第221話/ホストくん①
ドラマを経験し、小学館漫画大賞も受賞したウシジマくんの待望の新章は、ホストくんです。
これまでの、正確には出会いカフェくん以降の抽象的な副題に比べると、身も蓋もないほど端的なテーマである。
ということは、いかにもサラリーマンくん以前のような一般的な「職業」の呼び名のように見えても、じつはウシジマ一流の意味を孕んだことばであるかもしれない。
副題はウシジマを読解していくうえでもっとも手近なヒントである。
ホストというのは、はっきりいってすべてのエピソードに登場するんじゃないかというほど、ウシジマワールドではありふれたジョブだ。
だから、いったい、ここへきてホストのなにを描いていくのか、あるいは描いていかないのか、わからないが、なにか、この物語の舞台の根本のようなものが、批評的に暴かれていくものかもしれない。
丑嶋と高田が金を貸しているのは、成瀬一聖というホストである。しかし、ありがちなホストてき風体ではぜんぜんない。メガネなんかかけて知的だし、品もある。不況のあおりか、ホストの客のほうも細客(一般の女)が増えている。どちらかといえば「ふつう」な女は、いかにもなホストを連れ歩くことを好まないから、まじめっぽいのが人気なんだという。
で、一聖の客の売り掛けは200万にも達しているらしい。取り分の半分を手数料として、丑嶋はこの回収を請け負うのだった。
一件目の主婦・太田ハルコは、まさにその「一般の女」というやつかもしれない。丑嶋が出向くとすぐにに120万円を渡す。といっても、子どもの学資保険を解約したお金らしいが・・・。
ハルコはすっかりホストにはまってしまっている。丑嶋はまんまと、新しく金を貸し付けるのだった。
二件目、キャバ嬢エミのほうはもうすこしややこしい。丑嶋と高田がいくと、すでにべつのホストが取り立てにきている。しかしエミはぜんぜん払う気がない。弁護士に相談したら、ホストに払う必要はないといわれたというのだ。どうしてそうなるのか、よくわからないが、「なんなら裁判する?!」とすごみ、ホストは帰っていく。
次は丑嶋の出番。エミは同じ調子である。エミは店の料金に納得してツケたはずである。それを、法的にはどうだか知らないが、いまになって払わないというのはおかしくないかと、丑嶋がいう。
そして、弁護士に教わった語り口だろうか、二言目には「裁判をするか」とエミはいう。
「いいよ。
裁判すっか?七瀬エミ」
「仮に負けても80万円はキッチリ回収するよ」
すさまじい視線を送ってくる丑嶋に、エミも冷や汗である。
なかなか、おもしろい場面だ。
エミは丑嶋のふるまいに沈む暴力性を、ことばに解体できない次元で感知したのである。
「仮に負けても回収する」というのは、彼に対しては、裁判の勝ち負けなど問題ではないということを意味している。
このことばがどれほどの有効性をもっているかはわからない。というか、どこまでほんとうかというのはさして重要ではない。はったりかもしれない。
重要なのはエミが「どうあれ回収される」ということを身体的に知ったということである。
これは、カウカウがつねに武器としてきた「ふるわれない暴力」の丑嶋的発現だ。
裁判を問題としない以上、理屈には合わないが、目の前のこの男には法(ルール)が通用しないかもしれない、という可能性が、浮かんでくる。
このことの可能性をぎりぎりまで、おもわせぶりなしかたで見せつける。
ほとんどその技術だけで、彼らは回収をしてきているといってもそれほどまちがってないだろう。
現実の暴力の大きさは、このばあいでは二の次である。
帰り道、状況はよくわからないが、とまっている車に真横からべつの車が衝突するところにふたりはでくわす。その音に、高田は過敏なほど反応する。
(愛華・・・
ゴメンな・・・)
ホスト関係の取立てのあとでもある。高田の記憶のなにかやわらかいぶぶんに触れたようである。
そこに、高田のことを瑠偉斗(るいと)と呼ぶ隼人というホストが現れる。むかしのホスト仲間のようだ。
隼人はいま、店長を任されているらしい。
高田が金融屋としてのありようについて語るが、隼人は元気がない。そして、じぶんにも金融できるかなと問う。いまの仕事になにか不安要素があるのだ。
「営業許可とってない違法店の店長だよ」
つづく。
今回はやはり高田がらみのおはなしのようだ。
隼人は高田と仲良しのようだから、ずっとホストをやり続けているんだろう。
そしていまは店長だ。といっても、経営者ではないから、じぶんで店をかまえたとかそういうことではなく、あくまで任されている。
そしてその店は違法なのであるから、背後にはコワイひとたちがいるにちがいない。
高田がやばいというくらいだから、ふたりがいた店は正規の許可店だったんだろう。
それが、流れ流れて、業界で仕事を続けていくうちに、逃れられない状況に陥ってしまったのだ。
高田も事情があってホストをやめた。
その事情とは、普遍的なものだろうか?
病んだ女を相手に割り切ってやっているつもりが、じぶんも病んでいた、というようなことを、高田はテレクラくんでいっている。
それは、ホストに関わるある種の歪みに共通のものかもしれない。
愛華とは、その面における高田の個人的なファクターだろう。
いったいどんなはなしになっていくのかな?
ところで、いまテレクラくんをちらっと読んで気づいたのだが、高田の髪の毛がずいぶん短くなっている。
だけど、毛先だけ金色なのは相変わらず。
ということは、髪がのびてプリンになったのをそのまま放置していたのが気に入って、ずっとそのスタイルに維持しているか、あるいは、テレクラくんなどよりちょっと時間がもどるのかも。
まあ、たぶんどうでもいいことだけど。
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