今週の闇金ウシジマくん/第275話 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第275話/洗脳くん③



もともと結婚するつもりはなかったハシくんと、友人のユカリがどうも接近し始めている、あるいはすでに関係があるらしいことを察知した上原まゆみ。日ごろ世話になっているスピリチュアル・カウンセラー、勅使川原先生に相談するため、地元に帰ってきた(と、冒頭のコマ外に書いてある)。妹の結婚式もある。


勅使川原先生の言いつけにしたがってアンラッキーアイテムである傘を持たずにきたまゆみだが、雹が降ってきたために、しかたなく雨宿りをすることになった。そこに、いつからまゆみのことを見ていたのかわからないが、黒い傘を持った白系統の服の男がやってくる。前回冒頭の嫌な感じの表情とはうってかわって、印象のよい顔つきだ。第1話、人体とおもわれるものが解体されていた場面でいろいろと指示を出していたのも、この男とおもわれる。


男は傘をさしだす。それをあげるから、近くにある白くて高そうな車まで送ってくれというのだ。ナンパにしては一周しても古風だし、まゆみ的には気持ち悪い。目の前に困っている女性がいたらなにかしてあげたくなるのは当然、などと花輪くんみたいなことまでぬかす。しかしまゆみが傘を受け取らないのを見るとすぐに説得の方法を変え、実はじぶんは缶コーヒーを買うために10円がほしかっただけなのだ、この傘を10円で買ってくれというふうによどみなく、ぺらぺらとしゃべりまくる。まあ、めんどうくさい。まゆみは追い払うつもりで10円払うことにする。


車に向かうまでのあいだ、ふたりが少しはなしをする。待ち合わせですかという男の問いに、なぜかまゆみはすごい先生なのだとくわしく語ってしまう。なんでも勅使川原先生は、生年月日を聞いただけでいろいろなことをあててしまうらしい。男は、生まれた瞬間の星の位置は一対一で対応している、運命は決まっている、だからあなたと出会うことも決まっていた、みたいなことを言い出す。じぶんじしん、星座について肯定的にくちにしたにもかかわらず、まゆみは男を「やっぱりこの人変な人だ」とおもう。まゆみがじぶんじしんのことも「変な人」であると認めたうえでいっているのでなければ、彼女は、こうしたことを信じるかどうかより、当然の真理であるかのようにくちにすることそのものにまだ抵抗があるということになる。つまり、星占いを参考にし、仮に絶対的に信じていたとしても、それは一種の気の持ちようみたいなものであって、他者との会話において一定の論理のもとで交わされる話題ではないと、そういう理解なのだ。

だが、まゆみもまた、勅使川原先生のすごさを語っている。でも、この程度のことなら、まだ無害だし、まあ誰でもくちにするものかもしれない。だけれども、「変」という違和感をまだ残しつつ、通常の論理とは異なる位相のことばを、まゆみはなぜかうっかりくちにしてしまったのだ。


しかし男はなにごともせず去っていく。ふと目をやった傘の柄には、「神堂大道」という名前のシールが貼ってある。なんだかすごい名前だな。なんと読むのだ。


待ち合わせ場所はどこかのカフェだろうか、勅使川原先生は急用でこれなくなった。だが電話で、「今日、運命的な出会いをする」と告げる。まゆみは神堂のことを思い返し、ありえないと考えるが、しかしある意味では、運命的な出会いなのかもしれない。


実家でまゆみと妹のみゆきが飲み明かしている。みゆきは明日が結婚式だ。ふたりの仲は良さそうだ・・・。

ハシくんはユカリといっしょにいるのだが、まゆみには仕事中だと嘘をつく。もちろんばれているし、ショップに電話しても誰もでない。詰めが甘いのか、隠す気がないのか、素でばれないとおもっているのかもしれない。


まゆみはみゆきとまた結婚のはなしをしている。みゆきの相手は、彼女がガールズバーで働いていたときの客らしい。世間体を気にする両親には、そのことは内緒だ。

まゆみのほうは、ユカリの件はいい機会だったかもしれない。彼女には仕事のほうでまだやりたいことがある。じぶんで雑誌を立ち上げたのだ。たしかに、周囲が結婚話ばかりしているので浮かんではこなかったが、まゆみじしんには、がつがつしている感じはなかった。両親の世間体を気にしたプレッシャー、陰口を叩かれる上司、そしていままさに結婚しようとしている妹、そうした、いわば構造が、彼女に結婚を考えざるを得なくさせているぶぶんはあったが、本音をいえば、どちらでもいいのかもしれない。


暗い夜道をふたりは歩いていたのだが、そこに、裸足の、いやに薄着のやせっぽちの女の子が歩いてくる。ガールズバーで働いていたころの、みゆきの友人・明日香だ。道端にしゃがみこんだ明日香は、鍵をなくして家に入れないから泊めてくれないかと懇願する。明らかに様子がおかしい。どう見てもどこかから逃走したふうだ。だけれど、こんな時間まで飲んで夜更かししといていえたことではないかもしれないが、みゆきのほうでも明日は結婚式をひかえている。あるいは、ふつうではないからこそ、ちょっとかかわりたくないというのもあったかもしれない。明日香の顔面は右側が大きくはれている。そのことを指摘されると、明日香はなんでもないと、それを隠そうとする。どうも奇妙だ。

しかしなんでもないならしかたない、という程度の浅い友人なのかもしれない。ふたりはそのままどこかにいってしまう。残ったみゆきのもとに、一台の車がやってくる。僕は車のことはまったくわからないので、明らかにそうだと断言できないが、絵を比べた感じでは、これは神堂大道が乗っていたあの白い車である。だが、夜であり、車はいま、真っ黒に見えている。

恐怖で縮み上がった明日香は、助けてくださいと、相手に懇願する。相手の男は明日香の髪をつかんで引っ張り、車に乗れと命ずる。


ふたりは歩きながら、結婚後の不安について語り合う。しかし、じぶんたちの選ぶ男は大丈夫と慰めあう、その背後には、去っていく車のエンジン音が響いているのだった。



つづく。



まだ具体的な描写はなにもないが、不安感はたいへんなものだ。単純でブルータルな、肉蝮や三蔵の暴力とはまた異なった、居心地の悪くなるような雰囲気だ。


明示はされないが、洗脳くんというタイトルもあわせて、解体を命じていた人物と明日香を連れ去った人物は同一人物、神堂大道とみてまちがいないだろう。

神堂と勅使川原先生の関係がどうなのだろう。無関係なのだろうか。

勅使川原先生は、運命的な出会いをすると、そしてそのきっかけとなった傘がアンラッキーアイテムであると、おそらく正しく予言した。占い師としてはじっさい、そこそこのものなのかもしれない。しかし、占星学的に、運命というのはどういうあつかいなのだろうか。アンラッキーアイテムがあるということはラッキーアイテムもあるわけで、となれば、そうしたアイテムで運命はわかれることになる。これは神堂のくちにしていた運勢観とは異なる。だから両者はまったく無関係かもしれない・・・・といっても、神堂のしゃべりかたは流暢だが、くちからでまかせというような感じもある。しかしそうなると、ふたりの出会いは偶然なのだろうか。勅使川原と神堂が通じていて顔写真などを彼が知っていれば、待ち合わせ場所の近くで待ち伏せすることはできるだろう。そして、彼が選んだ、という意味合いで、出会いは決定していたともいえるかもしれない。とすれば、運命を決めているのは彼ということになるのだが。


神堂のイメージには白と黒の二色がまとまりついている。この二色の対応は、ウシジマシリーズでは頻出する方法であって、サラリーマンくんでは小堀と板橋という物語の両輪、サラリーマンのありえたかもしれないふたつの姿が、公園のパンダの遊具で暗示される、というしかたでつかわれたし、スーパータクシーくんの諸星においては、性欲に支配された、亀頭をおもわせる諸星の色黒の顔貌と、すべてを白く言い換えて乗り切る彼の陽性に見えていた。それらと同一というわけではないが、無個性な白い服装と天蓋のような黒い傘、白く高そうなの、明日香を連れ去る際の闇に包まれた黒さ、これははっきりと見て取れる。それが、たとえばサラリーマンくんのように、作者が表現としてほどこしたものなのか、諸星が生存本能的に編み出したように自然と身についたものなのか、つまり出自については、このじてんではもちろんなにもわからない。だけどひとつのヒントにはなるだろう。


明らかに暴力をふるわれていた誰かのもとから逃げてきた様子の明日香だが、ところどころ奇妙ではある。裸足で飛び出すくらいだから、よほど切羽詰っていたのではないかとおもわれる。ではどうして鍵をなくしたなどと嘘をつくのだろう。あるいは、交番まで連れて行ってとか、そういうふうに頼みなおさなかったのだろう。単純に考えて、殴られたあとがあるのだから、それを見せて、こんなふうにされた、怖い、下手するといのちが危ない、助けてくれといえば、いくら明日結婚式といっても、みゆきたちにだってそれなりのことはできる。しかし、彼女はそれを隠す。ということは、ことはそんなに単純ではないということになる。逃げ出さずにはいられな、つまり、その場所には耐えられない、にもかかわらず、真実をくちにすることはできない、そういうゆがんだ状況にあるのだ。だから、みゆきが助けてくれないとわかったあとで、顔の怪我を指摘され、それを隠そうとする。とらわれているなんらかの真実から逃れることはできないと悟り、観念してしまう。


登場人物の口調とは微妙に異なり、まゆみは意外と結婚には冷静なのかもしれない。リアルな仕事の夢もある。だとすると、なにが彼女をスピリチュアルな路線にすすませるのだろう。これまでの僕の考えでは、まゆみのスピリチュアルにむかうしかたは、現実の欠如感についての渇望や「遅れ」の感覚、これを、通常の論理にはくみこむことのできない別の用語に言い換え、そこから新しい物語、つまり世界観にすすんでいくというものだった。解決できない不安が、この物語のもとではべつのことば、運命とか神のお告げとか試練だとかそういう概念で語られる。彼女の意外な冷静さ、リアリストっぽさは、不安の裏返しなのかもしれないのだ。そして、無意識下にあるそうした「遅れ」の感覚が、解決を求めて五万円の数珠を買わせる。その矛盾が、占いに対して好意的な発言をしたあと即座にそれを内心で否定し、はなしにのった男を拒絶させる。自覚がないという点で、あるいは危険は大きいのかもしれない。






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