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ヘミングウェイはじつはあんまり好きではない。というか、あまり得意ではない。たしかに『老人と海』は楽しんで読んだ記憶もあるが、その後読んだ短編集が、翻訳のためなのかなんなのか、おそろしくタイトで禁欲的な文体で、たいした長さでもないのにずいぶん手こずってしまったという経験があり、ちょっとしたトラウマ、というとおおげさだが、なにか敬遠してしまうようになってしまった。同時代人としてスコット・フィッツジェラルドと比較されることも多いが、なにしろ僕はそのあたりのアメリカ文学に村上春樹から入ったので、どうしてもフィッツジェラルドよりになる。そうすると、卵と壁 じゃないけど、ヘミングウェイが権威的な、文学的に強靭な「正しい文学」で、フィッツジェラルドがそれに比較すると異端であるような、壁にぶつかってくだける卵のような傍流であるように感じてしまうところがあり、ひとことでいって「じぶんとはかんけいない」という感じがちょっとするのだ。たぶん村上春樹を経由してアメリカ文学を見る、ということが習慣づいているので、かたい印象の、だれもが認める文豪であるところのヘミングウェイよりも、ちゃらちゃらして、むしろどことなく読者の解釈力を作品のほうから求めるようなところのあるフィッツジェラルドのほうについてしまうわけである。たんなる印象のはなしではあるが、しかし、それはどうも一筋縄ではいかない問題のようで、僕はどこかでヘミングウェイを崇拝しているようなところもあるのである。ヘミングウェイのことなんてはっきりいってぜんぜん知らない。大昔に読んだ老人と海も内容に記憶はないし、その短編集だって記憶のなかのショタレ置き場のようなところに封印してしまっている。僕がヘミングウェイをたたえる理由などない。にもかかわらず、だれかにこの作家のことを説明するとなれば、このようないいかたはしないとおもうのである。たぶん、てきとうなことをいいながら、フィッツジェラルドと同時代人のアメリカ最高の作家だ、くらいのことはいうとおもうのである。「ザ・シムズ」という、顔のかたちから性格までをいちから設定し、ただ生活させるという、おそろしく時間を空費するゲームがあって、すごく好きなんだけど、はじめてそれをやったときにつくったモデルが、信じられないことにヘミングウェイだった、というはなしも僕にはある。もともとあった素材をつかうので、顔や髪型などを作成するうちたまたま「これヘミングウェイじゃん」となっただけ、という可能性も否定できないが、なぜそのような、たいして好きでもない、というかよく知りもしない作家を生活させ、遅刻しないように仕事に向かわせ、必死こいて街で知り合った若い女の子をおとそうとするのか。「文学的に強靭なもの」へのコンプレックスとしか説明ができない。
あ、いや、こんなことを書くつもりはなかった。本書は釣人としても非常に有名だったヘミングウェイの、釣りに関する文章を集めたもの。さまざまな長編小説からの抜粋が大半を占めるが、映画撮影に合わせた長期間にわたる釣りについての手記など、あらゆる形態の文章が混ざっていて、写真も非常に充実している。手に入れた経緯だが、仕事でまちがえて注文してしまったものを購入したのである。けっこうな値段でもあり、加えることにはたいして好きでもないはずの作家である。けれども僕は、「これもなにかの縁だ」と、だれにたのまれたわけでもないのに即購入を決めていた。じぶんでもわけがわからない。分析的にいえばやはりコンプレックスとしかおもえない。なんでそんなことになっているのか、だいたいコンプレックスを抱えるにはある程度でもそのひとについて知っていなければならないわけだが、それはどこからくるのか。まあ、事実としてアメリカ文学史上最大の人物ではあるわけだから、フィッツジェラルドや村上春樹関連の文章を読んでるうちに自然と形成されていったものなんだろうとはおもう。
とはいえ、やはり高いというのはなかなかの問題ではあるが、贅沢な一冊である。ほとんどが抜粋というのが、物語を読もうとすると若干ストレスのたまるぶぶんだが、釣りの「描写」を集めたのだとかんがえれば、これは一種の写真集のようなものなのである。通して読むというよりは、たぶん枕元において拾い読みして、釣りや、ヘミングウェイの文学へおもいを馳せると、そういうような本なのだろう。それをなぜほかならぬこの僕が所持しているのかはよくわからないが、「これもなにかの縁」であるにちがいない。トラウマというかコンプレックスというか、苦手意識を克服するためにも、人間ヘミングウェイに近づくひとつの方法として釣り文学は有効かもしれない。
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