第239話/好事魔多し
30センチの包丁を手に子どもを襲った通り魔を、おそるべき空手の技で文字通り破壊した愚地独歩。
ふだんの素人相手のケンカ、特にストレス解消的な目的でケンカあさりをしているときは、もちろん、できるだけ人目につかないよう夜間を選んでいるはずだし、逃げる準備もしているだろう。しかし、今回は突発的なものであり、やりすぎの感はあれど、目的が最初にあってとられた行動ではない。だから、防犯カメラにうつりこんでしまったし、おそらく独歩じしんも逃げるということはせず、警察につかまって事情聴取を受けているのだった。
黙って独歩を眺める刑事に対して、独歩が語る。あれらの「存在してはならない」殺人技の、使用法そのものに誤りはない。だが、使いたい技でもない。もしつかうなら、それは、弱者や愛するものへの理不尽な危害、あるいは戦争などの例外的なケースのみ。そのうえで、独歩は、今回の件において使用法に誤りはないと断言するのだった。
そして久しぶりに烈の描写だ。空中からの攻撃で烈はクレーザーを防御いっぽうにおしこもうとしていたのだった。
クレーザーがカウントをとられている。ダメージはかなり深いようだが、観戦しているアライはここからが殺し合いだとつぶやいている。烈の見立てでもクレーザーのエネルギーは風前の灯火。アライの真意とはなんだろうか?
烈はチャンスとみて続けて縦拳をくらわせてゆく。どれもこれもモロなのである。だが、ジョーからの反撃だ。一撃で形勢が逆転しかねない、重い一撃であり、危機を感じた烈はふたたび宙に逃れるが、これも拳でおさえこまれる。とびあがるまえに打たれてしまえば、空中殺法も通用しない。
おそろしいファイターである。まちがいなくダメージはある。にもかかわらず、クレーザーの勢いはまるでおとろえることがない。
観客が蹴りかと勘違いするほど足をあげた烈は、足裏でロープを強く押し、弾力を利用して水平にパンチをくらわす。が、やはりクレーザーをとめることはできない。白めの彼の放つアッパーが顎をとらえ、烈は大きくふきとばされてしまう。これが、スモーキン・ジョーなのだ。粘り強く、くらいついたら離れない、不屈のおとこなのだ。
そして烈は、もっと上位・・・つまりベルトをかけたような試合でつかうつもりだった秘技を解禁する。それは、一本拳なのであった。
つづく。
想像以上に烈がおされている。
たたかいが計量可能であり、ヒットポイントの削りあいであるなら、すでに烈は勝利している。
クレーザーのありようは、たたかいというものがそうではないことを示す。
「人体を肉の塊としかとらえられぬ」とアメリカ人を揶揄した烈じしんが、相手の戦力を即物的にとらえてしまっているというのは、皮肉なはなしである。
つまり、烈はまだどこかクレーザーを、というか、中国拳法ではないという意味でのボクシングを、なめているのかもしれない。
秘策をとっておくという点にもそれは見られる。
これは、クレーザーが「HPゼロであるにもかかわらず動いている」ということではない。
「ほんらいならもう動けないほどのダメージを負っているはずなのに(動いている)」という語り方じたいが、背後に実体的な数量を想定したものだからだ。
クレーザーや、あるいは千春が身をもって示しているのは、たたかいというのはそういうものではない、あるいは、そういうものとは限らない、ということなのだ。
で、烈の秘術だが、どうやら中指の関節をつきだした一本拳のようである。
ボクシングのグローブって、空手のサポーターとかと比べてもすごく分厚く、かたいイメージだが、握力でそこまでつきだすことって可能なんだろうか?
それに、ルール的にはどうなんだろう?
「真島くんすっとばす」の空手のトーナメントでは、顔面への手技が解禁された準決勝以降も、主人公のつかう、一本拳によく似た鉄菱は顔面に限り禁止されていた。
もちろん試合は生き物だから、審判が指摘しないかぎり、烈は一本拳を使用したことにはならないのだけど、それでも、ばれたら協議のためいったん試合中止なんてことになりかねない。
まあそれをいったら今回のロープをつかったパンチも、おいおいって感じだけど。
いずれにしても、いつかも書いたことだけど、烈がどのように「ボクシング」というものをボクシングの範疇でオリジナルに解釈していくか、というのが、やっぱりポイントみたい。
そして独歩はふつうにつかまっていた。
今後身柄がどうなるのかはよくわからないが、独歩はべつに反省したりとかはないらしい。
存在してはならない技だが、使用法はまちがっていないという。
つまり、今回がその「例外的なケース」だということだろうか。
だとするなら、「つかいたくはなかった」というのは、その犯人に対して使用したくなかったということではなく、そもそもそうした状況が起こってつかわざるを得ない状況に陥りたくなかったということだろう。
周囲には一般人ばかり、しかも犯人が最初におそったのは子どもである。常識が通用しない、凶暴な相手であり、独歩は瞬間的に戦闘不能にしなければならなかった。手足を折るとか、ボディにくらわせて悶絶させるとかではなく、文字通りその場から動けなくなるような、そんな技・・・。
現行犯というか、目の前で行われた犯罪であるし、制裁という意味もあったのかもしれないが、なんにしても、ある種の例外的な状況に遭遇し、独歩は「存在すべきではない」技術を解放した。「存在すべきではない」技術がぴたりとそぐう、そんな状況もまた、論理的には「存在すべきではない」はずである。
そしてこの世界が、地下闘技場の戦士たちが住む世界なのである。
人格者としての、社会的価値に包まれた愚地独歩は、この「存在してはならない」世界の顕現に嘆くかもしれない。
だけれども、そうした技の数々は、彼の内側でうごめき、自己主張しているのだ。
烈が一般のマスコミで報道されるような公式の試合に出場し、独歩は「存在してはならない」技術を明るみにした。
雷をうけても死なない、それどころか、ホネホネロックになってぷすぷすいってる超人が存在することも報道された。
常識がくつがえろうとしている。
その意味とはいったいなにか?
- 範馬刃牙 27 (少年チャンピオン・コミックス)/板垣 恵介
- ¥420
- Amazon.co.jp
- 範馬刃牙 26 (少年チャンピオン・コミックス)/板垣 恵介
- ¥420
- Amazon.co.jp
- 餓狼伝(25) (イブニングKC)/板垣 恵介
- ¥620
- Amazon.co.jp
- バキ外伝疵面-スカーフェイス 1 (チャンピオンREDコミックス)/板垣 恵介
- ¥580
- Amazon.co.jp