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ピクサーの『カーズ』に登場するメーターが主人公の短編集。ディズニーストアに行くとスクリーンに流れていることが多い。
基本世界はカーズのそれで、ライトニング・マックィーンを相手に、「じぶんはむかしスタントマンだったんだ」という具合に、傍目には完全におもいつきで、メーターがおはなしをつむいでいく。マックィーンはもちろん信じないし、ほとんどのばあいフィクションのようなのだが、最後に必ず、もしかするとほんとのはなしだったのかもしれないとおもわせるなにかがつけくわわる。どれもこれも非常に完成度の高い作品で、カーズのの物語というものが、ピクサー作品のなかでも特別寛く、柔軟な世界であることを示すとおもう。
夏にはカーズの第二弾が公開される。1に関して、僕は二年くらい前に見たきりなのだけど、それでも、ほかのピクサー作品と比べて異色作であったことはまちがいない。人間が登場しないのである。これまでの作品では、トイストーリーもモンスターズインクもファインディング・ニモも、ミスターインクレディブルでさえ、人間が登場し、中心世界の外側として、いわば神の手で外部から規定するかたちで、人間が登場してきた(たんに登場するかしないかというだけなら、ウォーリーやカールじいさん、レミーのおいしいレストランにだって人間はとうぜんあらわれる)。
外部から中心の価値を定める人間の位置は、ちょうどこの物語を見つめる我々のものと同一であって、人間たちが生きている世界のその成り立ちのなかにはじつはこういう構造や関係、葛藤やたたかいがあるのではないかという想像が、ディズニーらしく擬人的に、ファンタスティックに描かれてきた。トイストーリーのおもちゃたちは、どれだけ危機的な状況であっても、シドを前にしたごくいちぶの例外をのぞいて、人間たちの前では動かないというルールを頑固に守り続ける。一見、これはおもちゃ側の「選択」によるもので、つまり意図的なものであるかのようだが、それよりはむしろ、それがおもちゃの宿命なのであって、「としをとれば死ぬ」とか「最初に生まれたから長男である」みたいに避けがたい、避けることそのものが脳裏に浮かばない、存在の本質的なものごとであるようにおもわれる。その意味で、このおもちゃたちの行動を決定する「人間」という存在は、外部にある太陽、あるいは神みたいなものであって、彼らの、彼らのものとして確立している関係やふるまいを意味づけ、照らしつける。
なかではバグズライフだけは人間が登場しなかったはずだが、存在しないわけではなく、彼らは明らかに人間たちのあしもとに暮らしているし、ここにも、雨粒とか季節のうつりかわりとか、彼らのふるまいに意味をもたらすなんらかの巨大なありようが存在している。
そうしてみると、ピクサー作品のうちの少なくともいくつかは、そうした宿命をどのようにうけいれていくのか、あるいは乗り越えていくのか、そういうことを描いてきたといえるものかもしれないが、カーズにはそれがない。もちろん彼らにも宿命(や責任)はあるにちがいないが、そうした存在に関わる「大きな物語」が露骨に前面に出てきて、近距離で激突するということはない(と記憶している)。
カーズは、なかでは新しい作品だったとおもうが、こうしてみると、製作者側にもある種の冒険心があったのではないかとおもえてくる。もうひとつ、「登場人物には語りつくすことのできない大きな物語」から離れた、別の次元の、しかしどこまでもピクサーであり、ディズニーである、そういう作品をつくろうとしたとき、人間社会における車の擬人化ではなく、人間の擬車化が採用されたのではないだろうか。つまり、その意味では、カーズには人間しか登場していないのである。
ピクサーの作品はどれをとっても超A級、すでに歴史的傑作であることはまちがいないのだが、こうしたことを忘れて無心に思い返してみても、カーズは明らかに毛色がちがう。どこか自由なのだ。それは、こうした開放的な構造にあって、トイストーリーなどとはまた異なった原理のもとにはなしをつむいでいくことができるからなのだ。カーズ2の宣伝を見てもこれがどのようなはなしなのかぜんぜん想像できないけれど、それも、この開放性によるものだとおもう。要するに、どのようにでもいじることができるのである。
メーターのこうしたおはなしの群れも、カーズの物語構造がもたらしたよき効果だとおもう。
トイストーリーでもニモでも、彼らには彼らの日常があるのだから、続編をつくることは原理的には可能であり、げんにトイストーリーは3まで制作された。しかし、たとえばトイストーリーでは、物語はボニーへと引き継がれながら、あのように完結をした。ボニーとの物語を書くことはできる。しかし、それを縦糸とするなら、カーズのように、横に広がっていく物語を書くことは、ほかのストーリーでは困難だろう。マックィーンたちにも背負っていかなければならないものはある。だが、すくなくともおはなしの構造としては、ウッディとアンディをつないでいくようには、ふるまいを重く羈束することはないのではないだろうか。
そうして、こうした開放性は、どこかミッキーやドナルド、グーフィーといった、なんと呼べばいいのか、ディズニーのアイコン的キャラたちのもつ超越性に通じるものもある。車という点で、大人の、特に男性をひきつけるものもあるだろう。カーズの世界はもっともっと広がっていくかもしれない。
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