オモシロー | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

仕事中にあったおもろいはなし。


社員とバイトの女の子、残業をしていたパートのひとなど、五人くらいでおしゃべりをしながら仕事をしていたら、金属バットを手にした高校生くらいのガクラン坊主のヤンキーがふたり店に入ってきた。僕らは顔を見合わせてなにごとかと訝った。しばらくなにも起こらなかったのだが、やがて店の奥のほうから、怒鳴り声というほど大きくはないが、明らかに誰かを威嚇している感じの矯激な声が聞こえてきた。つづけて本がばたばたと落ちる音。社員はすぐさま現場に向かった。やばそうな感じだったので、役に立つとはおもえなかったが、いちおう僕もついていった。だって金属バットだもん。「ろくブル」っすよ。


店の奥、ちょうど角になっているところに、ガクランの二人組みはいた。ひとりはとにかくものすごい怒っている。だがバットはもっていなかった。あとできいたはなしでは連れのもうひとりの坊主が取り上げたようだ。で、のび太くんみたいなめがねをかけたいかにも秀才っぽい少年が胸倉をつかまれて本棚にからだをおしつけられている。


もちろん僕らはあわあわ言いながらとめにはいる。店員には「ほかのお客さんいるから」という大義があるので、こういうばあいはけっこうかんたんに治められるものです。しかし坊主のほうはなかなか引き下がらない。からんでいるというよりは、とにかくのび太くんに対し憤っている。僕はわりと喧嘩の仲裁が得意だけど、坊主はとにかくいきまいてはなしをきかない。


坊主はなにやら「謝れ」というようなことをくりかえす。すると、のび太くんはいかにもふてくされた調子で、「(じゃあ)ゴメン」という言い方をしたのである。これでは火に油をザッパーンである。いよいよ坊主は怒った。はなしていた左手で胸のあたりを強く突いて、野比を本棚にはじきとばす。あわあわ。ちょっ…、たんまたんま。いやまじで待って。まじでまじで。ね、たのむよ。店ん中だからさ。外でやってよ。いや外でやられても困るけど。


そういう感じで、とりあえずふたりを引き離して、ヤンキーくんを外に追い出した。だがヤンキーくんは、おさえつけている僕や社員のほうはちっとも見ないで、ていうか目に入らない様子で、血走った目でのびくんをにらみつけ、外で待ってるぞコラというのだ。おい野比、おまえいったいナニしたんだッ!!井筒監督以外であんな怒ってるひと久しぶりに見たぞ。


とりあえず呆然としているのびくんを囲んで、僕らははなしあった。きいてみると、彼らは学校はちがうが中学三年のようだった。…マジで?あれで中三?!172センチの僕より15センチくらいでかかったんですけど。


で、ことの経緯をかんたんにきいてみる。どうやら、のびくんが叩いた陰口がどこかから伝わって、ヤンキーくんの耳に入ったもよう。え…?それであんなに怒っちゃうんですか最近の子は。陰口の内容は聞かなかったが、ほとんど親の仇って感じだったぞ。


ことばどおりに、彼は店の外で待っているようだった。だって、引きずった金属バットでアスファルトをこする音がここまで聞こえてくるんだもん。のびくんの絶望的な表情をみていてほんとうに心配になった。


僕らがそばにいるからか、坊主やその連れは店を出たり入ったりしながらもそばには寄ってこない。しかたないから様子見ようということにした。うちの裏口は正面を向いているし、それしかなかった。仕事中だし。誤解もあるかもしれないし、そうでなくてもこれからあとひくかもしれないし(地元の揉め事はそれがこわい)、同じ理由で警察とか家族を召喚するのも気が引けるし、とりあえずはなしあってみたら?というのがふつうの意見だろうが、とてもじゃないけどのびくんにそんな気力はないし、それを強制するのもあまりに酷だった。僕は彼のそばに立ってコミックスの包装をはじめた。のびくんは悄然とした様子で、どうするか考えているようだったが、おそらくあたまんなか真っ白だろう。喧嘩するタイプでもないだろうし…。ほんとうに気の毒でしたが、まあ因縁つけられてるのと変わらないとはいえ、きっかけを与えちゃったことはまちがいないからね…。


やがて一時間くらい経過したが、坊主たちはぜんぜん帰らない。どころか、なんか増えてるっぽかった。こうなるともはや彼らにはイベントであって、悪口がどうとかではなく、たんにおもしろがっているのだ。それならもうはなしあいなんて無意味だ。もういいよ、警察呼ぼうとなったが、のびはそれも躊躇する。要は、すでに決まっている高校進学がおじゃんになるのがこわいようなのだ。いや大丈夫だよ(たぶん)、君被害者なんだからさ、大丈夫だYO(たぶん)、といいきかせたけど、どうしてもそれはいやみたい。困りましたよまじで。短気な社員はもうかなりいらいらしている。


やがてのびのところに四人くらいの、同級生らしき子たちがやってきた。ふたりの共通の知り合いのようで、ことのはじまりから周囲をにやにやうろついていた連中だ。とはいえ、どちらかといえば、まあ見た目の印象だが、のび寄りのようで、おもしろがっているぶぶんも少なからずあったろうけど、いちおう味方のようだった。彼らは坊主たちが帰ったということを報せにきたのだった。


のびは彼らグレーな友人たちに囲まれながら店を出ていった。果たしてそれはほんとうだったのか、あるいは罠だったのか。そのあと彼がどうなったかは知りません。がんばっていい大学いけよ野比!!