第151話/点火
病院を抜け出し、ピクルの前に戻ったジャック・ハンマー。
座って柵にもたれていたピクルの顔面をジャックが連続で蹴りつける。柵は破壊され、ピクルは通路まで投げ出される。強烈な打撃だが、やはりたいしたダメージはない。
「ならば――
何故逃げる……?」
顔面汗だらだらのピクルが、なんと、ジャックに背を向けて逃げ出したのだ!
ピクルにとっては、ジャックは手のひらでつぶした蜂と同じだった。「地上最強のファックユー」を予期して彼がジャックを食わなかったのは、逆にいえばいちおう食おうとしたということであって、闘争から食事へという流れは、その意味では彼のなかで消化されているのだ。
そんなジャックが勢いも衰えさせることなく戻ってきたのである。インド人もびっくりだ。
「ジャック範馬
希有なる闘技者(ファイター)…
意図的な過剰負荷(オーバーワーク)
先行きをも鑑みない度を越した薬物摂取
四肢の切断をも厭わぬ骨延長の外科手術
明日に期待せず――
刹那(いま)に徹した生き様」
強くなるためになんでもするというジャックのありかたは、たんに生きることの延長に畸形的に強さを得た超天然ファイター・ピクルには、最初から「不自然」きわまりないものだったのだ。ピクルにとってジャックという人間は根本的に恐るべき存在だったのである。
だがにんげんはどこまでも恐怖に背を向けていられないのだ。逃げるピクルと追うジャックは東京ドームの外に出る。一般人もふつうにあるく路上に出たピクルが、なんともいいがたい表情で恐怖をふりきり、咆哮とともに歩く死人ジャックに向き直る!
つづく。
まさかこんな展開になるとは…。
言いたいことはわかる。だが、ということは、ピクルはジャックを死んだものと考えていたということだろうか?
もちろん、彼は言葉も、もしかしたら他者も持たぬ原人であるから、そもそも「死」という概念を理解していない可能性もある。というか、たぶん理解していない。あるのは敵の機能停止という直覚だけだろう。また自然界では動けなくなることはそのまま死につながることでもあった。ジャックだってあのままほうっておかれたら、つまり応急的な処置もされないままに放置されていたら、どうなっていたかわからない。いや、たぶん立ち上がるんだろうけど。
そしてさらに、ピクルの前では、ここでいう「敵」というのはすべて食料であったはずなので、したがって機能停止は「死」と等しいものだったのだ。
つまり、ここでこういうことが起こったのは、ジャックがどうとかいうことより、まずピクルがジャックをじつはしとめ損ねており、そのうえ倒した相手を食わなかったという、彼の人生ではかなり珍しい行動が重なったことで、あらわれてきたものなのだ。
ジャックの「不自然」な行動というのはどうして生まれでてきたものか。鎬センセの言い方では、ジャックの負傷がどの程度だったのか、つまり「ジャック的には」どの程度だったのかということは、よくわからない。しかし痛み止めや抗生物質を投与し、多少の休憩をとることになったことはまちがいない。だがそれは克己や烈もおなじことだ。しかし彼らが「つづきをッッ」といってくることはなかった。それは、もちろんすべてを出し切ったという納得のようなものがあったからだろう。ジャックがすべてを出し切らなかったというわけではないが、どちらにしても彼のなかでたたかいは終わっていなかった。仮にピクルが故郷の世界で、瀕死まで追い込んだ恐竜を食わないということがあって、しかもなんらかの幸運でその恐竜が死ななかったということがあったとしても、たぶん恐竜は「つづきをッッ」とはいってこない。そういうわけで、この状態は、ジャックの特別性とピクルの特別なふるまいが重なることで生じた、きわめて特殊な状況というわけだ。ピクルが恐慌をきたすのもむりはないのかもしれないな。
だが逃げたとはいっても、ピクルはジャックに向き直っている。彼の前に立つジャックは、「ほんらいありえないもの」としてそこに顕現している。したがって、ピクルにとってこの勝負は、みずからのカバーする領域から認識を広げようとする試みであって、きわめて主人公的な「成長のチャンス」なのである。ほんとうの主人公をさしおいてピクルがいま試練の道に踏み出したのだッッ!!果たしてピクルはこれ以上強くなるのか?!そしてジャックに引き出しは残っているのか?!!
せっかく闘技場で、ひとのめを気にせず好きにたたかえる環境にあったのに、外に出てしまった。もしかするとこのことも今後勝負にかかわってくるのかな。
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