今週の範馬刃牙/第175話 | すっぴんマスター

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第175話/最終形態



タマタマに強烈な一撃をくらい、ついにピクルが本性を見せる。

歯茎が見えるくらい開かれた口唇のむこう、くいしばった歯は、どこか範馬勇次郎のようでもある。

ふんばっていた足にちからが漲り、徐々に開いてゆく。

バキはそのすさまじいピクルの様子に長かったたたかいの終了(フィナーレ)を感じ取る。

といっても、じぶんが勝っておわるということではないようだ。

どちらが勝つのかわからないが、いずれにせよ次の接触ですべてが決まるというような感覚だろうか。

ピクルの顔貌は背筋の凍るようなおそろしいものになっている。

範馬勇次郎的というよりはむしろ範馬勇次郎の背中的だ。

鬼の表情なのだ。


ところでバキは「長かったこの闘い」といっているが、週刊で感想を書いているためか、僕的にはそんなに長かったという感じはない。

はやく決着をみたいという欲求とともに、まだ終わらないだろうしそれに見たい、という気持ちもあったからでしょうか。

いずれにせよ、長かったという身体的な感じはぜんぜんない。

最大トーナメントが済んで以降はけっこうそういうファイトが多い気がする。

剣豪どうしの真剣勝負は、時間としてはどのくらいかはまたべつにして、もっている武器が一撃必殺であるだけに、内容を文章にするとほとんど数文字ということもあるかもしれない。

とぎすまされた刃をもつ超人間級のファイターどうしのたたかいも、そんなものなのかだろうか。


力み、血流がよくなったからなのだろうか、ピクルの右肩から左腰にかけて斜めに、大きな古傷は浮かび上がってくる。

誰かにこのときのことを語っている烈はこれを「青龍刀のような大振りの刃物を突き立てた痕」といい、バキは「機銃掃射を受けたような楕円の疵創」という。それぞれたとえかたがちがうのがおもしろいが、それはつまり、なにかべつのものにイメージを付託して表現し、じしんに返さないと納得がいかない種類の、つまり正体不明の疵だということだ。正体不明であるのだから、おそらく白亜紀のものだろうとバキは推測する。そしてそのこたえはピクルを背後から見ていた烈たちのほうがさきに知ることになる(バキがピクルの背面を見れないのと同様、烈たちも前面は見れないはずなので、これはちょっとヘンだけど…)。

烈たちは見たのだ、ちょうどたすきでもかけるかのように、その疵が背面にまで伸びているのを。

ティラノサウルスに噛まれた疵なのである。




「ピクルとはTレックスの顎から生還した勇者(おとこ)だったのです」



脅威としてピクルがティラノサウルスの牙を想起するところが、これまでいまひとつ納得がいかなかった。

だがこれでわかった。

体験を思い起こし、語るためには、それを通過したのちに生きていなければならない。

誰もが体験することでありながら、だから僕らはだれひとりとして「死」という、生のぶぶんとしての精神的身体的運動がどういうものであるか、ことばにすることができない。

おなじように、僕らは確実にいのちを奪うはずの衝撃…弾丸に心臓やあたまを貫かれたり、日本刀で首をおとされたり、核爆弾の威力を皮膚で感じたりという経験の感想を述べるということが、原理的にできない。奇跡的例外を除いて、こうしたことは「死」と同義であるから。

ティラノサウルスにくわえあげられ、疵が残る程度以上の咬合力で噛まれるという出来事もまたおなじ。

しかしピクルは、おそらく生物史はじまって以来の「ティラノサウルスに噛まれる感じ」を語ることのできる人物だったのである。

したがってピクルとは「死」をのりこえた生物である。

それも、おそらくはその腕力で。


その疵を見ただけですべてを直観した観戦者の三人は、感動やら畏敬やらの入り混じった昂ぶりを覚え、おもわず拍手をしてしまうのだった。


バキの相手にしているのが超人どころの騒ぎではないということを改めておもわされる、すさまじいエピソードである。


ピクルのからだが妙な音をたてはじめる。なにかかたいものを力づくではめなおす音とともに、ピクルの肩や腰、肘、手首が変形し、もりあがってゆく。


関節を組み変えた、ピクルの最終体型である。




いや関節の組み変えて…。



「え?


物語(はなし)が

闘いが進んでない?」


「決着は直後でした」



烈が読者の問いにカメラ目線でこたえたところで、次回へと続くのだった…。



いや~…



最終形態ってそういうこと?!



ほんとに「最終形態」でくるとは…。


いいけど。おもしろかったから。


最終的には「100%中の100%!!」とかあるんだろうか。


関節のくみかえということが身体の構造的に可能だとして、これにはどうした意味があるのだろうか。

見た感じは明らかに四つんばいになるための形態のようだ。

例のピクル・ダッシュを、もっともナチュラルなかたちでくりだすからだというところだろうか。


ただ、フリーザだろうと戸愚呂だろうと、こうしたからだに変形するためにはある程度の時間が必要だった。

つまり、実用的でないのだ。

下手をするとピクルはこの変形を、怒りに忘れてたったいま発明したのかもしれない。


いずれにせよ、いよいよ決着がつくらしい。

烈はちょっと笑っているようであるし、なんにしても悲劇的な結末ということはべつになさそうである。

なんか見たいような見たくないような…。


けっきょくはあほみたいにうきうきして来週チャンピオン手に取っちゃうんだろうけど。



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