今週の闇金ウシジマくん/第194話 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第194話/ヤミ金くん⑮




これまでと比べれば高給、だがキケン度の高い仕事を終え、疲労困憊の誠愛の家の面々だが、鰐戸兄弟はすぐに次の仕事を命じる。真夜中のりんご狩りである。まあ、泥棒だ。雇用条件は違法かもしれないが、誠愛の家のひとびとの行動がそのまま犯罪につながるということは、これまでなかったようにおもう。じぶんがそういうあつかいなのはかまわないが、それを他者にむけるとなると、少なくとも優希のなかではなしはべつだ。三蔵は怒鳴りつけるのだが、一はてきとうなことをいってごまかそうとする。たのまれてやってるんだと。



「仮に泥棒だったとしてよ、


老人から奪って何が悪い?」


優希のことばを拾い、卑屈な毒虫みたいな目つきをした甲本が自論を展開する。鰐戸兄弟の前でこれだけしゃべるのははじめてではないだろうか。つまり、それだけ彼のなかでは確固とした考えなのだ。


甲本は言う。じぶんたちの世代は老人から奪われてきた。そのほんの一部を取り返してなにが悪いのかと。

微妙にはなしがずれているというか、優希がいっているのは「泥棒」のことなのだけど、甲本の思考の最底部には、奪われたのだから奪っていいという原理が働いている。ゼロサムゲームというのだろうか。この原理にはつねにオリジンのようなものがある。じぶんは本来こうあるべきという模範体だ。甲本的には、本来あるべき原点からたくさん引かれた状態にいまはある。だから、その引き算を実行した人物はおなじだけプラスになっているはずなのだ。



りんご園の周囲には有刺鉄線がはられている。なんだかよくわからないトラップみたいなものもある。


りんご園の主は、やはり老人だった。おじいさんは病気の奥さんを病院に連れて行くために必死でりんごをつくってきたのである。犬がほえて侵入を伝える。誠愛の家のメンバーは大急ぎで逃げ出すが、一度有刺鉄線で怪我をし、ふたたび似たようなところでひっかかった甲本が、老人につかまる。といっても、老人の態度は泥棒に対しても慇懃なものだ。


弱そうな、しかもからいばりしない優しそうな老人だから気が大きくなったのかもしれない。甲本は目つきをかえて、ひょろっとした棒をつかんで構える。たいした怪我ではない…とおもう。だが、甲本は、鰐戸兄弟にも隠れて、老人に暴行を加えてしまうのだった。



労働者たちが奪ってきた大量のりんごを売りさばくのは鰐戸一だ。借金をちゃらにするかわりに客のキャバ嬢に手伝わせて、高額で売りつけていく。


ひと仕事終え、一はキャバ嬢と地べたで済ますのだが、その顔に満足の色はない。というか、うんざちしている。しょぼい女、しょぼい仕事…。



(このままじゃ終われねェ…


ウシジマの貯め込んだ金を奪って、

全てを変えてやる)



つづく。



一は丑嶋からすべてを奪うという。

この「奪う」は、甲本のいっていた「奪う」と呼応する。

つまり、一の原意識の次元で、この「奪う」は、「奪われたものを奪い返す」というふうにたぶんなっている。

どうあれ三蔵がやられたことで、彼らの持する暴力の財産というものが丑嶋より少ないということが明らかになってしまった。

これは、この世界では大きな借りである。

もし鰐戸一がこれからもこの世界で生きていき、加えてさらになにか新しいものや大きなものを手にしようとするなら、つまりのしあがろうとするなら、暴力の等価交換の原理にしたがっている限りでは、丑嶋越えは必須なのだ。

丑嶋は彼らアウトローの人間からしたら、もしかしたらかなり成功している、あるいはそう見える人間なのかもしれない。もちろんそれもあるだろうが、ここでは、そういう背景がたぶん大きく働いている。過去に奪われているからこそ、一は丑嶋狙いで奪いにいくのだ。そして、そのことの価値は、少なくとも鰐戸一にとっては、実際よりずっと大きい。



甲本がうらみをこめてなぐりつけた老人というのが、りんご農園の主人であるというのも、なかなか興味深い。りんごの栽培というのがどれだけ時間のかかるものか見当もつかないが、少なくとも、今日植えれば明日収穫できるというものではない。たっぷり時間をかけて、こんきよく、ないところから存在するものを引き出していかなくてはならない。「今年いいりんごが出来た」といっていることからもわかるように、それが毎回うまくいくとは限らない。つまり、同じ労働に対し、毎回同じ分量の収穫があるとは限らないのだ。ここに等価交換はない。



今回、また三蔵が出てきたが、なんか一にコントロールされているばかりのでくのぼうに見えてきた。しかし、三蔵はまちがいなく鰐戸兄弟の切り札であり、すべての暴力を蔵した存在だ。一が丑嶋に対し、この三蔵をどのようにつかってくるか、見ものだ。




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