今週の範馬刃牙/第112話 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第112話/到着


『堕落論』(新潮文庫、角川文庫)所収の「日本文化私観」で坂口安吾は、「必要美」という概念について次のように書いている。



「(小菅刑務所、ドライアイス工場、無敵駆逐艦という、むしろ無骨な建築物にこころを動かされ、美を感じたことについて)
この三つのものが、なぜ、かくも美しいか。ここには、美しくするために加工した美しさが、一切ない。美というものの立場から附加えた一本の柱も鋼鉄もなく、美しくないという理由によって取去った一本の柱も鋼鉄もない。ただ必要なもののみが、必要な場所に置かれた。そうして、不要なる物はすべて除かれ、必要のみが要求する独自の形が出来上っているのである。(略)。すべては、ただ、必要ということだ。そのほかのどのような旧来の観念も、この必要のやむべからざる生成をはばむ力とは成り得なかった」


日本刀が、拳銃が、バイクがそうであるように。
たたかいという行為に特化したピクルの肉体は機能美に満ちていた。刃牙のようなにんげんにとってはなおさらだろう。花山からの連絡を受けて駆け付けた刃牙のピクル感想は、まず「キレイ」ということだった。


地上最強の18歳範馬刃牙と、史上最強のジュラ紀戦士ピクルだ。その他大勢にすぎぬとはいえ、仮にも大武闘集団の一員、背景と化している神心門下生も固唾を飲んでこの対峙を見守る。


連絡をくれただけでなく、おそらくは本人の多少の興味も手伝って、到着まで時間をかせいでくれた花山に刃牙が謝る。会ってどうこうってわけじゃないんだ。ピクル逃走を知り、なんかわかったら教えてとたのんだだけなんだ。…花山、怒ってないか…?この顔わ。



「ただ…

ただ会いたくて…

会いたくて会いたくて…

会いたかった…
それだけ…で
ゴメン」



…女の子に言われたい台詞だぜ。刃牙もこころなしかはにかんでいる。


と、ピクルが刃牙の眼前に握りしめた拳をつきだす。つかまえた虫を大人に見せびらかす子供か、枝に突き刺したうんこをつきだすアラレちゃんみたいな、無邪気な表情のピクルだ。刃牙もやはり子供に対するように、「こう…?」と拳をあげて拳先を合わせる。


ふたつの拳が触れ合う刹那、刃牙のからだが浮き上がり大きく回転する。


合気である。


ピクルと範馬勇次郎が、同じように拳を合わせて力比べをした際、腕力では勝てぬと悟った勇次郎がとっさに使用したのとおなじ技術だ。刃牙のにおいかなんかを知覚し、ピクルは動物らしくすぐに勇次郎を連想したのか。あるいは勇次郎をというか、これまでの人生ではあるはずのない、初体験の「技術」という概念が、ことばを使用しない以上からだで思考するしかないピクルの拳を突き出させたのか。アレ、やってみたいなと。やはりピクルは天才だった。


回転して上下逆さまになりながらも刃牙は上手い具合に足から着地する。しかし精神的衝撃はすさまじい。見たこともないような肉体の機能美に加え、近代武術の最高峰まで手にしていたのだ。ライオンが懐から拳銃を抜き出したようなもんだろう。


「恋い焦がれた女性(オンナ)の媚態を前に―――

かろうじて制御されていた少年の自制心


そして少年の五体に流れる呪われた闘気が

たちどころにリミットを振り切った」


…範馬刃牙、イキますっ!!

勇次郎から受け継いだワルーイ顔を見せながら、スーパーサイヤ人になった刃牙が左上段廻し蹴りを食らわす。さすがに身長差があるのか、刃牙はほとんど飛んでる。ピクルはこれをモロだ。瞳が揺れている。しかしもちろん倒れはしない。


直後、冷静に返った刃牙が平謝りに謝りだす。

爆発しそうなアレを、相手の誘いにのって解放したら、勢い余って高そうな服やぶいちゃった…みたいな感じかな。



うーん…。ここでこんなに焦り、ふつーに謝りだすというのは、対勇次郎と、そのために通らなければならない関門を除くと、刃牙の心理はもうパンピーと変わらない、常識的なものになってるんだろうか。

謝る刃牙に黙って背を向けたピクルは、おそらくはじぶんについてこいと、刃牙に合図するのだった。


そしてピクルたちが消えたあと、遅れてやってきたのは克巳だ。張り切ってあたまに巻いているバンダナがイタすぎる。かわいそうだけど、笑える。


「あの…
行っちゃいました…

刃牙…さんと
花山さんと…
3人で…」

「…ふ…
ふ…
ふゥゥゥ…ん」



ドンマイ、克巳。

つづく。


ピクルがどこに刃牙を連れていく気なのかはわからないけど、彼が刃牙の蹴りに特別ななにかを感じたことはまちがいない。ひとのいない、いい場所に移動してバトるのか飯でもおごるつもりなのか、ナニをするにしても、相手を誘うという行為にはコミュニケーションへの意志が感じられる。他者の概念抜きでこれはありえない。たたかうか喰うかしかアビリティのなかったピクルには珍しい行動におもえます。


そして、克巳の扱いがいくらなんでもオモロすぎる。というかオイシすぎる。ひどく恐れられている生活指導の鬼教師が、大声で問題児を指導中に噛んでしまったような状態だ。それか大きいアクションのせいでかつらがずれてしまったとか、怒鳴った勢いで一緒におならも出てしまったとか、そんな感じ。生徒は笑いをこらえるのに必死である。あんだけ盛り上げといて、平気でこういうことやるからなぁ…板垣さんは。上がり気味だっただけにかわいそうだよ。イベント成功後に丑嶋に拉致されたジュンか。まあそれだけにこのあとの克巳の行動は期待できるわけですが。

ピクルが先導したからとはいえ、特に克巳を待ったりとか伝言を残したりとかもなく刃牙たちが行ってしまったというのもなんかオカシイ。こんだけ神心会が集まってるのだ、克巳か独歩か、誰なのかはともかく、少なくともなにかコトが動いてるとみなすのが自然である。ピクルの媚態とやらに夢中で目に入らなかったとでもいうつもりかね?



あそうか、相手にしてないんだね。




でもいまの克巳はちがうぞ!ちがうんだぞっ!


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