてしまう漫画になっているのだ。こういうことを考えて、むろん最初から読んでいったほうがいいには決まっているが、ちょっと大きな声ではいえないやりかたとはしつつも、エピソードの内容を紹介していこうかなというのが本記事の主旨である。

 

 

舞台は吉祥寺の帝拳高校。帝拳に限らず、学校名などは有名なボクシングジムや空手の団体がモデルで、キャラクターも、ボクサーや実在の人物が名前やヴィジュアルの元ネタになっている。主人公は前田太尊という、頭は悪いが非常に喧嘩の強い、先輩後輩問わず信望の厚い男。プロボクサーを目指している。彼の中学時代からの連れが勝嗣と米示というふたりであり、彼ら含めほとんどの帝拳の仲間たちは前田を「前田さん」と呼ぶが、前田の単純な性格と、特に番長的な権力志向をもたない好ましい性格もあって、ふつうに年下以外はふつうにタメ口で話していたりするのも、なかなか新鮮なところがある。喧嘩の強さと一貫性に誰もが敬服しはするが、基本的に馬鹿なので、上下関係みたいなことがぜんぜん感じられないのだ。たぶんその対比で、のちの強敵たちは恐怖で子分たちを支配しているというパターンが多い。

初期のころなど、あまり記憶はないが、後期でも、長編エピソードのあいまなど、基本的には短篇完結のヤンキー日常ドラマみたいなぶぶんがけっこうある。そういうのもまたすばらしい完成度で、くりかえすがキャラクターがたいへんよく仕上がってるぶん、おもいもよらぬところが記憶に残ったりもしている。が、やはりぼくとしては葛西のような「強敵」が出現することによって始まる長編エピソードを推薦したいわけである。

長編エピソードの基本となるのは「東京四天王」という括りである。

 

 

 

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四天王がアベンジャーズ的に共闘する読者サービス回。左から、浅草・薬師寺、吉祥寺・前田、渋谷・鬼塚、池袋・葛西。

当初この括りはなかった。まず最初にあらわれたのは渋谷の鬼塚というコートを着た男で、こう見るとすっきりしたいい男風だが、登場時にはそうとうに非道な男として恐怖で仲間を支配していた。前田のアッパーで顎を割られながらも、血を吐かず飲み続けるとてつもない精神力の持ち主でもある。ろくブルに限らない少年漫画のたいがいの敵キャラがそうであるように、鬼塚もまた前田に敗北したことで改心し、のちに再登場したときにはほとんど「四天王の良心、もしくはブレイン」くらいの存在にまでなっている。

次に登場したのは浅草の薬師寺。空手をつかうひょろっとした男だ。前田と似た性格で、前田にとっての勝嗣・米示のような存在である亀岡・鶴田というふたりからはタメ口・呼び捨てで、番長という感じの扱いはされていないが、ふつうにめちゃくちゃ強い。が、あたまはよくない。喧嘩とは別にもっとも太い物語のラインとして、前田と千秋という女の子の恋模様もあるのだが、千秋と薬師寺は幼馴染でもあり、その意味でも前田と薬師寺は対立する。

 

この次に登場するのが作中1、2位を争うであろう強さの池袋の葛西である。おそらくこのときはじめて「東京四天王」という呼称が出てくる。はなしは、鬼塚の連れだった須原という男が吉祥寺にやってくるところから始まる。鬼塚が葛西という男に負けた、という報せだ。なぜわざわざその情報を吉祥寺にもってきたのかというと、葛西は四天王を全員倒すつもりでいたからなのだ。その四天王というのが、鬼塚、薬師寺、葛西、前田であると。須原は、鬼塚はもちろん、前田の強さもよく知っている。そのうえで、相手にするな、という警告をしにきたわけなのである。

葛西は「四天王」という呼称じたいをひどく嫌っている。のちに葛西の友人である坂本という男が話すことだが、葛西はいちど敗北することによって仲間を失うという経験をしており、以来、絶対んい負けてはならない、いちばん強くなければいけない、という強迫観念にとらわれている。だから、誰かと同列に並べられるような呼称は我慢ならないのだ。

やがて薬師寺も敗北。千秋含めて、なんとか周囲は喧嘩を回避させようとするが、けっきょくは対戦、そして前田は徹底的に負けてしまう。これはろくでなしブルースに通奏する書き方でもあるが、なににこだわるでもない前田だが、この敗北は非常に大きな意味をもち、けっきょくリベンジをすることにはなるのだが、その「小さなことにこだわる」というような感じが、とてもいいのだ。それは彼らが、ヤンキーだから、また高校生だから、ということでもあるのだが、大人になると些細におもわれるようなひととしての「ありよう」や「ものの道理」といったことに、彼らは非常にこだわるのである。葛西にしても、大勢の仲間がついてこないからといってなんだというのか。しかも、葛西には坂本という親友もいた。敗北して、仲間が離れていったあとも、坂本は「だから?」といわんばかりの涼しい顔でそのそばに残っていたのである。最終的にはやはり葛西も改心していくのだが、ろくでなしブルースが再読に耐える作品であるのは、こうした小さいことへのこだわりが、たいへんなリアリティを呼び込むからである。前田のライバルというか、よき相談役というか、島袋という、別の高校の柔道家がいるのだが、彼は見た目はわるっきりオヤジで、彼に限らず、「こんな高校生がいるかよ」というようなキャラはたくさん出てくる。だが、その拘泥、自意識、プライドのありかたは、まぎれもなく高校生のもの、大人になって適当にいなすことになれてしまったものなのだ。

 

このあと、究極の読者サービス回として、最大の長編、大阪・極東高校、川島編に突入する。少年院に入っていた川島が、辰吉という、かつての前田のライバルでもあった男の仕切る極東高校に復学し、川島を倒す。川島は、ヤクザの鉄砲玉となった兄のカタキをとろうとして入院していたのだ。その川島の目的は、じしんの暴力で極東高校のメンバーを支配し、川島組を設立することである。

川島↓

 

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森田先生は阿部和重ばりに複雑な物語を、キャラ立ちに支えられた人間模様をうまく取り込みつつ展開させていくが、その意味でも極東高校編は白眉である。まず前田の父親がトラックにひかれたことで前田や勝嗣たちが大阪にやってきて、川島と接触する。その後、修学旅行で東京にやってきた極東高校は、まず渋谷で鬼塚や須原たちと接触する。さらに、揉め事が起こりつつあると察した千秋やその友人・和美は、薬師寺に連絡をとって助けを求める。そして、極東高校の宿泊するホテルは池袋にあり、ちゃんと葛西の正道館高校ともトラブルを起こす。かくして、前田、鬼塚、薬師寺、葛西は共闘することになるのである。うえの写真は、それぞれの仲間にはほとんど内緒で、4人で極東高校150人に挑もうとしているときのものだ。前田は川島とのタイマンに入り、残りの3人は、この150人とたたかうことになる。そしてなんと勝つ。しかしそこへ、退学予定だった極東のナンバー2格の二人、鷹橋と梅津という、これもまた魅力的なキャラが参戦、さすがに疲れきっている葛西たちはやられてしまう。だけどもちろんそこでは終わらない。そこでようやく、居場所をつきとめた四天王の仲間たちが現場に到着する。実質東京連合軍、アベンジャーズでいえばアッセンブルの場面である。

 

 

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ひとりひとり背景や性格を説明したいところだが、ともかくここで仕切り直し、たたかいは第2ラウンドに突入するわけである。

川島は、前田を除くと、おそらく作中最強とおもわれる。片手の3本指で十円玉を曲げ、140キロはあるとおもわれる超巨漢の上山という鬼塚の舎弟をショルダープレスのフォームでもちあげる怪力の持ち主だ。川島は、彼の信用を失墜させてトップになろうとたくらむ畑山という後輩の策略で、暴走しまくりである。が、これもやはり改心する。そこには複雑な人間模様と仲間たちの悟りがあり、これもまたひとことで語れるものでもないが、何回読んでも飽きない。とりわけ、葛西にはわだかまりがある鬼塚・薬師寺が、葛西と遭遇したあたりの心理描写は見事というほかない。

 

 

葛西や川島など、強いキャラはもちろんぼくも大好きなのだが、それ以外の、そう強いわけではないキャラクターもたいへん魅力的である。ふたり紹介しておこう。ひとりは、前田が3年時の1年、彼を殿と呼んで崇拝する大場ヒロトという少年だ。

 

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ある意味では主人公的に常に物語の中心におり、そして常にぼこぼこにやられている。心理的葛藤がもっともよく描かれている人物でもあり、読者の身の置き場みたいな役目も果たしている。注目は川島編後の、じぶんのありようについての苦悩である。前田は葛西を倒して実質東京を制したヤンキーであり、そのうわさはふつうのカタギの高校生にまで伝わっている。その威を借りて、じぶんは帝拳を名乗り、偉そうにしているだけなのではないかと。げんに彼はそうしていたのだが、当初はそんなふうには考えていなかった。無邪気に「殿」を尊敬していればそれでよかった。しかしふとわれに返ってみると、「おれは何なんだ」となるのだ。そうして、どう考えても歯が立つわけがない前田に、ヒロトはタイマンを申し込むのである。

 

 

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もうひとりは中田小兵二という、いわばギャグ要員である。自称帝拳の番長で、小兵二軍団などといって舎弟を連れて歩いているが、まあぜんぜん冴えない。千秋にいっぽうてきにおもいを寄せてもいるが、前田にも千秋にもぜんぜん相手にしてもらえない。見栄ばかり張るのでいつもトラブルを起こし、彼が着火した抗争もあるくらいだ。が、どこか憎めず、存在が気にかかってしかたない。

これまでの敵キャラは基本的に「強さ」を求めるシンプルなヤンキーだったが、最終章でこれ以上考えられないほど卑怯で極悪な白井という男も登場する。このとき、小兵二のなかに潜在していたある種の魅力が明らかになる。白井は、いろいろあって、前田と千秋の仲を裂こうとしている。非常に周到にシナリオが描かれているので、誰も白井を悪人だとはおもっていないのだが、小兵二はなんとなくあやしさを感じており、白井と千秋をストーキング、最終的には、前田と千秋の関係を壊さない方向へと行動をとるのである。白井たちにぼこぼこにされたあと、泣きながらふたりを認める姿は胸をうつ。物語がスムーズにすすむことを阻む、しかしそれでいて目がはなせない、不思議な人物である。

 

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ほかにも数え切れないほどたくさん、多種多様な人物が登場する。そして、言葉にするとばかみたいだが、絵が上手いのである。誰ひとりとして顔つきがかぶっておらず、それに導かれるように人柄も重ならない。これは、ひょっとするとモデルがいることが関わっているのかもしれないが、いずれにしても、どこかじぶんも前田やその仲間たちとつるんで学校行っているような気分になるのだ。葛西編、川島編だけでもぜひ読んでいただきたい。電子版では通常の単行本とは異なるまとめられかたをされているが、葛西編は16巻から、川島編は20巻から読むことができる。ぜひ年末年始の時間あるときにでも読んでいただきたい。

 

 

 

 

 

 

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