今週の闇金ウシジマくん/第280話 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第280話/洗脳くん⑧






上原まゆみの妹・みゆきのガールズバー時代の客(あとの会話でいまも現役だということがわかるが)、菅原と、彼女の夫のカズヤがもめているということで、まゆみと神堂大道が現場に急行する。神堂は不気味なほど器用にたちまわり、はなしをまとめて菅原を警察につきだしてしまう。みゆきたちはいったん帰宅したのだろう、まゆみはお礼をしたいということで、実家に神堂を招くことにする。



迎えた母親はすでにみゆきからはなしをきいているようである。といっても、どこまで本当のことを知らされているかはわからない。たしか、みゆきは、ガールズバーで働いている件は両親に秘密だったはずだからだ。まあ、たぶん、カズヤが喧嘩してとりかえしのつかないところになりそうなところを仲裁に入ってもらったとか、そんなふうにいってあるのだろう。みゆきたちはあとでくるということだ。



神堂はじろじろと家中を観察し、いろいろと褒める。玄関にある生花を「池坊ですか?」と問い、母親は「小原です。お詳しいのですね」と恥ずかしそうに応える。たぶん、生花の流派のことだろう。しかし、神堂はべつに、その生花が小原流であるとあてたわけではない。生花のことなんか、たぶんほとんどなにも知らないだろう。にもかかわらず、印象としては、じっさいなんとなく詳しそうな感じになる。「池坊」というのが、ちょっとものを知っているくらいでは出てこないような固有名詞だからだ。表面的にでもじっさいに教養があるのか、日ごろトリビア本や雑学本でも読み漁っているのか、いずれにしても如才ない男である。

そこから神堂は家の主人に話頭を転じる。ある程度回答を予測している可能性もある。神堂はじっさい、かなり心理学を研究しているんじゃないかというふしもある。それとも、ただ主人がどのような人物か、家庭内でどのような立ち位置にあるのか、把握しようとしているだけかもしれない。

母親は初対面の人間に対して、主人の無関心についてくちにしてしまう。生花のかわりにスイカをおいても気づかないと。



しばらくしてみゆきとカズヤが酒をもって到着する。カズヤは神堂のことをすっかり気に入ってしまって、ひどく上機嫌で神堂のいれた酒をあおる。しかし神堂は飲まないらしい。

神堂はその最中、わざと缶きりを床に落として、状況を観察する。それを拾ったみゆきを、神堂は「M」と判定した。差し出した拳に顎をのせるよういって、目を見ながらのせたらS、下を見ていたらM、というような、よくある心理テストのたぐいだろうか。ではこのばあいはどうすればSなのだろう・・・。



そこに父親が帰ってくる。でっぷりと太っためがねのおっさんだ。よそものがじぶんの知らないあいだ家に入っていたばかりか、じぶんの席に座っていたので、機嫌がわるくなる。神堂は一礼するが、彼は無視して何者かを母親に訊ねる。酒を一緒にどうかと妻に誘われるが、「疲れてる。風呂」とだけいってその場を去ってしまう。コンピュータでは、この会話はおそらく意味を理解できない。あまりにも多くのことばが省略されているからである。酒をどうかと問われ、疲れてる、というだけでは、なんの返答にもなっていない。疲れているからいらないと続かなければならない。「風呂」というのも、ただの名詞である。「(疲れてる)からいらない。(風呂)に入る」という具合に、聞いているものが想像力を働かせて補わなければ、この会話は成り立たない。だが、互いになんの違和もなく、コミュニケーションは成立している。つまり、相手の想像力に甘えて会話をすることに慣れきってしまっているのである。



やがて飲みすぎたカズヤがぶっ倒れる。たんに飲みすぎただけのように見えるが、神堂は救急車を呼ぼうと言い出す。救急車は近所迷惑だからみゆきに車で送らせようというまゆみに、神堂は飲酒運転だと、先生みたいな口調で説く。

というわけで、酒を飲んでいない神堂が車にのせることになる。ほかのみんなは酒を飲んでいるので、彼を送れるものは神堂しかいない。

車で吐かれるとまずいということで、神堂はカズヤを自動販売機まで連れて行き、水をあたまからかける。ちょっと意味がわからない。誰かがかけてやってくれといったとか、カズヤがかけてほしいといったとか、そういう描写はまるでなく、いきなり水をかけている。そもそも、このコマでは服の色がおかしい。服の形状や靴のデザインは同じなので、まちがいなくカズヤとおもわれるが、黒かったポロシャツみたいなものが、このコマでは白いのである。いったいこれはなにを意味するのか・・・?



ふたりきりになって、目をさましたカズヤと神堂がちょっとおしゃべりをする。無茶な飲み方をしていたので、なにか悩みがあるんじゃないかと問いかけるのだ。べつに神堂は、カズヤの悩みを見抜いているわけではないだろう。カズヤはたしかに飲みすぎたが、あくまで「飲みすぎた」という程度ともいえなくもない。神堂にとって重要なことは「なにか悩みがあるんじゃないの?」と問いかけることなのだ。

そして、すっかり神堂を気に入っているカズヤは、みゆきについての不満をもらす。彼女はまだ、生活のためにガールズバーで働いているらしい。カズヤはそれが心配でしょうがない。浮気してるんじゃないかと。

神堂は、真実を知りたいかとまた問う。知り合いの探偵に調べさせようかと。



そのはなしがどうなったかはわからない。だが、神堂には収穫だったはずである。



カズヤと、あとたぶんみゆきとは別れ、神堂とまゆみが再び実家にもどる。神堂はいつのまにか母親にスイカジュースを買ってある。さっきの生花の件の冗談を引っ張った、ジョークだ。それを手渡すとき、神堂はさりげなく母親の手を握る。紳士っぽい気遣いとユーモアで、母親は顔を赤らめてしまうのだった。



神堂は今日は帰宅するようだ。まゆみが夜道をおくっていく。流れ星が三つも通り抜けるロマンチックな雰囲気のなかで、神堂はまゆみにキスをする。まゆみが咄嗟に神堂の胸を押すと、神堂はそれを強く握っておさえる。反射的行動だろうか。そして、結婚を前提におつきあいしてくれませんかと、神堂はまゆみにもちかけたのだった。







つづく。






ラストは蜘蛛の巣にからまって身動きがとれなくなった蛾の絵だ。

蜘蛛は虫の集まる光のそばに巣を張っている。

白色の神堂に魅せられて近づいていったものたちは、いずれがんじがらめに動けなくなって、捕食されてしまうのだろうか。



神堂は今回、上原家に関して多くの情報を手に入れた。

しかしそれらは、情報というほど固形のものではないかもしれない。

見かたによってはなんの意味もない、恣意的な、流動的な心理とか関係性とか、そういうことばかりである。

しかし、そういうものをこそ、彼は求めている。

神堂はこの訪問でなにを読み取ったか。また、彼の目的は不明として、そのために、これからどのような戦略をとっていくのか。

上原家の食卓はたいへんきれいに片付いている。玄関にはきちんとした生花がおかれ、わかるものにはわかるように、奥行きのある装飾がされているのだ。まゆみに結婚を迫るくだりもあるし、まゆみじしんのくちからも、両親が世間体を気にする人物であることは語られていた。生花やリビングはそれのあらわれと見ていいだろう。

しかし、神堂の探りで、妻の、そうした世間にむけた工夫が、主人には伝わっていないということがわかる。たしか父親も、世間体にうるさい人物だったはずだ。じぶんの席に見知らぬ男が座っていたときの反応、また、旧時代の終始黙した「父」のモデル・・・妻の想像力に、というか妻に甘えて自尊心を保とうとする幼児的な姿を完遂しようとする光景からも、彼が既存の様式にこだわる人物であるということはよくわかる。玄関におかれた生花は明らかに客人、つまり世間にむけたものであるのだから、世間体をいうのならば、彼もまたこれの成立に与しなければならないはずである。にもかかわらず、彼が無関心でいるのは、それが彼の理想とする「父」のモデルだからである。彼にその自覚があるとは限らない。世間体を気にさせる世間そのものが、彼にそうした役割を強いているのだ。「世間体を気にする」というしぐさを露骨にとってしまっては、それこそ「世間体」に抵触してしまう。「父」はそうしたことに無関心でなければならないのである。

だが、妻はそうはおもっていない。現代のドラマや映画なんかでもよく見られる光景ではあるが、これはよく考えてみると奇妙だ。「無関心な父」は、「世間体を取り繕う妻」とほぼ同語だからである。以前の時代までは、おそらく、これは両立したのである。しかし、神堂のたくみな話術で引き出された妻の本音からは、うっすらと不満が見て取れる。互いに旧式の役割を演じ、体面を保持するということが、もう破綻しかけているのだ。妻のしぐさは旧式のものだが、それをふと夫のほうに向けてみたとき、彼はぜんぜんこちらのほうを見ていない。なぜなら彼は彼で旧式の役割に徹しているからである。この「ふと夫のほうを向いてみる」という内向きのふるまいじたいが、たぶん以前の時代までは考えられなかったんではないだろうか。そうしてみてはじめて、こうしたふるまいがただの滅私なんじゃないかという疑問がわいてくるのだ。神堂はそのほころびを、正しく認めたはずだ。


そして、おそらく「捕食」のきっかけとなるにちがいないのが、みゆき・カズヤ夫妻だ。ガールズバーのことを両親が知っているのか、これではよくわからないが、たぶん知らないだろう。さらに、カズヤじしん、たいして気にしていなかったかもしれないことが、酒と神堂の話術で「捏造」されてしまう。みゆきへの疑いだ。おそらく、カズヤは探偵の件を神堂にたのんだろう。神堂としては、べつに探偵をじっさいに雇う必要はない。カズヤがそうした疑いをもって探偵を雇おうとした、この事実でじゅうぶんである。さらにいえば、前回の菅原との件もある。神堂はまちがいなく、カズヤから侵食を開始するにちがいない。



まったく、すばらしくいやな感じおはなしだが、次回は休載ということです。あとは、まゆみがどういうふうに応えるかだ・・・。




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