第360話/ヤクザくん⑦
最初からお見通しだったのかなんなのか、獏木と最上が丑嶋を張っていることが家守と井森にバレてしまった。ひとりでいるところを呼び出された最上はふたりに呼び出されて拷問を受け、ついにいろいろ吐いてしまう。そこでマサルと会っていた獏木も呼び出し、いろいろ聞き出すつもりだ。
井森はスリングショットをつかう。パチンコみたいなものでどのくらいの威力があるものかわからないが、マザー2というゲームでは、主人公の武器がバットかスリングショットだったから、少なくともエアガン並みかそれ以上の威力はあるのかもしれない。弾は、パチンコ玉みたいなものも見えるが、小さくてやり応えがないのかもしれない、井森はアーモンド入りの大きなチョコをつかう。
到着してろくにはなしもせぬまま井森は獏木にチョコを打ち込む。いったい最上がどこまで吐いたのか、そもそも最上はどこまで知っているのかわからないが、井森は冷たい表情ではなしはじめる。最上の吐いたことというのは、獏木がカウカウ・ファイナンスの人間とつるんでいて、協力して丑嶋から金を奪おうとしているということらしい。イモリヤモリからすれば、丑嶋はハブ組長を殴りつけ、ハブがなぜ反撃しないのかということはとりあえずおいたとしても、組の名前に傷をつけた人物である。そして丑嶋は自分らみたいなヤクザものがかせぎにくくなってるいっぽうで金をためこんでる。殺して金を奪ってしまいたい最優先の人物なのである。そんなことを、まだ計画とまではいかぬがぼんやりはなしていた矢先に、先輩である自分たちを経由せずに獏木がなにやらたくらんでいる。「それは自分たちが奪う金だ」という感覚なのだろうか。井森はそれを「人の米びつに手 突っ込むみてーな真似」という。
とりあえずそのカウカウの人間も呼び出せということで、獏木はさっきまでいっしょにいたマサルに電話をしている。その間、意味もなくチョコを連射されて獏木はぐったりしてしまう。目とか関係なく平気で顔面撃ちまくりだし、しばらく顔ぱんぱんだろうな・・・。
疲れたということでふたりは倒れた獏木や最上から離れて雑談。たぶんその後の彼らの動きを示唆する重要な会話だ。これまでの感じでは家守がイラつき、それを井森が黙ってみているようだったが、そうでもなさそうだ。井森もかなりこの状況には苛立っている。というのは、まず、彼らの組長であるところのハブなのだ。よくわからないが、特に尊敬したりとかそういうのは、いまはないようである。井森はハブが「刑務所ボケ」だという。じぶんたちは若いころ、あんなにからだ張ってがんばったのにと。獏木たちのものの色違いみたいな、彼らが着ているへんな服、これも、ハブが20万で売りつけたものらしい。これはこれで威圧感があるというか、異様な効果もあるとおもうが、しかし少なくとも羽振りがよさそうな雰囲気はない。どうせヤクザをやるならもっとこう、びしっとした服を着たいというのはあるかもしれない。
たぶんもともとハブへの不信感というか、どうもじぶんたちは優遇されてない、という感じがあって、そのうえで丑嶋の騒動が重なってきて、いまのこういう気分になっているようだ。彼らはハブが丑嶋にやられてなぜ反撃しないのかと問うことすらやめてしまった。そんなわけはないのだが、それにしてもなぜすぐやらないというのはじっさい考えても不自然ではない。
だったら、と、井森の考えが進む。自分たちでその丑嶋をさらって金を奪ってしまえと。それをさらにうえの組長に積んで、ハブと対等な立場になってしまえと。いちおう暴力団の入門書は読んだものの、こういうシステムについてはまだいまいちよくわからないなあ・・・。直参になるというのは、組をもつということなのか?しかしそうなると家守と井森の関係はどうなるのか?
そこへ、過敏にチョコとアーモンド、タバコとコーヒー、そして血の匂いをかぎわける鼻のきく男がやってくる。連絡のとれない獏木に持たせたGPS発信機をたどってやってきたハブなのであった。
ハブは真剣な口調で、今すぐ身体をかけられる奴はいるかと問う。からだを預けられる奴はいるか、くらいの意味だろう。ヤクザがこんなことを言い出したら、危ない仕事に決まっている。だから、ふたりはともかく事情を聞かせてもらわないと、という。自然な反応だが、ハブの求めていたこたえはちがう。そこに、獏木がよろつきながら手をあげて名乗りあげる。そういうわけで、獏木の身体をあずかったハブは、自販機で水買ってきてと命令するのだった。ふたりを試したのである。
いつの間にか賢くなって成長したもんだと、ハブは不気味に落ち着いた口調でいう。以前ならじぶんがなにか指示する前に相手の事務所に乗り込んでいたくらいなのにと。そして、なぜ獏木たちにヤキを入れているのかと問う。井森たちからすれば別に、いまのところは、組を裏切るようなことはしていない。こそこそと組に内緒でシノギしようとしていたからだと、ふつうに応える。
と、ハブは井森のスリングショットを拾い上げ、チョコではなく鉛玉のほうを装填して威力を確かめる。缶コーヒーを撃ち抜いて穴を開けるほどのものだ。チョコとはまた硬さが異なるので、より威力が増すのかもしれない。ハブは井森を転ばせて、その前歯にスリングショットの先をあてがう。そして種明かし。獏木をつかってカウカウを探らせていたのはハブだったのだ。ハブは、井森たちがじぶんたちで丑嶋を襲おうと考えていることもなぜかお見通しだ。そうなると組を裏切ろうとしているのはむしろ井森たちということになってしまうのだ。獏木には、そのことについて井森たちにはいわないように口止めしていたらしい。
そこへマサルがやってくる。なんとマサルもすでにハブの手中にある。さすがのマサルもハブにはビビリまくりだ。というか、この異様な状況に戸惑っているのかも。
ハブのほうではマサルには感じがいい。たしかにこの男は楽園くんでも、G10の裏切りが発覚するまでは、中田などにも「裏社会で頼りになる大人」という程度の脅威に威圧感を抑えていた。そこらへんを自在に制御できるのがハブのしたたかなところかもしれない。
マサルは頼まれていたメールを送ったと話す。丑嶋、柄崎、加納、高田、そして小百合ら、要するにマサルを除くカウカウ・ファミリー全員が写った集合写真だ。たぶんマサルがこのために撮影したものなんだろう。そして、合わせて全員の名前と住所も送ったと・・・。小百合も?小百合もなのか?!そして命の恩人・高田も?!
スリングショットをあてがいつつ、ハブは井森に意外なことを言い出す。なぜじぶんが刑務所にいるあいだにお前が丑嶋を殺さなかったのかと。たぶんさっきのはなしともつながって、なぜ以前までのように指示を待たずに突っ込まなかったのかと。ハブの認識では、もう丑嶋一人を殺すだけでは話が収まらなくなってきている。彼はカウカウ全員を殺すつもりなのだ。
つづく。次週休載。
じぶんたちの考えていたことがほぼ見透かされ、危険な武器をあてられながら汗ひとつ浮かべないのは井森も家守もさすが現役のヤクザということか。しかしなんだか意外な展開になってきた。
まずハブは、丑嶋を殺したい。しかし、刑務所を出てから肌で感じたのかもしれない、それだけでは済まないという結論に達した。おそらくそれが、井森たちからすればハブがもたついているように見えた理由だろう。ヤクザだって誰かを殺すとなれば、周到に計画せねばならない。それも今回は多数やらなければならない。それもしたたかな彼のことである。とりあえず準備をはじめるにあたって、獏木をつかってカウカウ全体のことを調べさせているのである。獏木とマサルのつながりは、それより前なのか後なのかはよくわからない。獏木自身も丑嶋には含むものがあった。獏木はハブを慕っているようなところがあるから、それも込みでマサルに接近し、ハブにはなしをもっていったのかもしれない。もしそうでないとすると、ハブは計画を立てるにあたりいきなり井森たちを通りすぎて獏木を選んだことになる。井森たちがいつからハブに不信感を抱いているのか正確には不明だが、やはり刑務所から出て、なにも行動を起こさないハブを見たことがきっかけではないかとおもわれる。丑嶋の件でのうわさが刑務所にいるあいだに立って、ヤクザとしてどことなく居にくいおもいをしており、それが出所を合図に前景化したと。ハブとしては、今回のことばを見ると、井森たちが行動を起こさなかったことが不満なようである。これをことば通りに受け取ると、出所したあと、丑嶋がまだ生きているのを知り、なぜあいつらはすぐに殺しにいかないのだと、そういうところになるだろうか。ヤクザはメンツで食べていく職業である。だから、ハブ個人の負債はハブ自身が解消しなくてはならない。ハブが求めるものは「丑嶋の死」という結果より、「丑嶋を殺すわたし」という述語的なイメージだったはずである。しかしそれは、どうも組内の人間ならそれはそれでよいということでもあるらしい。というか、ハブは物理的に手を出せないところにいたわけだから、すぐに井森が行動に出ていれば、これほどはなしは大きくならず、しかもそこそこメンツは保てたと、ハブの考えはそんなところなのかも。だとすらなら、そこでハブのほうでも井森たちに不信感を抱いた可能性も高い。だから、いずれにしてもハブは獏木をつかうことになっただろう。
獏木のほうでは、いまみたように刑務所内からの指示なども含め、ハブからの命令とマサルとの接触どちらが先かは不明だが、いずれにしてもマサルと連携してことを順調にすすめている様子である。井森たちには秘密にしろというハブからの指示なので、なかなか胃の痛いおもいをしていたとおもうが、それよりも彼のばあいは肉蝮の件がある。マサルに肉蝮のはなしを持ち出したときの獏木はけっこう素だったようにおもえる。あれを踏まえると、あの時点ではハブからの指示はなかったんではないかなとおもえる。つまり、マンガを読んだそのままの順番ではなしは進行していたんではないかと。逆にいえば、個人的なうらみとはいえそこまでそれなりに計画を進めていたという点で、ハブは裏切りよりもそれを達成と見て獏木を評価したという可能性も、今回を見ると高くなってくる。ただ、丑嶋はハブのメンツを潰し、ということはハブ組のメンツを潰したことになるので、ハブ組のものが殺せばある程度それは回復できるが、肉蝮が獏木を暴行しても、獏木のメンツはつぶれても組のメンツには少なくとも組長のものほどには影響がないだろうから、これはやはり獏木じしんの手でやらなくてはならない。
問題なのはマサルである。というか肉蝮である。マサルと肉蝮が通じていることを獏木は知らない。ハブはどこまで知っているだろうか?そもそも、なぜマサルは肉蝮に声をかけたのか?あの時点ではまだハブとのつながりはなかった可能性は、いま見たように高い。ただ獏木とつるんでいただけなのだ。もしハブとすでに関わっていたなら、リスクを考慮してもやはり肉蝮には触れるべきではなかった。とすると、マサルはいま後悔しているだろうか?ヤクザの手を本格的に借りれるとわかっていたなら、あんなのとかかわるべきではなかったと。しかし、どうもそういう動機ではないような気がする。マサルは、丑嶋がこれまでやってきたような「潰しあい」を期待しているのではないだろうか。丑嶋がこの状況を突破できる方法のひとつとしていま思い浮かぶものは、ケツモチの滑皮とハブが衝突して共倒れしてもらうほかない。たんにハブが滑皮に殺されるだけで済んでしまえば、今度は滑皮に大きな借りをつくってしまうことになる。丑嶋的にはどうしても共倒れしてもらわなくては困る。
そして、マサルが無自覚ながら正しく丑嶋の戦略を継承しているなら、こうした思考法を選択するのはまちがいない。ハブはもちろん、獏木にしたところでヤクザである。目的を達成し、独立を果たしても、借りをつくれば面倒なことになる。利用しつつ、最終的にはそのヤクザたちも倒れるか、あるいはべつの方向に目が向くよう準備しておかなくてはならない。そのためのコマが肉蝮なのかもしれない。じぶんの手でやるにしろ、組員をつかうにしろ、ハブからすれば肉蝮は邪魔でしかない。肉蝮にとっても同様である。だから現状マサルは、目的を同じくしながら互いに衝突するほかないふたつの勢力に属していることになるのである。その理由としては、目的達成後を見据えているとしか考えられない。
そしてどう動くのかわからないのがイオリヤモリである。今回、考えがハブに見透かされてるっぽいことがわかったふたりだが、それでも特段あわてている様子はなかった。どうも叛心はかたいようである。しかも今回のことでいよいよはっきりとじぶんたちの冷遇が露呈してしまった。どことなく肉蝮のボコられ要員のような感じもないではないが、彼らがどう動くかでまたはなしは変わってくるかも。
しかしマサルがわたした情報はなかなかショックなものだった。ヤクザくん冒頭で珍しく小百合の人間性みたいなものが描かれていたのもそのせいだったのかもしれない。金を受け取ったところを見られている加納も危ない。そして、マサルは高田も売るつもりなのだろうか。うらみと野心に突き動かされ、じぶんが丑嶋からどれだけのものを受け取っているか自覚できないというのはまだわかる。しかし高田は直接の命の恩人である。死にかけているマサルをその手で救った人物なのである。命乞いをするマサルを見捨て、母親を侮辱した丑嶋をうらむのであれば、当然、それを拾い上げた高田には感謝をしなくてはならない。もし高田に感謝をしていないということになれば、そのなんとか獲得した生そのものについても感謝していないということになり、丑嶋への命乞いも無効になる。そうなると丑嶋をうらむ理由もなくなる。構造的に「丑嶋へのうらみ」と「高田への感謝」はつねに同時に存在していなくてはならないのである。もしマサルがほんとうに高田を売るつもりなのだとすると、その理由はふたつ考えられる。まず、丑嶋を倒すという行為の動機が、すでに「うらみ」にはないということである。冒頭で仁に語って聞かせた野心のようなものもいまおもえばその表明であったのかもしれない。「うらみ」はもはや口実のようなもの、じぶんはそうしたことすべてを乗り越え、消却し、もっとうえにいかなければならない。
そしてもうひとつ、このことと連続した動機になるが、そもそも、そうした「丑嶋へのうらみ」と「高田への感謝」が同時に存在しているような現在の生そのものを抹消したいということである。現実問題としてマサルは高田に生かされているのだし、また構造的にはうらんでいるはずの丑嶋に生を確立させてもらっている。そうした状況じたいががまんならない。これが、何度か書いたが、マサルに流れる「親殺し」という深層構造である。打倒丑嶋の感情は、表面的にはうらみとして構成されながら、内部では「現在の自分」の否定という意味を含んでいる。それが、あるいはフリーエージェントくんを経由して、闇金ウシジマくんの物語全体としては上昇志向として翻訳されているのかもしれない。ホストくんにも見られた「現在のみるにたえないわたし」と「ほんらいあるべきわたし」の対比である。「ほんらいあるべきわたし」を夢想するとき、ひとはどうしても「現状のわたし」を否定することになる。いまの「わたし」を構成する要素それぞれをも否定し、「それはほんとうのわたしではない」と告げてまわるのである。だから、マサルは、丑嶋を殺さねばならない。あるいは逆に、丑嶋を殺すためにマサルは、現状の生を否定しなくてはならない。マサルのなかでこのふたつのことはおそらく等価であって、どちらが先にあったかというのはもう彼自身わからないのではないだろうか。ヤクザくんが村上仁への訣別ではじまっているのも象徴的である。仁はマサルの、むかしからの友人であり、愛沢の件を経由して変わってしまったじぶんの人生の、その前の段階を表象するキャラクターになる。彼は愛沢に殺されかけたことで、いちど転生したのである。その時点で、「彼らがいなければマサルは存在していない」という意味合いで、彼の「親」は、丑嶋であり、高田となった。しかし、野心が先かうらみが先か、マサルはその生を消却したい。そんな生にがまんならない。そして、うらみにしろ野心にしろ、それは「現在のわたし」の構成要素すべての否定につながる。だから、ことに及ぶ前に、前人生の象徴である仁との関係をマサルは絶ったのである。なぜなら、彼にとって仁との記憶は大切にすべきもの、肯定すべきものであったからだ。否定したくないから、肯定したいから、行動に出るにあたり、マサルは「現在のわたしの構成要素」のうちから仁を弾き出したのである。
ただし、マサルの行動には大きな矛盾もある。当然だが、ここまでマサルがしたたかにふるまえるのはずっと丑嶋を見てきたからであり、またいまそうした呼吸をしているのは高田がいたからである。現状の生の否定を、現状の生の文法で行うことはできない。「日本語では真にじぶんの意志を伝えることはできない」ということを日本語で伝えることはできないのである。マサルは「丑嶋」や「高田」を用いて丑嶋や高田を塗りつぶそうとしているのだ。
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