今週の範馬刃牙/第186話 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第186話/闘いの遺伝子



ピクル戦を終え、お決まりのオヤジの描写も済み、いよいよ新章開始だッ。



とおもっていたら、なにか様子がおかしいぞ。このすごい懐かしい泣き顔は、アライjr.だ。バキに瞬殺され、身も世もなく泣き崩れて、松本梢江に抱きしめられていた、あの場面だ。


梢江はこれ以来登場していない。範馬刃牙はシコルスキーや柳とのたたかい、またオリバとのやりとりなどの過程で、“守るもの”がいることで強くなる、ということの意味を実体的に知った。悪名高い(?)バキSAGAで、彼は童貞を捨て、男になり、他者の“ぶぶん”として、肉体的にか精神的にか、とにかく世界に接続する際のよすがとなる門扉のようなものを獲得した。


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最近ではそのように断言するのはどうかという気もしてきているが、少なくとも、彼が目指すところの勇次郎は、基本的に他者を必要としない、というかその概念をもつことのなかった、「世界」と等号で結ばれる究極の生命体である。くりかえすが、フロイトでは、ひとは、母親の乳房との距離を知り、「思い通りにならない」という感覚とともに“他者”を、すなわち“社会”の最小単位を獲得する。しかし勇次郎にはこの感覚がおとずれることはたぶんなかった。奇しくも、バキ外伝としていつだったか描かれていた勇次郎の生誕時のエピソードで、彼は母親から奪うように、命令するようにして乳房を手にしている。



(勇次郎誕生はコレに入ってるっぽい↓)

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勇次郎はバキの父親であるから、バキには原理的に勇次郎とおなじ位置にたどりつくことができない。「世界」は、ひとつしか存在しえない。したがって、バキが勇次郎にたどりつくためにはべつの方法が必要となる。それは、ピクル戦でも見られた、「格闘技術」という、それが成り立つために歴史的な他者の介在が不可欠である体系が表出する、その「関係性」ということでもあったとおもう。


だから「社会」の定義とは、「思い通りにならない人々の集合体」であり、そこで生きていくということは、構造的に理解のできない物事に積極的に関わり、認識の共有を果たすために想像力を働かせていくということである。そしてひとがもっとも近くに他者を感じる瞬間というのは、まあ、いうまでもない。性交は、そうした人間的ふるまいの肉体的実際的表現である。それが異性のからだを用いたただの自慰を脱するのは、認識共有へと想像力を駆使して志向したときのみである。


そうして、オトナの階段をのぼったことで、バキはいわば観念的社会人になり、またそうした記憶を共有するはじめての他者ということで守るものもでき、強くなったわけだけど、もちろんこの段階ではまだ勇次郎には届かない。僕としては、残酷な言い方になるが、物語的には梢江は用済みとなったために、作者はアライ編を描いたのではないかと考えていた。たんにキャラとして梢江を体よく処分するためではなく、これは、バキの弁証法的成長を端的に示すために、以前のバキをアライjr.を通して表現することで、主人公のいわば「梢江越え」が図られたエピソードなのではなかったかと。



というわけで、僕は梢江のフェイドアウトは物語的必然だろうと考えていたのですが、前置きが長くなりましたが、今回久しぶりの登場だ。



(スゴい…


スゴい貌だったナ…)



梢江は自宅のベッドのうえで、アライjr.の泣き顔を思い返す。たしかにスゴい。なんかさかさまにしても顔に見えるだまし絵みたいになってる。自慢のハンサミティも台無しだ。


恋にもファイトにも自信満々、バキからじぶんを奪うと豪語し、独歩や渋川といった強豪も倒してのけたアライjr.だけれど、独歩たちや猪狩の予想も覆し、あっさりもいいところで主人公に敗北、プライドもなにもぜんぶぶち壊され、体面もなく液という液を顔から噴出し続けるかわいそうなアライを、梢江はおもわず抱きしめたのだった。梢江は、「あれはマチガってはいない」という。「あれ」というのは、「あのおもい」ということだろうか、それとも抱きしめた「あの行為」ということだろうか。


泣き虫サクラのように泣きつくしたアライは、ぐっしょぐしょの梢江に感謝を示す。そして、なぜこれほど長時間じぶんを抱きしめてくれたのかと問う。負けはしたが、まだなにか期待しているのかもしれない。アライは梢江の抱擁に、優しさと熱さを感じていたのだ。



「うまくは言えないンだけど…


あなたのお母さんなら…きっと


そうしたと思った…」



アライは沈んだ表情で、「恋人ではないのに?」と訊ねる。対し梢江は、愛でしたことだと応える。愛と恋はちがうものなのだと。梢江は母親が息子に抱く愛と同質の感情で、彼を抱きしめたのだった。


アライはそんな君に愛を伝えたのはバキなのだねという。例の、ひとを守ろうとする感情のことだろうか。


そういうわけで、僕らの知らないところでアライjr.はふられていたのでした。恋愛に関してはアライは相手にもされていない。だから、敗者にすらなっていないのだ。ふんだりけったりだな。


そして現在。梢江が学校にむかうためパンをくわえたまま家を出る。それほど急いでいる様子もないのに、そのパンはどういうアレなのか…。

そして隣の家からは、まったくおなじようにパンをくわえたバキが出てくる。ふたりは半年ぶりに再会したようだ。アライ編後というと、ええと、カマキリとたたかって、アメリカに行って大統領誘拐して刑務所に行き、オリバとやって、そんでピクルが出てきて…。ふーむ、これって六ヶ月もかかってるのか。


なにしてたかぜんぜん訊かないバキ。しあわせにしてたと言っても嫉妬もなく「だと思ってた」と応えるバキ。梢江はバキのケツを蹴りつける…。



(君が幸せでさえあるのなら

俺じゃなくてもいい…


そう割り切れるほど達観しちゃいない


まだ…


もう少しだけ

恋愛(この)の中に…)



複雑ながらたしかなつながりを感じ、ふたりは手をつないで仲良く学校にむかうのだった。



つづく。



まあ、作者が気になっていたことを片付けたってところなんでしょうか。

バキは梢江越えを果たしたということでいいんだろうけれど、今度は守るため(愛)ではなく、純粋にいっしょにいて共生する感覚(恋)として、梢江と関われるようになった、というほどのところか。その発想はなかったッ。


梢江は「バキ」に登場する数少ない女性キャラだし、いちおうヒロインってことでいいんだろうけれど、それでも一筋縄ではいかない感じは、やっぱこの漫画だな~。


というか、毎回おもうんだけど、バキってふつうに学校いってるんだな。出席日数とか大丈夫なんだろうか。大学じゃあるまいし。



しかしまあ、嵐の前のしずけさというものか、こうした日常の描写も、今後起こるなにかのためには必要なのかもしれない。


そしてこの感じだといよいよアライの再登場はなさそうですね。

まあ、べつにいいけど。




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