今週の闇金ウシジマくん/第354話 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第354話/ヤクザくん①





二ヶ月近い休載を経て新章突入。ヤクザくんです。これはもう、波乱必至だろう。ずっと待っていた気がする。丑嶋にとっては避けて通れない相手だし、ということは、丑嶋を描く過程でも避けて通れない層なのだ。ただ、ひとことでヤクザくんといってもどういう視点からのヤクザくんであるのかは、しばらく追ってみないとわからない。つまり、さまざまな職業がこの世にはあって、そのなかのひとつとして、ヤクザくんを相対的に浮き彫りにするのか、あるいは丑嶋にとってのもっとも面倒くさい相手としてのヤクザを描くことでカウカウ側のストーリーをすすめるのか、獏木やハブなどの具体的な人物を指して、それを動かしていくのか、いろいろ考えられるのだ。しかしまあ、どれをやったとしても、相当なことにはなるとおもう。これまではなしをスリリングにする「理解を絶した他者」の作中における顕現として扱われてきたものたちがはなしの中心にくるわけだから。


ホテルの一室、ベッドのうえでひとりの男がおそらく死んでいる。男は全裸で、背中、というか後背部の前面にわたって大きく刺青が彫られている。「侠」の文字も見えるのでまずヤクザと見ていいだろう。顔には袋がかぶせられていて、首にはテーブルタップのコードがぐるぐる巻きだ。両手は首のあたりに添えられているので、いちおう抵抗したのだろう。服はベッドの脇に乱雑に脱ぎ捨てられていて、掛け布団は見当たらないが、状況からしてここはラブホテルで、行為をしていたか、あるいはしようとしている無防備なときにうしろから袋をかぶせられ、混乱しているところを袋ごとしめられたのかもしれない。それとも、いっしょにいた女が、部屋にあったテーブルタップで絞め殺したのだろうか。でもホテルにこういう配線の道具がある気はしないな・・・。だいたい女性のちからではいくら不意をついても難しいだろうし、袋をかぶせる意味もあまりない。

そこから連続しているものかはっきりしたことはわからない、なにかチルドの食品とかを運ぶようなケースがふたりの男によって車に運ばれていく。スマグラー的な仕事かもしれない。そして、どこかの廃材が山積みになっている場所に向かう。


「ガールズトーク!」というガールズバーではスキンヘッドの半グレが店長に因縁をつけている。男は女に飲ませて酔わせたいのだが、匂いだけつけて中身はほとんど水じゃないかと。それ以上騒ぐと警察を呼ぶし、なんなら料金はいらないから帰ってくれと店長はいうが、男はお前じゃはなしにならないからオーナーを呼べという。すごく教科書的なクレームである。

そこに、店のケツ持ちとおもわれるヤクザ者があらわれる。スキンヘッドはすごむがすぐにぼこぼこにされて店を追い出されるのだった。

ヤクザは梶尾という。店長は彼の押し付ける植木やおしぼりなど買取り、梶尾は梶尾でケツ持ちの仕事をしっかりしているので、最初はなにかいい関係に見えそうでもあったが、梶尾はやがて店の水が不味いと言い出す。店長の船木はちゃんとミネラルウォーターをつかっているというが、となると、梶尾の味覚がおかしいことになる。じぶんはこれを不味いと感じた、水道水だと感じた、そのことが重要なのであって、現にそれがミネラルウォーターであるかどうかは無関係なのである。そうして、一本300円の水を卸すことにしてしまうのである。ついでという感じで飾ってある絵にまで難癖をつけ、月三万でレンタルするとも。新章がヤクザくんであることを真鍋先生のツイートで知って、いままでてきとうに、あいまいに理解してきたことも、せめて基本的なことだけでも予習しておいたほうがいいかなと、あわてて溝口敦の『暴力団』という本を購入したのだが、彼らの月々の出費については次のようにある。




「・・・直系組長たちは月会費の他に積立金を月々30万円納めていますし、毎月最低でも50万円程度、ペットボトル入りの水や歯磨き、洗剤、文具などの日用品を本部から半ば強制的に買わされているのです」24頁

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むかし熊倉が丑嶋に絵やぬいぐるみを売りつける描写があったが、あれも、べつにそれで金儲けをしているとかではなく、そういう習慣があって、かといって大量に歯磨き粉をもっていてもしかたなく、彼らは彼らで面倒をみているものに売りつけたりしてさばくほかないのだろう。今回の店長のように、げんに目の前で面倒を片付けられてしまえば立場的にはよりいっそう断りにくくなるし、ちょっと高くても文句はいえなくなる。

そして、現代ヤクザのあざといところというか、この梶尾とスキンヘッドの男・鳶田はグルである。鳶田もまた半グレなどではなくヤクザなのだった。解決可能なトラブルを自ら仕込み、それを目の前で解決してみせることで、まんまと船木に水や絵画を買わせてしまったわけである。まあ、そんなことしないでもなかなか断れるものではないとおもうが、それだけヤクザ稼業も慎重に行わなければならない時代ということかもしれない。同様にしてアウトローである丑嶋が熊倉を断れないのとは、船木の場合はちょっとちがうわけだし。

梶尾のほうが鳶田より先輩のようだが、ふたりはさらにうえの、兄貴と呼ぶ人物のもとにやってくる。滑皮秀信である。痩せて背が高いイメージだったが、黒いスーツを着て坊主頭になり、だいぶ貫禄がついてきた。目つきも以前よりさらに鋭く、ウシジマワールドでは饐えたにおいを放つ異様な見た目のヤクザが多いなか、だいぶタイトな雰囲気になっている。ちょっと大きくなっているように見えるのは、あるいはからだを鍛えているのかもしれない。


滑皮はふたりに積んであるものを海に捨てるから運転しろと、とめてある冷凍車を示す。滑皮はうしろからじぶんの車でついていくようだ。

ふたりは運転しながら中身はなんだろうと話し合う。滑皮はこういうことをよくさせるらしい。そして、あるとき、鳶田はあけるなといわれていたトランクを開けてしまった。しかし中身はカラッポ。暇つぶしにからかってるんじゃないかと。だから今回もそんなことだろうかというのがふたりの推測である。


港に到着し、滑皮ふたりに船に乗って沖合いにでて中身を捨ててこいと指示する。じぶんは船が苦手だからと。ほんとかよ。中身がなんだかはわからないが、スマグラー的なひとたちが廃材置き場までそれを運んで、冷凍車に移し、それをふたりに運ばせて捨てるのであれば、滑皮はいっさい手を触れずにそれを処分することになるのだ。だが、ふたりは特にあやしまない。まあ、あやしくおもったところでどうしようもないのだろうが。


沖に出たところで梶尾がクーラーボックスを開ける。中身は、氷に埋もれたバケツで、そのなかにもなにか凍ったものが入っているのだった。




つづく。




滑皮はすごい表情でふたりを待っている。これはもちろん、遊びやからかいのたぐいではない。徹底してそのブツに触れないところからしても、相当危険なものなんだろう。流れからして冒頭で死んでいたヤクザの死体かとおもったが、入っていたのは見たところ氷のようなものである。梶尾は氷の塊かといっているので、おそらく透明、あるいは半透明なものとおもわれる。ふーむ、なんだろうな・・・。洗脳くんなんかでも似たようなことはしていたが、人間の死体が透明な液体、あるいは固体になる状況ってあるだろうか。高熱で焼いても透明にはならないし、だいたい液体ではない。『冷たい熱帯魚』のでんでんは人間を透明にするといっていたがぜんぜん透明じゃなかったしな。なにか薬品で溶かしたりしたらあるいはそうなるのかも・・・?


ともかく、ついにヤクザくんがはじまった。そろそろ最終章がくるかとおもったが、よく考えるとまだこれをやっていないのだった。取材とかそりゃーたいへんだろうし、やらない道もあったとはおもうが、やっぱり避けては通れないんだろう。

そして、くりかえすように、重要なのはヤクザくんのなにを描いていくのかということである。基本的に、闇金ウシジマくんは、「わたしたち」の理解の及ばないところに息づくひとびとの、彼らには切迫した常態を描いてきたわけである。ひとにはそれぞれ、固有のかたちをした地獄がある。そういう、他者をいちど「理解のできないもの」として主観からはずし、そののちに、彼らなりの地獄を、他者を他者としてあつかう正しいまなざしとともに活写していくと、そういうことが基本姿勢としてあった。共感は自身の記憶の再体験でしかない。「共感する」ということは、たんにじぶんの知っている、じぶんの経験したことのある感情の作用を復元しているだけのことである。そこに他者との接続はない。それは、他者を「理解のできないもの」としてあつかうところからしかはじまらない。だから、わたしたちは、まったく「共感」のできない愛沢や小川純や板橋にも感情移入ができるのである。

しかし、ではヤクザくんはどうなっていくのか。これまで数多くの強面のヤクザが登場したが、彼らはどれも「他者」さえも超えた、いってみれば記号的な存在として登場した。どんなに異質な人物でも、各様の地獄を抱えているという点では感情移入の余地がある。しかし、ヤクザものや鼓舞羅のような半グレは、どれもそれさえ拒んだ、ただただ暴力の顕現のような存在として描かれてきたのである。人生とは思い通りにいかないものである、社会は不如意に満ちている、そういう当たり前のことを漫画としてもっとも端的に担い、表現する装置、それが、名前に動物を含んでいるヤクザであり半グレであった。それを、どういうかたちであれ中心に据えるというのはどういうことなのか。名前がそうであるのは、通常の人間の社会生活とは異質であるということの表明であったろうとおもわれる。つまり、構造的には神とか悪魔とか、そういう作中で超越的なポジションにいるのが彼らなわけである。「他者」ですらないのである。他者は、理解を絶しながらも、造形としては「わたし」の模型である。感情移入のよすががある。共感はできなくても、少なくとも彼らの空腹や疲れなどの身体的欲求を感じることはできる。しかしわたしたちは神の空腹がどのようなものかを知ることはできない。果たしてそんな神や悪魔に感情移入できるのだろうか。もちろん、展開が必ずそうでなくてはならないということではないので、いっさいの感情移入を拒んだまま彼らが描かれるという可能性はある。だいたい主人公は誰になるのか。てっきり僕は、復讐くんからの流れで獏木がなるものと予想していた。獏木なら、ハブなどに比べるとまだ異質になりきれておらず、迷いもあるので、主人公になれる。感情移入できる。しかしどうだろう、滑皮とハブ・獏木は別の組だし、丑嶋関係で含みがあるということを除けば共通点もなさそうである。


まあいつものことだが、第1話からこんなことをいってもしかたがないのだが、滑皮はなにをたくらんでいるのだろう。仮に彼が冒頭のヤクザを殺したのだとしても、ふたりの子分はそれを知らない様子だし、あくまで個人的に、秘密裏にこれを行っているようである。上昇志向の強い彼であるから、あれは同じ組の邪魔な先輩とかだったのかもしれない。だとしたら大事だが、ヤクザ間のもめごとを描くだけでは丑嶋はからんでこない。つまり、まだなにもわからない。連載は始まったのだから、あわてずに展開を待つことにしよう。





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