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この漫画は、僕はてっきりふたりが宇宙に行ってから本格的にはじまるものかとおもっていたけど、最新刊の5巻でもふたりはまだ訓練、あるいは審査の途中だ。もちろんこの後、ふたりがすっかり宇宙飛行士として板についてきたあとでも、おはなしはそれとして進んでいくのだろうけど、いずれにせよ、作者のストーリーテリングには舌を巻く。
まあかんたんにいうと、すでに宇宙飛行士となって、日本人で初めて月面着陸計画に参加することになっている弟の日々人と、自動車開発の会社で働いていたが上司に頭突きをかましてクビとなった兄・六太の物語。ふたりは幼いころ、UFOみたいなものを目撃して以来、ともに宇宙飛行士になろうと固く誓い合っていた。ムッタが無職になったことを知ったヒビトは、母親と組んで、かってにJAXA(宇宙航空研究開発機構)の宇宙飛行士選抜試験に申し込みをしてしまう。兄としてつねに弟のさきをいっていなければならないと考えるムッタはいつも空回り、今回のことも複雑な心境で受け止める。
(日々人…
お前の気持ちは正直すげえうれしかったけど…
このまま行くと…
兄貴の俺がお前に引っぱられることになる)
こういう気持ちがムッタのなかにはひっかかっている。
そしてこの感覚は、5巻までのところつねに底流している。
さきに書いてしまうと、「宇宙兄弟」というタイトルで、「宇宙」ということばがどのように「兄弟」を修飾するのかということが重要な気がする。
社会人としての経験が長いためか、ムッタくんは基本的にスーツにネクタイで日常を過ごしている。
成功への道をたどる弟へのムッタの劣等感は、あるぶぶんでは「社会的」なものからきている。
そこには、衝動的に頭突きをくらわせて「無職」になったみずからのふがいなさと、「宇宙飛行士」という、夢とロマンのかたまりみたいな職業の対比ということもあるけれど、なにより「おれは兄なのに」「おれのほうが先に立って進むべきなのに」(できていない)という感覚が強烈にある。「~べきなのに」という意識は、さきに措定されたなんらかの動かしがたい公準のようなものを感じさせる。つまり、ここにあったのは、ある意味では「社会的な」、彼ら兄弟以外と対したときの、つまりムッタが「南波日々人のお兄ちゃん」と呼ばれるような、第三者的兄弟の関係性なのだ。
卑屈になっている兄に対し、弟はいう。
「今と昔で違うもんがあるとすりゃ
それはムッちゃんが…
昔みたいに張り合わなくなったってことだ」
ヒビトの近所に住むスミス夫妻は、「準備中」の兄を待っていたヒビトはつねに「足りない日々」をおくっていたんじゃないかと指摘していた。
この件でムッタは目が覚める。「兄弟」という関係性が、他者の見た社会的なものから、ふたりの我の張り合いに移行しようとしているのだ。
とはいえムッタはまだ試験の途中、ときどきその道のりの遠さを思い知り、またちょっと卑屈になったりもする。
なんやかんやで…、ほんとうになんやかんやで、ムッタは三次試験へとすすむ(その「なんやかんや」がこの漫画はおもしろいわけだが)。それは、三つの班にそれぞれわけられた二次試験通過者五人と、閉鎖環境ボックスで二週間すごし、与えられた課題をこなしながら、最終的に班のなかから「宇宙飛行士にふさわしい者」をふたり選ぶ、というものだった…。
この試験は三巻から五巻まで続くのだけど、JAXAの、課題としてのたくらみで険悪なムードになることもあったが、五人は閉鎖的な環境独特の信頼関係で結ばれ、それぞれに「この五人で宇宙へ行きたい」とこころのなかでおもうほどにもなる。そして、重要なのは、まったくの他人であり傍観者である読者の僕も、「この五人に宇宙に行ってほしい」といつのまにか願っていたということだ。こんな、なんというか「ベタ」な感覚は久しぶりだった。もちろんこれは訓練ではなく適性を見る試験であるから、現実的にはそうはいかない。ただ、そこにあったのは目標をひとつにするものどうしの連帯感、感情の共鳴であって、ここでいったん、ムッタたち候補生たちの意識は、「張り合い」「競争」から、宇宙船という閉鎖空間に築かねばならない小さな社会をいかにして保つかという、ある種の自然な「調和」にうつっている。三次試験もおわりにさしかかったころ、ムッタは、懇意にしていたシャロンという、宇宙飛行士的な「有名人」の名前をくちにし、ほかの四人が異様に食いつくのを目にして、ある種の感動を覚える。
(今まで…こんなこと一度もなかった
ここにいたんだ
誘ったら
喜んでついて来てくれそうな連中が…
ここにいたんだ)
このシーン…正直いってじーんときちゃったよ。
「宇宙飛行士」という記号が、皮肉な意味もこめてまだまだ「夢とロマンでいっぱい」なものだということも同時に痛感される。まだまだ遠い世界、彼方の「職業」なのだ。そう考えると、ムッタの「兄弟」の意識が「社会的」なものから「個」の張り合いに移行することも、残念だが現実的な方法だったんだろう。
とにかく、まだおはなしははじまったばかりというところかもしれないが、五巻までいっきに読んでしまった。こんなふうに先が気になる感覚って久しぶりだなぁ。連載はモーニング?読んでみたいけど、あいだをとばして読んじゃうのもなんかいやだな…。
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