第199話/ヤミ金くん⑳
丑嶋宅の偵察にきていた鰐戸一・二郎が、柄崎と遭遇する。
かつてはいいように扱っていた子分みたいな後輩だったのだが、いまでは状況が変わり、鰐戸のほうが顔に汗を浮かべている。
「あれ?二人の服なんかヨレヨレだね。
お前ら
今、なにしてんの?」
冷笑を浮かべながら、柄崎の態度はむかしとは大きく異なる。対する鰐戸もまた、しどろもどろに応対する。
なめてるのかと問う鰐戸に、なめてるのだと柄崎がすごむ。そして柄崎が示す携帯には、鰐戸たちがむかし柄崎たちに要求していたような、プライドをずたずたにするような姿の画像が表示されている。丑嶋社長にやられたあと、「メッキが剥がれ」た鰐戸たちは、これまでいじめてきたものたちからも仕返しをされ、すっかりしょぼくれてしまったのだった。
どれだけの恨みがあったのかわからないが、柄崎はやや大人気ないともおもえる態度を示し、去っていく。しかし鰐戸たちには計画もあるし、ここでぶちきれるわけにはいかない。第一「なめられて」いる。一は鍵を手のなかにいれたまま血が出るほど握り締め、耐える。
丑嶋の自宅は高層ビルの一室らしい。警備員らしきものもいる。鰐戸たちにしてみれば、アウトローの住人とはいえ、丑嶋はやはり成功者なのだ。
そんなふたりのもとに、思い出したくもない日常の、誠愛の家の仕事が入る。深夜の海にもぐり、アワビやナマコをとるという、なにやら難しそうな仕事だ。まあ、やはりつかえるものではない。甲本などはこわくてもぐれないとぬかしている。船長は強い態度で、とれなかったときの罰金を要求する。
柄崎の件でのやつあたりもあるにちがいない、鰐戸一は甲本の足に重いいかりを結びつけ、海に蹴り飛ばす。
「潜れんじゃん。
あんたの使い方が悪いんだよ」
もともとたくさんのものが獲れる場所ではないらしい。たしかに、鰐戸兄弟は、実際の労働をする誠愛の家のメンバーにたいした報酬を与えていない。では管理者の鰐戸が大部分搾取しているのかというと、じつはそういうことでもないのだ。要は、仕事そのものが、そのような低賃金で行わなければならないようなものかもしれないのだ。まともな派遣会社ではないことは、雇い主のほうでもわかっているだろう。要は、弱みにつけこむというようなことなのだろう。
どうしてこんなことになってしまったのか、こんなに落ちぶれてしまったのか、二郎が兄に問う。ちなみに甲本は無事です。
一は、三蔵が丑嶋にやられてからだと応える。
丑嶋の金を奪ってやりなおした。
だけれど、ガードはかたそうだ。
「そん時はよ…
ウシジマ殺っちまうか?」
つづく。
この世界では、「なめられたらおしまい」だ。
鰐戸兄弟の現状は、まさにその状況だ。
鰐戸兄弟は、彼らの暴力の具体的顕現であった三蔵を丑嶋に砕かれることで、ヤミ金=暴力という財の相対的な寡少を明らかにされてしまった。
このことで、周囲のにんげんは、事実はどうあれ、鰐戸兄弟の財産を低いものと査定するようになる。
じっさいには三蔵の暴力、またそれを御するところの一のそれなりに狡猾な暴力は、かなり強大なものかもしれない。
しかし、それがじっさい以上に小さく見積もられることで、暴力の等価交換…すなわち、暴力をふるわないという貸しをつくるという、この世界の基本的な経済体系でちからをふるえなくなる。
それが、「なめられる」ということなのだ。
「暴力をふるわない」ことが意味をもって機能するのは、事実はどうあれ、それが恐れられているときだけだ(だから優希のような人間にこの交換体系は通用しない)。
いかに三蔵が凶暴な男であっても、ひとたびそれの底が知れてしまえば、暴力は、「ふるわれない」という有効な用いられかたでは機能しなくなってしまう。何度か書いたが、この意味では、暴力はふるわれないことに価値があるのだ。
鰐戸兄弟は誠愛の家のひとびとにも同じく、この原則を用いてはいる。
だけれど、黒田がそうであったように、この家でなければダメという人間も、かなりいるようではある。
また同様にして、鰐戸兄弟たちも、弱みをもった、ここでなければ生きていけないような人間でなければあつかえないという面がある。
貧困ビジネスとはいいつつも、彼らには共生的な面もなきにしもあらずなのだ。
一がしょぼいとするビジネスや女、誠愛の家の住人たちだが、それは、鰐戸側にそれしか選択の余地がないというぶぶんも、あるのかもしれないのだ。
この現在の状況の原因を、一は、丑嶋に帰着させる。
鰐戸兄弟は、丑嶋の手により、その暴力の底を明かされてしまった。
そこで丑嶋を乗り越えれば、鰐戸の暴力の相対的な様態は、ある程度回復するかもしれない。
しかし、鰐戸たちの現在の状況というもののはじまりはたしかに丑嶋かもしれないが、もはやそれはかたちを変えて、まったく別の、もっと大きな負債となっている。
それは、ちょうど闇金とおなじで、元金を返してももっと莫大な利息が残っている、というような状況だ。
丑嶋はたしかに、このアウトローの世界で大きな存在だろう。
元金だけで利息を上回るような、大きな暴力をもってもいるかもしれない。
しかしそのことで得られるあらたな「鰐戸兄弟」の暴力的な様態は、以前のものとはちがう。
それは、「丑嶋を乗り越えた鰐戸兄弟」なのだ。
以前と同じ地点にもどることは、もはやできないのか。
それが、なめられたら「おしまい」の真意だろうか。
いずれにしても、鰐戸の怨みの念はすさまじいものがある。
もはや奪われたものを取り返すというものではない、だめなら殺ってしまおうと、そういうレベルなのだ。
こうなると、人間というのはほんとうにおそろしいものだ。
加納やマサルの予感はあたるのだろうか…。
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