今週の闇金ウシジマくん/第421話 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第421話/ウシジマくん⑦

 

 

 

 

 

 

 

ウシジマくん再開です。ウシジマくんも久しぶりだけど、年末年始はさんで長文のものをなにも書いていなかったので、どうやってやってたのかすでに忘れかけていて、どうなるか心配である。

いちおう前の記事を読み返して、これまでの展開を(僕のために)振り返っておこう。なにしろ40日も前のことだから・・・。

 

 

熊倉やハブなどのヤクザを殺した丑嶋は沖縄から台湾に逃亡していたのだが、戌亥からほとぼりが冷めたという連絡を受けて柄崎とともに東京にもどってきた。仕事じたいは苅部がひとりで続行していたのか、細かいところはよくわからないのだが、昨日までもふつうに営業していたみたいに、丑嶋は東京での仕事を再開する。しかしほとぼりは冷めてなどいなかった。以前よりずっとちからをつけ、はるかに稼ぐようになっていた滑皮は、ずっと丑嶋がもどってくるのを待っていたのである。丑嶋がもどってきたことを彼が知ったのは、舎弟にしている探偵が、告げてあったナンバーの車を発見した、ということになっている。目立つ車とはいえ新宿の街中でそんなことをするのは常識的に考えて無理だし、ふつうに考えるとこれは丑嶋をだました戌亥なのだが、まだ不明である。で、滑皮はどうやら熊倉の死にかんして丑嶋が真犯人であるという確信があるようだ。これも、カマをかけているだけなのか、はっきりした証拠でもあるのか、そのあたりはわからない。そして、滑皮もあまり追及しない。そのかわり香典として3億もってこいと要求する。ちょうど時期的に熊倉の(そして加納やハブの)三回忌にあたるのである。丑嶋はどう考えてもあやしい戌亥と再会し、滑皮の近況を尋ねる。ここでも丑嶋はほとぼりがぜんぜん冷めていない件について追及したりしない。おもえば「ウシジマくん」は、嘘をついてるっぽいひとが多数いながら、それをあんまり追及しない感じの描写ばっかりなのだな。

滑皮の稼ぎ口については戌亥もはっきりとは知らない。これはたぶん本当だろう。どうも半グレの連中を脅したりしているようなのだが、そのなかに獅子谷という丑嶋とも因縁のあるらしい凶暴な男がいる。地下格闘技を主催して選手をつかった警備会社を運営するのが表の顔で、裏では強盗やクスリの売買などして荒稼ぎしているらしい。(もと?)悶主陀亞連合ということで、滑皮の後輩にあたるが、これが滑皮ともめていて、吸収された。もし丑嶋が3億払わないようなら、彼らは獅子谷を差し向けるつもりなのである。ここまでが前回。

 

 

そういう気分じゃないといって丑嶋が去ってしまったせいか、戌亥の実家のお好み焼き屋には柄崎だけがやってきていた。ふたりは翌日の昼過ぎまで飲んでいたようだ。あいだに丑嶋をはさんだ関係だろうに、よく間がもつな・・・などとおもったけど、ガールズバーとか行ったりしたのか。

昼まで飲むことになったのは柄崎がしつこかったからということのようだ。戌亥はそれを大丈夫なのかという。丑嶋はいま滑皮から脅されている立場だ。昼まで飲んでる場合じゃないんじゃないのと。柄崎は、じぶんは酔ってないし、これはむしろ有事にそなえて起きているということなのだと、それっぽくいう。戌亥はカマをかける。柄崎行きつけのガールズバーで、子どもの霊がいると主張する女の子がいて怖かった、あの店の魅力を教えてほしいと。ガールズバーに行ったことはたぶん本当なんだろうけど、女の子にかんしては戌亥の作り話である。柄崎はうっかり「憶えてる」といってしまう。それほど不快という感じもなさそうだが、柄崎は「性格悪いぞ」という。

 

 

 

 

 

「注意深く立ち回り、見抜けよ。

 

 

じゃないと柄崎も丑嶋くんも死ぬよ」

 

 

 

 

 

 

柄崎なりに戌亥には複雑な感情があるだろう。むかしから知っていて、尊敬する社長の親友で、何度もカウカウの手助けをした有能な情報屋で、それでいてどうもあやしい裏のある男。そういう状況でふたりきりになったので、柄崎的には戌亥の真意を探ったり、あるいはたんじゅんに仲良くなって距離を縮めたり、そういう目的があったのかもしれない。が、戌亥はそれを、肩をポンと掌底でつくように、相手の体勢を崩していなしてしまう。たとえば高田が地元から帰ってきて柄崎と飲んで、去り際に「注意しないと社長も柄崎さんも死にますよ」とはいわない。語調としては他人のものなのである。が、それと同時に、道をすれ違った知らないおじさんが「あなた注意しないと死にますよ」といってくることもありえない(いってくるおじさんもいるかもしれないが)。この微妙な距離。他人でもなく身内でもない、戌亥的ポジションとしかいいようのない位置。それを、注意を喚起するとともに、戌亥はみずから表明したのである。丑嶋が死ぬような事態になっても、そこにじぶんは含まれないのだし、死ぬこともない。たぶん、無意識に身内としてあつかおうとする柄崎から距離をとろうとした結果、それを表明しなくてはならなくなってしまったのだ。

 

 

滑皮にかんして丑嶋はいままでかなりうまく「適当に」ごまかしてきた。しかし熊倉の件がどうやらバレているらしく、そのかわりに3億という巨額を要求されている現状では、なんとなくふわーっとさせておくことはもうできない。それは丑嶋にはかなり頭の痛い状況だろう。いままで丑嶋はラットプルダウンを通して怒りの感情を消化し、事態を受容してきたが、その直後に彼は高田に連絡をとり、預けているウサギの動画を受け取って、それをじっと眺めていた。これは、比喩的な意味でもはやラットプルダウンでは解消しきれないものが出てきたことを示していただろう。「なんとなくふわーっと」ごまかすことができない状況については、こたえを出さなければならない。こたえというのは、3億払うのか、あるいは払わず公然と反抗するのか、どちらかということだ。しかしそれはいずれにしても最悪の事態であり(3億は丑嶋にとってもたいへんな額だろう)、丑嶋にもうーたんに癒される思考停止の休息の時間は必要なのである。

が、仕事はしっかりやる。紗里奈という年齢不詳の女だ。たぶんそれなりに若かったころは、みんなぽんぽん金をくれたのだろうけど、若さがその理由だとしたら、若くなくなってしまえばそうもいかなくなる。論理的にそうなる。しかし紗里奈はそのことに気づいていない。なんだろう、このいかにもウシジマくんという感じの債務者をみてちょっと懐かしくなってしまったのは僕だけだろうか・・・。紗里奈はアホで弱者だけど、悪人ではない。不思議な感覚だが、この丑嶋は妙に饒舌だし、ひょっとしたら彼も債務者のアホさにちょっと癒されてるぶぶんがあるのでは・・・。

 

 

滑皮から電話がかかってくる。柄崎たちが昼すぎまで飲んでいたという描写のあとだから、あの翌日だろうか。風呂をわかしているので、その日の仕事を終えたあとだろう。連絡がないから思い出してかけたという感じがする。今すぐ3億もってこいっつったって、滑皮さんいまから風呂入るんですよね?なんなんスかこれ?金持ち歩くたんびにこれじゃかなわないんで、僕、帰りますわ!

そういう滑皮に対して、丑嶋はおそらく間髪入れず「無理っス」と応える。ここは見開きになっている。たぶん、前回要求されたときは、熊倉の件についてもノーコメントでごまかしていたし、3億払うとも払わないともいわずに別れたのだろう。ごまかさずにはっきりと「無理」とした、そういう決定的な瞬間なのだ。これまでも熊倉とのやりとりで「無理っス」と応えるような場面はたびたびあったが、けっきょくは払わされていた。しかしこの見開きが伝えるのは、そういう言葉の駆け引き上のものではなく、はっきりとした拒否の回答なのだ。払うのか払わないのかの2択しかない状況で、彼は「払わない」を選んだのである。

 

 

注目の獅子谷の描写である。彼が経営している獅子谷道場のなかで、彼はひとり、羽田という男をしめたときの動画を見ている。鳶田たちに見せたのはちぎりとった耳を焼いているところだったが、あの動画には続きがあった。焼いた耳を羽田に食わせて食レポさせているのである。羽田はなんとか「固い」とこたえるが、不味そうだということで、今度は鼻が削がれることになる。後ろにはリングがみえるし、床は、空手や総合のジムではおなじみの、パズルみたいにつなげるマットになっているので、たぶんいま獅子谷のいるその場所で、この拷問は行われたようである。

そこに、獅子谷に負けず劣らず屈強そうな男が3人やってくる。どれも獅子谷の部下のようだ。獅子谷が集めたのだ。食レポシリーズの新作を作る、いまから丑嶋をさらうぞと。

 

 

 

 

 

 

つづく。

 

 

 

 

 

 

鳶田からの依頼では、丑嶋が3億を拒否したばあいは、拉致をたのむかもしれない、ぐらいの感じだった。たしかに丑嶋は3億を拒否したが、これはそれの結果、正式に指示が出たということだろうか。獅子谷は丑嶋になにかおもうところがありそうなので、指示がなくてもやりそうなので、よくわからない。まあ、どっちにしろ丑嶋は拒否してるので同じことだが・・・。

獅子谷の部下もものすごい体型をしている。下半身より上半身のほうが派手に発達しているところなど、どれだけ相手を威圧し、恐怖させるかというところに重点をおいたアウトローらしいが(足の筋肉はあまり見えないので、こういう目的ではどうしても消極的になってしまう)、だとしてもこれはそうとうのものである。しかし見たところ耳が沸いたりはしてないな。柔道をはじめとした寝技の使い手というのは、床で強くこするので、耳がつぶれて餃子みたいになってしまうのである。ひょっとしたら彼らは正式な選手ではないのかもしれない。

3人とも「MON MON MONSTER R.」と書かれたシャツを着ているが、警備会社の名前だろうか。獅子谷も含めみんな似たようなネックレスをしているが、ヘッドが全員異なっている。十字架に、盾に・・・リング?わざわざ区別しているのにはなにか意味があるのかもしれないが、まだわからない。

 

 

 

 

今回丑嶋ははっきり3億払うことを拒否した。じっさいのところ丑嶋は3億払うことはできたのだろうかと考えてふとおもったのだけど、ハブや獏木たちと倉庫で対峙したとき、丑嶋は家の床下に2億隠してあるといっていた。あの時点で丑嶋はハブたちを殺す気満々だったので、嘘である可能性も高いが、同時に嘘でも本当でもそれはどちらでもよいともいえる。それを踏まえると、もちろん滑皮は丑嶋の全財産がいくらなのか、などということを知っているはずはないが、2億でも4億でもなく「3億」であることは、なにか意味深である。これは「丑嶋が払えないぎりぎりの額」ということなのかもしれない。つまり、滑皮としては、熊倉の香典に犯人が払うのにふさわしい額として3億という数字をつけたのだが、それと同時に、彼は丑嶋が払えない額という意味もそこにこめていたのではないだろうか。滑皮は最初から丑嶋が金を払うとは考えていなかったのかもしれないのだ。

だとしたら滑皮は丑嶋になにを期待したのだろう。

滑皮は丑嶋に、「お前は一生俺の犬だ」と宣言していた。そこから3億の要求につながっていくので、それは犬として果たすべき責務であるというふうに読むこともできる。この要求の背後には、深く追及はされなかったが、丑嶋が熊倉殺しの真犯人であるということをじぶんは知っている、という無言の圧迫があった。熊倉を殺してしまったということはそれだけのことだと。

熊倉の件については、おそらく動画の件があってだろう、誰も仕返しをしようとしない。犯人が仮に薮蛇だったとしても、誰も戦争をはじめようとはしないし、噂レベルでわかってしまっている丑嶋の犯行ということについても、誰も動こうとしない。滑皮はそれが歯がゆい。明確に語られてはいないが、おそらくこれには、熊倉の動画の件と、彼がやや暴走気味だったことや、そもそもいまの世知辛さからしてそれほど抗争に積極的にはなれないことなど、おそらくさまざまな理由が重なっている。ともかく、事実として誰も仕返しをしないということがある。ということは、そのように語る滑皮もまた、行動に出ることができない。動画の件など、なにか理由があって、猪背のものはみんなそれを忘れたがっているのであり、滑皮もまたその文脈に含まれているのである。しかし、いまでも熊倉のことを尊敬している滑皮は忘れることなどできない。表立って、熊倉の復讐ということを大義に行動に出ることは避けなければならない、しかし我慢ならない。滑皮はこういう状況にいる。

そのうえで、滑皮は丑嶋に3億を要求する。これは、熊倉の命が3億であることを意味しない。なぜなら丑嶋は「一生」滑皮の犬だからである。これはむしろ、熊倉のというより、丑嶋の値段である。丑嶋がこれまで積み立てた2億という額と、これからかせいだかもしれない1億という額、これを滑皮は(構造的に)要求していることになるのである。だから、丑嶋がこれを払うか払わないかという意志のぶぶんは、もはやどうでもいい。金はしるしでしかない。重要なのは丑嶋を犬にするのは可能なのかという点だけなのである。

さらに、丑嶋がじっさいにどれだけの金をもっているのかは不明としても、仮に3億が彼の全財産を超えているとしたら、払えない丑嶋は負債感を抱えることになる。滑皮としては、正統的な文脈で熊倉の仕返しを明文化することはできない。彼は丑嶋を犬にすることで、みずからのうちに起こっているもやもやを消化しようとしているわけだが、そうするにあたって、結果として彼は丑嶋を債務者の立場に立たせている。熊倉の件について復讐が実行されれば、ある意味では取引は成り立つ。通常、報復が連鎖していくのは、それが奪っていくものがおなじものさしで語ることのできないものだからである。なにかを奪われたものが、同じだけの苦しみを与えようと、相手から別のものを奪っても、それらは同じものではない。比べようがないから、「これでチャラ」とはなりえない。だから報復の連鎖はとまることがない。しかしヤクザにおける仕返しの発想は、ヤクザと対面したものがそれを想像することではじめて価値を発揮するものだ。多くのふつうのひとは、結果として訪れるにちがいない報復を先取りして恐れ、手を出さない。そして、その報復が先取りされるためには、じっさいにそれが行われるという証明が必要である。それが面子を立てる。ある攻撃的な行動には必ず反作用がともなうと、そういう信憑が、ヤクザをヤクザたらしめるのである。

しかし熊倉の件にかんしてはそれが起こらない。それは、熊倉を尊敬していた滑皮からすればほとんど破門あつかいに等しいかもしれない。彼の死が、ヤクザの文脈に回収されていないということなのだから。それを、滑皮は丑嶋を犬にするということで解消しようとしている。ほかのヤクザがどう考えたとしても、彼のなかでは依然として熊倉はかっこいい先輩なのであり、その死に報いるなんらかの交換は行われなければならない。それが熊倉をヤクザとして弔うことにつながる。通常は反作用の大きさを想像して、誰も行動に出ないところ、丑嶋はやってのけてしまった。だとすれば滑皮は、丑嶋がやってのけてしまった作用がどれほどの反作用を呼ぶものであったのかを、しっかり思い知らさなければならない。それは、丑嶋の枠組みを超えた、返すことのできない借りというかたちで具体化していく。どうしようもない、死んでも、全財産をわたしても、それが解消することはない、そうおもわせなければならない。そのとき丑嶋にできることは、命の行方も含めて、全身を滑皮に預けることである。それがおそらく犬になるということなのだ。

 

 

戌亥の立ち位置もちょっとずつ鮮明になってきている。おもえば戌亥は名前に犬を含んでいる。以上のことを踏まえると、誰かの犬であるということは、返すことのできない借りがあるということになるかもしれない。