今週のバキ道/第13話 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第13話/現行犯逮捕

 

 

 

 

 

 

 

 

光成の家でひととおり試し割りを終えた二代目・野見宿禰。そこへ、廻しをしめて準備万端のビスケット・オリバがやってくる。

オリバは、ブラック・ペンタゴンでのリアクションからしても、じぶんが呼ばれるということがどういうことかわかっている。それは、相手が力自慢だということなのだ。オリバの全身には血管が浮かび上がっている。

 

 

てっきり廻しからなにから光成が用意したのかとおもったが、どうもじぶんでやったみたいだ。じしんも地下闘技場選手である加納は、オリバのからだの異様さを感じ取る。というか、加納はオリバを知らないのか・・・。

地下闘技場では観戦も含めてありとあらゆるタイプの強者たちを見てきたはずだ。その加納が、ほとんど異形といっていいようなオリバの肉体に驚愕している。ヒトに肉はこんなふうになるこのなのかと。もはや逆三角形でなく、逆二等辺三角形である、という、なんだかよくわからない驚き方をしている。いや、通常の逆三角形も二等辺三角形だとおもうけど。そうでなかったら背骨ゆがんでるんじゃ・・・。

 

 

あたりにはスクネが破裂させたサンドバッグの中身がちらばっている。そしてオリバは、前回の登場のときから引き続いて、持ち主に断りなく破壊したその行為を重罪であるとし、現行犯逮捕する、と宣言する。オリバは、「持ち主に断るまでもなく」といっているが、これはむしろ、光成に聞いたら、逮捕が否定されてしまうからだろう。だって、光成はスクネがこのサンドバッグでなにをするか見たくてこの場所を用意したのだから、これは破壊とはいえないのだ。

 

 

 

 

「なんとも救いがたく――

 

 

痩躯な力士もいたものだ」

 

 

 

 

 

意外にもスクネは挑発するような口調でこういう。オリバが廻しをつけて、相撲する気満々できていることにちょっと腹を立てているのかもしれない。

「痩躯」という音を、オリバはしっかり「痩せている」という意味で理解している。そのことを、日本語が堪能だと、スクネが誉める。そうして、前屈立ちみたいな立ち方になる。オリバとしてはむしろ理想的な展開である。向こうから喧嘩を売ってくれているのだから、なにもためらうことはないのだ。しかも相撲は相手の土俵なのである。

立ち合い、というかなんというか、オリバの全身が浮いた体当たりを、スクネがからだの前面で受け止める。しかし、音がなにかおかしい。「ぱそ・・・」という、硬いものを粘土にたたきつけたような、行き場のない音である。オリバとしても、じっさい手応えが感じられないようだ。押してる気がしないと。

オリバは押すのをやめて、今度はスクネのまわしをつかんで引き上げようとする。ちょっとみっともないくらい足先まで張っているので、ふつうに本気だしているだろう。ハーレーを遠くにぶん投げる男である、このままがんばれば上がらないということもなかったろう。が、スクネが動く。剛力ではあっても「角力」、すもうではないとし、オリバを投げる。ちょうどこの前のバーベルのように、オリバは空中で回転するようなかたちになり、スクネは大人が子どもの脇のしたに手をいれて抱えるようにこれを支え、「逆三角形」は「三角形」にはかなわないのだと、謎めいたことをいうのだった。

 

 

 

 

 

 

つづく。

 

 

 

 

 

まあこんな感じになるだろうとはおもっていたが、最初から差が大きすぎて、この先どうするんだろうと心配である。いくらピクルや勇次郎がちから強いといったって、オリバと大人と子どもというほどにはちがわないだろう。ふとおもったのだけど、スクネの登場を誰より喜びそうなのは、作中では宮本武蔵なんじゃないかな。

 

 

今週もスクネの言動は謎めいている。加納は、オリバの肉体をみて、逆三角形というよりもはや逆二等辺三角形だとした。まあことばだけ受け取るとよくわからない驚き方なのだが、彼のいいたいことは絵にあらわれているあのつぶれた三角形のことだろう。あまりに厚く、底辺の幅が広いから、三角形は三角形でもつぶれた二等辺三角形になってしまっているのだ。

しかし、スクネがいうには、それではだめだという。彼は、加納の考えたことを踏まえているかのように、逆三角形では三角形に勝てないと、このようにいうのである。純粋に図像だけを眺めれば、▽というかたちはいかにも不安定ではあり、△は非常に安定している。オリバは、まるでそれを表現するように、足をそろえて、爪先立ちみたいになってスクネを持ち上げようとしているのだ。それをスクネは、ちからはすさまじい、しかし、角力ではないとするのである。スクネが角力の根本的な力比べのことをいっているのか、それとも、果てしない年月をかけた洗練のさきにある相撲の技術のことをいっているのか、それはわからない。ともかくスクネは、オリバの剛力はじぶんには通用しないということを示したのである。これが明らかにしたことのひとつは、「腕力」というありかたが一様ではないということだ。スクネはオリバの剛力を認めている。じっさい、オリバほどの怪力の持ち主は、作中でもほんの数人しかいない。これまで書いてきたように、その網羅性、細かな筋肉まで鍛え上げる執着まで考えたら、作中ナンバー1といってまちがいないだろう。しかしそれは角力ではない。力比べとしてはじまり、またそれが発展していったさきにある「すもう」においては、その腕力は役に立たないのである。

このことは、たぶん想像しているよりも大きな事件である。つまり、もしスクネが、たんじゅんにオリバを上回る腕力でこれを圧倒したのであれば、はなしはかんたんなのである。しかしそうではない。彼はオリバを剛力と呼ぶ。ところが、角力ではないのだと。バキ世界の住人の、強さの位置関係が不等号ではあらわせないということはこれまでもくりかえし書いてきた。事実、たたかいにおいては、ルール、状況、タイミング、体調、相性などさまざまな要素が混じりあっているから、ある勝敗が、そのまま両者の関係性を決定するということにはまずならないのである。その混沌とした最強戦線に秩序をほどこすのが勇次郎、という言い回しも飽きるほどしてきたが、しかし、「腕力」というカギカッコつきの力の量にかんしては、その限りではなかったわけである。それは、体重であり、瞬発力であり、持久力であり、スピードであり、要するに、数字に換算してとらえることが原理的には可能な側面だったのだ。だからこそ、攻めの消力のような理屈も作中では成り立った。あれは、ゆるめればゆるめるほど、緊張するまでのふり幅が広くなって、威力が増大するという技であり、その発想はまさしく力のものである。郭海皇は肉を捨てて技にすすんだが、おもえばこのとき、彼は技を通して肉がもたらす力を裏側から手に入れていたわけである。そのほかにもさまざまな技術を持ちながら勇次郎には消力で挑んだことが、考えてみれば郭の敗因だったのかもしれない。

だがスクネはここに新しい発想を持ち込んだのだ。ここでは「腕力」でさえ一様ではない。別のありかたで、それぞれに「怪力」であることが可能なのである。

そう考えると、まだスクネの底は見えていないし、同時に、オリバにもチャンスはあることになる。今回は角力で挑んだのだ。角力にふさわしいちからを、オリバは発揮できない。では、ここからいつもの腕をふりまわすような攻撃に以降したらどうなるだろうか。また持久力の問題もある。「バキ道」が相撲オンリーでいくのかわからないのでなんともいえないが、勝敗にかんしてはまだなんともいえない感じだ。

 

 

オリバの現行犯逮捕の言いがかりは、スクネの聖性を受けてのものだろう。何度か書いたが、スクネの登場は、作中に正邪の概念がはじめてもちこまれ、対立を開始したことを示している。スクネは、正しきをなそうとしてたたかう。したがって、これに挑もうとするものは、スクネの解釈の内側では、邪ということになる。彼の背後には「神」があるので、神の名のもとに殺戮を開始するとか、今後ややこしいことになっていかない限り、彼の正しさはとりあえず疑わなくてよいだろう。少なくとも、スクネの行動原理がひとつであって、彼はそれに背かないであろうことは信頼していいのだ。そうしたところで、オリバが最初にぶつけたのが「法」なわけである。つまり、現行の社会は、「神」に背中を預けなくても、法律に基づいて正義を規定することができる。オリバはまず、正邪の対立そのものの当事者としてではなく、「神」を前提としたその対立じたいに疑いを投げかけるものとして、最初に投入されたのである。その意味で、彼ほど適任もいないだろう。彼は、イリーガルなハンターで、それでいて、凶悪犯罪者を違法行為(暴力)でとらえる犯罪者である。オリバがなぜ刑務所にいつづけるのかということにかんして、世論というか、一般的な認識があるのかどうか知らないが、ぼくは、アメリカの国家としてのプライドだと考えている。オリバの動機は、まずマリアであり、そののちに獲得された強さが、彼に最自由をもたらした。だから、彼は、じぶんより自由にふるまうものを認められない。ここでいう自由とか不自由とかは、そもそも、行動を制限しようとする規則があってはじめてあらわれるものだ。無人島で生まれ、外の世界を知らないで育ったものが、じぶんは不自由だとか考えることはない。そもそも、オリバは法的な人物なのだ。だが、法によって拘束できない人物が存在しているという事実を、国家は認めるわけにはいかない。国家からすれば、オリバはまぎれもない犯罪者である。こうしたところで、「刑務所で豪勢な暮らしをする」という両者の落としどころが出現する。オリバだって、武蔵がやられたみたいに、警察や軍隊を相手どってたたかうことをすすんでやろうとはおもわないだろう。さいわい向こうはマリアのためにもいい暮らしを用意してくれるようだし、そういうことならと、オリバは刑務所に住むのである。そして、国家としてはむしろオリバを利用する。やっかいな犯罪者のハントを彼に依頼すれば、オリバじしんがハントを望んでいることもあり、いわゆるwin-winになるのである。

そうしたわけで、オリバは、イリーガルであるということを発端にして、骨の髄まで法的な人間なのだ。違法も、最自由も、「法」のある世界でなければ成り立たないからである。そうして考えれば、パワーファイターであると同時に正邪を持ち込んだ人間であるスクネの最初の相手は、オリバ以外いないのである。

 

 

 

※noteに板垣恵介論を書きました!

作品より作家よりの批評です。250円。よろしくお願いします。

https://note.mu/tsucchini2/n/n75994596ae92