花組東京公演‐ファントム | すっぴんマスター

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久しぶりに宝塚を観にいってきました。

蘭寿とむのトップお披露目公演ということです。

演目は、すでに何度か上演されたことのある『ファントム』。

衣装やポスターの雰囲気からはエリザベート的なものが感じられたので、かなり期待していきました。

連れていった相方は、これが宝塚の初体験なので、果たしてこれでよいのかというおもいがどこかあったのですが、というのは、ショーなしのお芝居一本ものって観る側にもわりと体力がいるし、たんじゅんに明るいはなしとかではなさそうだし、という意味なんですけど、しかしもちろんそんなのは杞憂というやつで、僕自身、こんな、名作にして名演を観ることができて、感動することしきりであります。ほんとうにすばらしかった。僕はわりと、涙腺とかときどきないんじゃないかとおもえるくらい、感動しても泣いたりしないにんげんなのですが、今回は、なんかへんな声が出てしまいそうで、唇をかんで必死に耐えなければならないほどなのでした。


なにより驚きというか、発見というか、予期していなかったのは、蘭寿とむであります。僕にとっての花組は、真矢みきから愛華みれのあたりで認識がとまっていて、蘭寿とむはもちろん、そのころから頭角をあらわしていた若手だったのですが、なんというか、あそこまでたいへんな男役になっているとは、想像もしていなかったのであります。加えて、僕個人の印象ですが、そして柚希礼音だとか音月桂だとかの、現代的な、どちらかといえば陽性の華をもったひとと比べてというはなしなんですけど、どこか地味なイメージがあり、たいへん失礼なはなし、観る前まではそれはネガティヴなものだったのでした(ほんとうにすいません)。

で、いろいろ考えてみて、たぶんこのひとは、写真と、お芝居でじっさいに動いているところを観るのとで、だいぶ印象がちがうのですね。これもまた僕の無知が露呈するところですが、以前からこのひとはダンスが得意分野だったらしくて、僕はひとつひとつのダンスにいちいち感動していたのですが、これがほんとうにうまくて、冷静に周囲の状況を見てみると、いまさら「蘭寿とむはダンスがうまい」などということをさかしらに述べ立てるのは馬鹿丸出しという感じがするので、これ以上はひかえますが、ともかく、おそらくこのひとにおいては、音楽なしの通常の所作においてもダンスの基本が生かされていて、ただこう、まっすぐ立って、正しくファントムとして背景に浮かび上がるだけで、おそろしい存在感なのです。ぜんたいの演出、装置の工夫など、これが舞台という表現の総体的結果であることはたしかですし、なんでもないことのようですが、僕はあの、クリスティーヌに顔を、魂を見せたあと、彼女を追って、地下につづく窓みたいなところの外にあらわれたファントムの立ち姿を見ただけで、なんかこのひとのすごさのすべてがわかった気がしたのです。格闘技ではよく、型に特化したような流派をダンスということばをつかって揶揄することがありますが、逆にいえば、ダンスというのは「約束」に特化した、ちょうど、ジャズみたいな即興演奏に対立する、クラシック音楽的な緊張感のなかにあるものなんだとおもいます。といっても、お芝居は生き物、僕が今日目撃したものはもう二度と観ることはできないのと同じように、ダンスにおいても、なにかその瞬間にしか生きていない特殊な息遣いのようなものがある。ただ「約束」を追い求めるだけでは、すべての熟練者のダンスは等しいものとなってしまう。そうならないのは、つまり、ダンスのうまさというのが、たぶんそういう刹那のつかみかたのレベルの問題だからなんではないかとおもいます。


という感じで、僕ではついつい蘭寿とむのことばかりになってしまいますが、はっきりいって今回のこれは100点だとおもいます。歴史的傑作ではないでしょうか。原作はガストン・ルルーのオペラ座の怪人、すでに何度か上演もされている作品でありますし、物語は折り紙つき、そのうえで、正統派娘役という感じの蘭乃はな、熟達した演技の壮一帆や桜一花、センスが問われる種類の役柄だった華形ひかる(役替わり)などの演者さんはもちろん、演出も装置もなにもかも、おそろしいできばえでありました。まだ日はあるので、可能ならば、ぜひ観にいってもらいたい作品です。



花組のみなさん、千秋楽までがんばってください!



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