今週の範馬刃牙/第114話 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第114話/羽化


ピクルの先導で刃牙と花山は地下闘技場にきていた。烈と命のやりとりをした、ピクルにはおそらく神聖な空間なのでしょう。シチュエーション越しに喧嘩を売るピクルに対し、しかしバキのリアクションは微妙だ。なにかが主人公をためらわせている。


それでも、徳川さんにあおられてバキは上着を脱ぐ。そんなバキの心中を察したか、花山薫が男前にぼそりと「いいのか…?」と訊ねる。なにが?


「こんな初(うぶ)いのを巻き込ンじまって…」


ピクルにはもとより「命のやりとり」のような重い認識はない。それは彼にはふつうのことだから。だがそれ以上に、おそらくはその圧倒的な強さゆえ、本質よりは表面の「なんかおもしろそう、強そう」という感じのほうが勝っているのかもしれない。


バキは五年前の夜叉猿とのファイトを思い出していた。ユリー・チャコフスキーに完膚なきまでに叩きのめされた13歳のバキは飛騨へと修業に出かけた。そしてわざわざ夜叉猿の巣にのりこみ、これを「命のやりとり」に引きこんだのだ。バキはこのミスをくりかえすことをおそれている…?ほんとにそうなのか?


「迷惑なハナシだ

チョットだけ退屈してただけなのに

チョットだけ遊んで欲しかっただけなのに…


俺はそれに乗じて思いを遂げようとした


バカをやるところだった…」



いやそんなことない、やはりバカだよ、キミは。
ポケットに手をつっこみ、相手から視線もそらして冗長にしゃべりまくるバキはピクルの動きに気付かない。身を沈めたピクルの、大砲みたいな後ろ蹴り(横蹴り?)が中段にモロだ。ものすごい迫力の絵である。炎か気のオーラみたいなものが噴出している。


ぐるんぐるん回りながらセルにはじかれたミスターサタンみたいに、主人公は一直線に客席に叩きつけられる。あまりの爆発力にあの花山が冷や汗をかいている。ばらばらに壊れた客席のなか、主人公がスゴイことになってる。乱暴な子供が遊んだ直後のGIジョーみたいだ。油断していたところをボディにもらったため呼吸困難に陥っている。意識はどうだかわからないが、とにかく戦闘不能のよう。


ははは、いやいやおもしろい。キミほんとおもしろいやつだよ。いやまじで。うん、こんな笑ったの久しぶりだわ。ははは、うん…いや、もういいんじゃない?ほら、あんまやりすぎるとアレじゃん、ね?はは。…ねえ、もういいって。聞いてる?ねえ…、おい大丈夫?…え?ええっ?本気?!これ、マジ?!


文字通りバキをぶっとばしたピクルが妙な動きをしている。からだをゆすり、横に伸ばした両手首をまわしながら勝利のダンスである。とってつけたようにベタな描写だけど、とにかくピクルは右手をあげて人差し指で天をさす。そして拳をつきあげ勝ち名乗りだ。時空を超えてもやはり変わらないそんな勝ち名乗りのしかたを、花山と徳川さんがある種の感動とともに見守る。



ピクルがあらゆる自己表現のもっとも原始的なかたちを示すいっぽう、花山たちは主人公のほうを振り返る。


「運んでやるか…

食われんうちに…」


いちおう精肉数十キロを胃に入れたばかりだし、ピクルに食う気があるのかどうかはよくわからない。しかし彼には祭式的な意味もあるのかもしれない。踊ってるし。一刻もはやくどっかに移動したほうがいいでしょう。動けぬ主人公など必要ない!


しかしこの「踊り」っていうのも…また掘れそうだな。吉本隆明『言語にとって美とはなにか』を読み返しておこう。



たほう、花山たちにおいしいとこをもっていかれていいとこナシだった克巳は、道場で鍛練を重ねていた。両の親指一本で逆立ちだ。彼の脳裏に浮かぶのはまだ両目ともあるおそらくは十年くらい前の父・独歩だ。指を鍛えることで握力を増強し、拳をかためる。じっさいには握力の強さが威力につながるわけではないのだとおもう。しかし握りの甘い拳では力はうまく伝わらない。そして指を鍛えることはそれじたいでも意味がある。極真会館の大山倍達総裁は、親指と人差し指の二本で逆立ちができれば、相手の鼻でも耳でもかんたんにもぎとることができるようになると語っていた(これは本人の体重にもよるでしょう)。拳云々ではなく、鍛えかた次第では指だけでもじゅうぶんな凶器となりうるのだ。


目があるとなんか別人みたいだ、幼い克巳を含む稽古生に独歩は語る。


「人間なら無論一パツ

正確に射抜きゃ牛でもイケる」


ていうか現在の独歩はどこ行ったんだろ?


逆立ちで道場を一周し終え、卑屈な笑みをたたえながら克巳は「相手が牛だったらどんなに楽か」とおもう。克巳は決して弱いわけではない。まちがいなく超人のひとりなのだ。


克巳がひとり稽古を続ける本部道場になにものかの影が迫る。うしろから見るとポギーの変装したグリマーマンのころのスティーブン・セガールみたいだが、「ゴッ」という足音からして思わせぶりだ、あのひとしかない。


これは型でもやってるんだろうか?空手以外なにもすがるものがない、ということは逆にいえばまちがいなく「空手家」である(じぶんがなにものであるかをひとことでいうのはじつはたいへんむずかしい)克巳の前に現れたのは、失った右足のかわりに杖のような義足を装着した烈海王である。烈はやや哀し気な表情で「同志よ…」と語りかけるのだった。

つづく。




…。
範馬刃牙、敗北!範馬刃牙、敗北!




なにをやっとんねん。



夜叉猿のとき、バキは明らかに喧嘩を売りにいった。しかし同じようにことばを解さない相手でも、今回はぜんぜん意味がちがう。シチュエーションまでしっかり準備され、喧嘩を売られている。バキはこれを、マナーの悪い幼児が大人に向かって「ぶっ殺す」と言ってるようなものと捉えていたんだろうか。しかしこのでっかい子供に関して、これはマジだぞ。


バキにはこれを断る他の理由があったのだろうか。それとも素で状況が読めなかったか…。

素っぽいな。



そして烈のいう「同志」とはどういう意味だろう。たんにたたかいに身を捧げた者ということか、それともピクル討伐に命を張る(張った)者ということか。いずれにせよ烈はなにをしにきたのだろう?危ないからやめとけとでもいうつもりか、あるいは独歩同様克巳の覚悟を見にきたか…。


なんにしても、ピクル歌舞伎町編は結局なんだったんだろ。剣持がぺしゃっとなって、服ゲットして、神心会ががんばって、花山がぜんぶもっていって、いいとこで主人公がマイペースにあらわれて、マイペースにくたばった。これらの背後では通して克巳が力んでるが、いまだにピクルと顔を合わせることもなく、残念な感じだ。つまりなんにも起こってない。まあ、主人公と花山がちゃんとしたかたちで関わってきたってのは大きいけど。せっかく克巳の面目丸つぶしな感じにしたんだから、もう少しバキか花山、がんばってもよかったんじゃないかな…。なんかいますごい克巳応援したくなってきてますわ。


範馬刃牙 13 (13) (少年チャンピオン・コミックス)

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